友人Aの小言
no.(014 / 22)  

※第三者視点。




「無理はダメだよ?」

「このくらい問題ない。心配し過ぎよ」

ある日を境に記録ががくんと下がってしまった征夜になぜ落ちたのか、何があったか聞いても教えてくれなかったけど今は聞いて欲しくなさそうだ。これ以上の詮索はやめておこう。
元の記録、いやそれ以上に伸ばそうと一から練習し始めて早3日。着々と記録は元に戻りつつあるけど、それ以前に戻ること事態早すぎる気もする。この様子じゃあもうすぐ記録なんてあっという間に戻ってしまいそう。それだと体にすごい負担じゃないのかなとか。只でさえメニューが厳しいっていうのに。

「…本当にそんなにやって平気なの?体壊れない?」

「大丈夫……とはとても言えないけど、このくらいが今はちょうどいい」

余計な事を考えなくて済むから。

ちょっとだけ切なさを含んだ声で彼女は小さく言った。…余計な事って…何よ。そんなこと言われたらますます気になる。きっと本人は聞こえてないと思ってるでしょうけど。それくらい小さな声だった。

「余計な事って?」

聞いてしまった以上、それを黙って聞き流すなんて無理。
聞き返した時彼女は一瞬目を見開いたがすぐ目を細め、こっちを見るなり首を振った。その仕草がこれ以上聞くなという意味だとは分かる。

「……」

…ほんとに分からないわ。芯を見せないと言うかなんというか…。自分のことは絶対に自分で解決してしまう。私らのことも、部員のことも。全て彼女が受け持つんだ。そのせいで彼女がいつか壊れてしまいそうで、時々不安にもなる。彼女は私らの中じゃ一番小さい。頼れるけど、頼り過ぎちゃいけない、そんな存在で…。

「…分かった」

でもそれ以上は聞けない私が憎いな。どうしてだろうね、雰囲気…っていうのかな、聞くなと背中が訴えてる。そこまで言うなら何も言わないが…一瞬でも隙を見つけたら聞いてみよう、かな。

そういえば…昔はお兄さんと時々喋ってるとこを見たけど、今は全然そう言う姿を見ないな。何か関係あったりして。喧嘩、とか。…それはないか。あんなに仲がいいんだし。

「それ終わったら水分補給してよ?」

「分かってる。もう喉はカラカラだよ」

「なら先に飲んだ方がいいんじゃない?」

「いや、後にしたい」

「…ん。頑張って」

「ありがとう」

また走りに行った彼女の背中を見て、なぜか遠い、と思ってしまった。
私は…私らはいつになったら彼女の近くに行けるのだろうか。こんなにも近いのに。
何時か力になれたらいいのに…。

私たちに心配をかけるのが得意な征夜。本人はそんなつもり全くないでしょうけど、こっちはいつもハラハラしてるんだよ?
悩みがあるなら言ってほしいし、頼ってほしい。そしたらきっと田沼がいつもみたいに馬鹿してれば、征夜は横で明るく笑っていてくれるでしょう?
その背中にある重みも、私たちに分けてくれたらいいのに。そしたらきっと、きっと…。


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