距離の縮め方
no.(020 / 22)  

次こそは授業を受けるべく、1時間目終わりの休み時間に何食わぬ顔で教室に戻ると一瞬だけではあったがたくさんの視線を浴びた。
席に着くと雨宮が駆け寄ってきて心配の声をくれたが、大丈夫と返しておいた。私の中にあった問題も無事解決できたし、もう雨宮たちを心配させるようなことはないだろう。

「…なんかあった?」

「ん?どうしてそう思う?」

「なんか表情が明るいと言うか、雰囲気が違うと言うか…」

なぜそんなことが分かるのかと疑問に思った。たった1年の付き合いだっていうのに細かい。されど1年、よく仲間を見てると言ったところか。私はそれに隠すこともなくこう答えた。

「漸く、問題が解決できたんだ。やっとだよ」

「……うん、そっか。よかった」

ふわりと上がる口角を隠さず告げると、じっとこちらを見て本当だと確信すると笑ってよかったねと言ってくれた。安心したような、そんな笑み。どこか嬉しそうな表情に何故だか私も嬉しくなる。

「そうだ。さっきの授業ノート写す?」

「…そうさせてもらう」

…そう言えば、兄さんはさっきの授業どうするんだろう。



◇ ◇ ◇



授業を終え、部活も終え、いつも通りに帰宅した。だけどさすがにもうここまでする必要はないのでは、と改めて思う。
今朝、ある意味不意の事故で偶然居合わせた私たちは互いの秘めたる思いを…って、なんだか恥ずかしい言い方だけど。想いを、告げた。
奇跡的に同じ気持ちを持ってたから、ひっそりと秘密の恋人にまでなった。
それは、まあいい。問題はここからだ。

数ヶ月兄を意図的に避けていた。それはもう深く体に染みついたもので、今更それをやめるには些か時間が必要だ。避ける必要もなくなった今、以前のように戻りたいものだけど…どうやって接していたのかも、分からなくなってしまった。

兄さんにもちゃんと訳を話して…ああでもちゃんと話せる自信はない。私は兄さんみたいに、うまく切り替えが出来るような人ではないから。

まずは挨拶と、逃げないようにすることから始めよう。きっと大丈夫。



(兄に恋するなんて馬鹿げた話でもあったけど、今こうして気持ちを伝えて、恋人みたいな関係にまでなって、不思議と幸福を感じる)

(イケナイことって、なんだかすごく燃えるんだよね)


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