「…ちょっと」
1年も経てば慣れてしまった朝練。終わって少しだけだるい体でまだ慣れない新しいクラスに入ると、自分の席のはずの場所にまたカラフルな頭をした奴が座っていた。緑の髪に眼鏡…ピン、と伸びた姿勢で読書を嗜んでいらっしゃる…まるで自分の席に座っているように見えるが、鞄がないのが少し気になる。もしかして分かってて座っているのだろうか?
特に気にすることなく自分の席の前に行った。昨日の青峰のように。
近くで見ても本当カラフルな頭だ。目に優しいくせに綺麗な髪をしている。女の勘でコイツも兄絡みとみた。
視線か、目の前の影にか。気付いた彼はこちらを見るなり一瞬だけ目を見開いた。
「お前が…」
「そこ私の席だけど、何か用?」
何か言っていたが聞いてないフリをした。兄曰く、人を近づけさせない言い方をすればあっさり退いた。まだ退けとも言っていないけど…まあそれはそれでいいや。
自分の席に座り教科書をしまったのはいいけど、さっきまで座ってた緑の髪の奴は机の前で私を見下ろしている。まるでさっきまでの私のようだが……頭が高い。縮め。
そっと見上げると同時に緑の奴は少し屈んで顔をまじまじと見てきた。あれ、デジャヴ。
「お前が赤司の妹か?」
「…そうだけど?」
え、何。なんなの。いきなり「赤司の妹か?」なんて聞かれて驚かない奴いたら私の前に連れてこい。
というかやっぱ兄絡みか…めんどうだな…。
「昨日青峰がお前のことを話していたのでな。気になって見に来ただけなのだよ」
なのだよ…。なに、変なの。…変人?
いやまだそうと決めつけたら悪いよね。でもおかしいんじゃないのっていうのはすでに分かってるし。なのだよ…どこかで聞いたことあるような、ないような。
「へえ?それでわざわざ私の席に?」
「…気分を害したのなら詫びるのだよ」
のだよ…。やっぱヘンテコ…あ、
「君、緑間真太郎?」
「そうだが。…赤司聞いているのか」
「昔ね兄から少し君たちのことを話してたのよ。君の場合、おは朝信者で何故か語尾に『なのだよ』を付けるとか」
「今日のラッキーアイテムは軍手なのだよ」
「いや聞いてないけど」
どうやら彼は聞いていたよりもおは朝信者のようだ。頭のおかしい人かと思えば、テストでは兄の下に必ず名前があるほどだというから頭はいいらしい。私と兄はどちらも1位を取るから緑間は3位ってとこか。なるほど、頭いい。
「…昨日青峰も言ったらしいが」
「?」
「赤司のこと何も知らないか」
またその質問か…。何も知らない、と言えば一応ということで理由も聞いてくる。私は部活が忙しいからと言った。あながち間違ってはいない。部活は何だと聞かれ陸上部と答えたが、何か関係してるのだろうか。
…そう言えばあの体育館から外見れば陸上部が練習してたっけ。
「………」
いや、関係ない。
後から知ったが、緑間も同じクラスらしい。バスケ部と関わらない、というのは少し難しそうだな。
思うが、何故二人とも私に聞いてくるんだ。彼にしか分からないことだっていくつかある。逆に私しか分からないようなことだって。さも当然知ってるだろ、みたいに聞いてくるのか謎で不思議だ。