心臓さえ赤く
no.(017 / 22)  

「雨?」

近くの誰かが呟いた声に反応して、空を見ようと顔を上げかけたらぽたりと頬に何かが落ちた。空は曇りで小降りに雨が降り始めた。そういえば今日の雨の確率は78%だったか。傘は一応持ってきているから帰りには困らないだろう。

早急に部員たちに用具の片づけを命ずる。片付けが終わったらすぐ体育館で雨宿り。まだ小降りだったので直ぐ止むかとしばらく様子を見ていたが、予想に反して雨はだんだんと強くなっていき、雨宿りしていても地面に水滴が跳ねて足首にまで届く。これ以上酷くならないうちに終わりにして帰らせた方がいいだろう。
けど私はまだ練習がしたい。…体育館借りられないだろうか。使ってなさそうな体育館は…と。

「神崎、第4体育館は誰も使ってなかったよね?」

「うん」

「よし、今日はこれまで。お疲れ様でした。まだ練習したい者は第4体育館にて待機。私は練習できるよう先生に許可をもらってくるから」

さて職員室行くか。どれだけ残るか知らないけど。
後半の殆どが同級生たちに言っていた。恐らく、残るならあの子たちだけだろうし。という根拠のない直感。



◇ ◇ ◇



残ったのはやはりお馴染みの奴らというか、見知った顔ばかりというかなんというか。私の予想は大当たりだったというわけだ。嬉しいような、寂しいような。残って雨が酷くなってもよくないし、帰るという選択は間違ってないからいいんだけど。

許可をもらいに行った時、他運動部の顧問から近々行われる合宿の件について聞かれた。その件ならある程度纏まっていたから問題はない。あとはうちの顧問と話をすればいいだけだ。

まあそういう話はどうだっていいんだ。今は。
そう、今は…。


…どうして第4体育館の出入口に会いたいけど会いたくない色が見えるのかな。うん?
私の目はついに可笑しくったのか?そうなのか?

現在私は舞台のカーテンに隠れている。この位置にいれば絶対向こうから見えるはずがない。いやでも確かあの人目も普通にいいから見えてしまいそうだけど。
というかね、何故ここにいるんだ。と考えたが冷静に考えたらこの第4体育館バスケ部が使ってましたね。彼がいる原因はこれだわ。

「…部長、どうしてそんなにこそこそしてるの…」

「っ!!」

カーテンを握り締め色々考えてたらしい。背後に全く気付かなかった。
と言うかいつの間に。私がここにいること彼にバレてそう。神崎は「?」を浮かべながら私を見ていた。どうしよう、何もないフリして戻ろうかな…。

「…神崎こそ、どうした」

「ん、いや、あれって赤司くんでしょ?」

「そう、だね」

「…なんかあった?」

どうやら兄が来てることを伝えに私を探してたらしい。妙に言葉に詰まる私を不審に思ったらしい神崎は、同じようにカーテンに隠れ、こそりと聞いてきた。今更だけど絶対兄さんには私がここにいるってバレてる。私じゃなくても誰かがここにいるというのは気付いているだろう。溜息を吐きたかった。

「何もないけど」

「赤司くんのとこ行かないの?」

「?どうして?」

これって普通の受け答えだよね、そうだよね。
だって普通なら家に帰っても兄とは会話できるし、話があるならメールでも家でもいいじゃないか。もうずっと話してないけど。

「兄さんが私を呼んでたの?」

「…ううん」

「なら気にしなくてもいいんじゃないかな。多分誰が使ってるのか確認しに来たんだと思うよ」

見てみなよと意味を込めて兄さんのいる方へ指差した。
神崎はそれに従い、横を向く。

「…いない」

「ね?」

危なかった…。
内心ホッと息を吐いて舞台裏から出てきた。ついでに外を見ると雨も大分小降りに戻ってきていた。小降りのうちに終わりにしよう。
そして早めに帰って部屋に閉じ籠る。…完璧だ。

兄を一瞬だけ見たけどまだ練習着だった。あの人のことだからまだ自主練はしてるだろうから少しなら時間はかかる。逆算して今終わらせ、着替えて校門を出れば…まあなんとか。鉢合わせにはならない、はず。

「そろそろ帰るようにしよう。今なら小降りだしずぶ濡れになることはないと思う」

今の状態で会えば、この前のように逃げることは難しいしな。
我ながら尤もな意見で切り上げ、体育館を後にした。


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