一歩、一歩
no.(021 / 22)  

一つ決心したところで玄関の開く音がした、慌てて時計を見たら、兄さんが帰宅する時間帯だった。勉強しようと広げてたノートたちに全く手が付かなかった…。
兄は部屋の前を通り過ぎ、隣の自室へと入っていくのが足音で分かった。

今までならヘッドで音楽を聴きながら、極力何も知らない聞こえないという状態にしていたのだが…もうそれも必要ない。たまに音楽は聞くけど。

さあ勉強しよう、と向き直った時部屋をノックする音が聞こえ、反射的に応えてしまった。次に聞こえてきた声に私は吃驚した。

「征夜、入ってもいいか?」

「どうぞ」

ゆっくり開いていく扉に、内心慌てながら、動揺を悟られない様必死で平常心を装った。まさか兄さんだったなんて、完全に油断していた。
部屋に入った兄は一度こちらを見て、ベッドの上に腰を下ろした。兄が部屋に入って来るのって実はすごく久しぶりなんじゃ…それこそ、中学入ってから…はないか。でもその頃から兄は一度も部屋に来たことはないはず。お互い思春期だし、色々と気になる年頃だし。

ノートやシャーペンを仕舞ながら兄に向き直る。これ、もしかして一番いいタイミングなんじゃないだろうか。兄が何しに来たかは知らないけど、せっかくだから私の言いたいこと全部言ってしまおう。
話すなら早い方がいい。知ってほしい。

「ちょうど、よかった。兄さんに謝りたいことがあったの」

開口一番目にそう言い、兄の反応を待つ。一瞬呆気に取られる兄だったが、すぐに優しく微笑んでどうしたのかと続きを待ってくれた。

「私ね、今まで兄さんを意図的に避けていたの」

ちょっとだけ開かれた目に、そりゃそうなるよねと内心苦笑しながらも続けた。全てを言うには勇気がいる。でも今しかないって思えば焦るけど、ちゃんと言える気もする。

「兄さんを好きになってしまった罪悪感から、兄さんを避けた。こんな気持ち、普通は持っちゃいけないから。…持つはず、ないんだよ」

兄に対する気持ちに気付いてから、顔も見れなくなった。話すことも出来なくなった。久しく、という条件が付くが声を聞いただけで胸が高鳴った。一度会ってしまったら授業にも、部活にもうまく力が入らなかった。
女々しいけどそんなもん。ベタ惚れなんだって言ってしまえばそう片付くかもしれない。

だからこそ両思いだった時、どんなに嬉しかったことか。どんなに、恐かったか。私の一方的なものならまだしも、二人とも同じ想いでもし親にこの事がバレたら…二度と会えなくなってしまうだろう。
一人だったら、誤魔化しが利くのになぁ。

「……だから、今までまともに顔を合わすことがなかったのは、私のせいなの。ごめんなさい」

まだまともに顔も見れなくて、少しだけ逸らした目線で小さく謝った。仕方ないじゃない、私はずっとずっと片思い中だったんだから。でも謝る時は相手の顔を見なきゃいけないのは分かってる。分かってる…のに。その意味も含めてもう一度心の中でごめんなさいと謝った。この事はいつか、ちゃんと顔が見れるようになったら言う。そう決めた。
膝の上で強く握ってた拳に、一回り大きな掌が優しく包み込まれる。顔を上げると間近に兄の顔があって、兄は小さく笑ってた。

「いいんだ。俺も自分の気持ちに気付けたからな」

優しく笑う兄に、胸がきゅっと締め付けられる思い。どんどんいけない方に入っている気がするけど…でも悪くない。

「少しずつでいいから、俺と一緒にいてくれないか」

「…うん、」

兄の目には全部お見通しなようで、小さく笑った。
それがどんなに幸せで、どんなにいけないことだろうか――…。


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