じわじわ蝕む病のような
no.(011 / 22)  

「…はあ、は…っ」

先日、あの事があってから記録が伸びず、むしろ下がっている。あの日とは兄さんに会った日だ。いやぶつかった?まあ何にせよ会議の後の事。
あの日もあまり部活に集中できなかったし、やっと集中できたと思えばこれだ。さすがにヤバイ。なんせ一年とほぼ同じくらいの記録なのだから。

先輩たちには心配されるし、一年たちは隅でこそこそと話をするし、同級生からは慰めの言葉しか降ってこない。それが余計に腹立つ。
唯一の救いと言えばコイツらか。

「また落ちたねー。なんかあったの?」

「ぶちょー遅くなったね!今なら私が一番早いよ!」

「アンタはもっとデリカシーを持ちなさい」

何事も直球に来るから。一年たちは呆然としてるが、二年と三年の先輩たちは苦笑いでこちらを見ている。
別にこれが一年なら許せない発言だけど、コイツらだから許せる発言なのだ。特別、みたい。

「田沼は記録伸びたか?」

「伸びたよ!0.5秒!」

「それはすごいじゃない」

「えへへ!」

少し手を伸ばして田沼の頭を撫でてやる。すると彼女は嬉しそうに目を細めて成すがままの状態になった。犬なのか猫なのかわからない。だだ田沼は犬猫兼用でいいと思うんだ。時のよっては犬、今頭を撫でているこの瞬間は猫よう。…癒しだな。
優しく撫でてほっこりしていると横らから軽く手刀が入った。田沼の頭ではなく、私の腕だ。痛くはないので大丈夫。

「何するの雨宮」

「何するのじゃない。どうしたの征夜、最近変だよ」

変、か。自分では普段通りにしていたつもりだったんだが。やっぱり少し無理があっただろうか。
余計な心配されたくはないから、何でもない、そう言おうとしたらまた手刀が入った。今度は頭に。そしてちょっと痛い。

「部長会議の時、なんかあったんでしょ」

それはもう疑問系ではなく肯定を求めるものだった。雨宮は鋭い。さすが田沼の母をやってるだげの事はある。でもこれは例え母でも話せない事。

「何もないよ」

「嘘。だったらなんでタイムが落ちるの。いつもの征夜だったらボーっとなんてしない、神崎たちのクラスに行くことを躊躇ったりしない。…ねぇ何があったの」

なんてこった、自分でも気付かないところで知らず兄を拒んでいた。それが雨宮を心配させていたのか。気付いていないところまで気付くなんて…さすがだ。
でも…いくら雨宮でもこれだけは言えない。

「…ごめんね。でもこれは一人で解決しなきゃいけないことなんだ」

どうか分かって、お願い。これ以上詮索しないで。
その願いが届いたのが、呆れにも似た溜め息を吐き、

「…相談に乗れることあったら言ってね」

「その時は遠慮なく言うよ」

よかった、分かってくれて。それとごめん。
言えないよ、兄に恋しちゃって顔もろくに会わせてないのに会議終わりにパッタリ会っちゃったなんて。気まずい、でしょう。まだあの時の動揺を引きずってるらしい、とか。そもそも他人に相談できるようなもんじゃないから性質が悪い。
ごめんというと神崎たちにも言いなよ、と言われた。神崎たちにも心配かけちゃったか。

「もう一度基礎からやり直すよ」

まずは今のこの気持ちを立て直さなきゃ。
副部長に練習メニューを渡して、私は一人校内10周走りに行った。今は部活だ。いつもの私に戻らなきゃ。ただただ無心で走り続けた。


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