それは私と同じ色
no.(010 / 22)  

今日はついに…部長同士が集まる部長会議がある日だ。嫌でも兄さんと顔を合わせることになるだろう。避けるには極力、視界に入れなければいい話だ。
これが終わった後は普通に部活に行ってあと今回のことを一応副部長と話す。それだけ。
別に兄さんと会うのが嫌なわけじゃない、当然だ。むしろ会いたいし、声も聞きたいし、話したい。けど前のように話せないし私が一方的に悪い子だから、罪悪感いっぱいで話す事もままならないと思う。
まぁ話すということはないだろう。そう信じたい。

会議室2に向かう途中、顔見知りな先輩数人と、陸上部男子部長の久藤先輩と会い一緒に行くことに。着くまでの間、席はどうなってるのとか、どういう風に話せばいいのかとかいろいろ聞いておいた。
時間は大体30分から1時間程度のこと。今までの最高時間は25分らしい。意外と短いと思ったことを口にすれば、稀に部活が終わる頃に終わったと言う事もあるそうだ。長い時の主な理由は機材とかそういうことらしい。短い時などは議題がなくただただ駄弁ってただけだという。何この差。

会議室に入ると机の上にそれぞれ所属部活名の書かれた紙が置かれている。私の席は幸か不幸か、男バスの前らしい。机の形は長方形に並んでいるけど、目の前って…頭抱えたい。ものすごく。が、こればかりは先生が置くので何とも言えない。

「今回の議題は何だろうなー。一応いろいろ言えるように準備しないと」

「もしもの時はフォローお願いします」

「それ俺の台詞。フォローよろしく」

「無理です」

「ひでぇ」

宛がわれた席に座りながら隣の席だった久藤先輩と話す。部活のことでちょくちょく会話はしているから緊張などはない。初めて話した時から緊張など微塵もしていないけど。
まだ目の前に同じ赤はいない。まだあのクラスから人が出てるところは見てないから、遅れているんだと思う。少し安心した。

暫く久藤先輩と話をしていると視界の隅に赤が見えた。ついに来てしまった…。

「おーお兄さんの登場だぜ」

「そうですね」

私と兄を交互に見比べながら「やっぱ似てるわ」と苦笑している久藤先輩。席に座ったらしい兄からのものすごい視線を受けている。早く始まらないか。なんとしても兄を見ずに終わらせたいものだがそう簡単にはいかないだろう。

「赤司、お兄さんと喧嘩した?」

「?なんでです?」

「赤司兄がものすっごいお前を見てるぞ」

「ですね、無視で結構です」

先輩って鋭いのか天然なのか少し分からない。とりあえずあまり兄のことについて触れられたくない、ただでさえ赤が見えた瞬間自分のものとは思えないほど心臓が高鳴ったのだ。今すぐ家に帰りたくなる。いやもう帰りたい。
私に向けられている視線が一瞬消えると同時に隣の先輩が小さく笑った。

「ちょ、俺なんで睨まれてんの」

ぼそりと苦笑気味に呟いたその声を私は聞き逃さなかった。私から先輩を見たのか、変なの。

やっと運動部全部長が揃ったところで少しざわついていた部屋が自然と静まり返り、手の空いていたであろう教師数人が簡単に仕切る。
内容はごくありきたりな内容だった。前半に新入部員や部員の状況、後半にこの学校の理念。
私は時折来る視線に耐えながら周りの話を耳に入れつつ…でも耐えるのでほとんど精一杯だった。というかあの人ちゃんと前見てます?
耐えに耐え続けた会議は思ったより早めに終わり、

「でもやはり厳しすぎたら、伸びるもんも伸びないと思いますがね」

せっかくだから、と久藤先輩と部室まで歩きながら、今日聞いた事についてほんの少し話し合った。殆ど喋らずに何とか終わったが、終わった後も前からの視線は痛い痛い…。でも兄さんを見ずに済んだわけだ。

「帝光の理念とか、バスケ部だけが背負ってんじゃねぇからなぁー。しゃあねぇよ」

「そういえばバスケには一番力入れてますもんね、ここ」

「あーなんでも決勝戦で圧倒的な差で優勝したんだと。で、当時の校長がこれ一本でいこうとか。んで今までの校長にも引き継がれているわけ」

「……当時の校長って負けず嫌いな人だったんですかね」

「さぁ?…っと、じゃ」

「はい。先輩も頑張ってください」

男子の部室に到着し、そこで久藤先輩と分かれた。もう少し先の角を曲がったところで女子の部室はある。着替えて、副部長と話をして練習に参加する予定だ。
副部長は3年生だ。その人は去年も副部長をしていて、普通はこの人が部長なんだが前部長の仕事をしっかりばっちり見てたせいもあってか全力でやりたくないと言う。なぜ副部長はできるのかと聞いたが、支えるのが得意らしい。そして私に来たと言うのも一理あるとかないとか。

さっきもらった書類に目を通しながら読み歩き。よくもまぁこんなことが書けるものだ。
曲がり角を曲がった時運悪く、人とぶつかってしまった。
書類に目を通していて全く気が付かなかった。いけない、気を付けなくては。

「っ…すいません」

「いや、俺もすまない」

一言謝りながら顔を上げると心臓という心臓が大きく跳ねた。それも今までで一番大きく。何故声で気付かなかったのかも気になるが、それよりも。

「征夜……」

「っ…!」

何故兄さんがここにいるの。バスケ部の部室も体育館もここから少し離れている。バスケ部である兄さんがここを通ることは皆無、必要無いはず。どうしてここにいるの、どうして。

「あ!おい!」

気が付いたら逃げていたようで、陸上部の部室に来ていた。
どうやら兄さんの横を通ってきたらしい。よく掴まらなかったなと思う。

「はぁ…バカ…」

ハッとすると何も逃げたくていいじゃないかと思う程、バカみたいな行動と態度に反省、それと少しの後悔。扉を背にずるずるとへたり込んだ。同時に大きなため息も出る。
確かに会議中は兄さんの顔を見ずに済んだ、けどここで見ちゃうとはね。しかも完全に気を抜いていた。大きく跳ねたのはそういうこともあるだろうし何より、久々に顔を見たせいと言うのもあるだろう。

約半年ちょっと。
ずっと顔を見ずにここまで来たな。同じ屋根の下で暮らす家族が、血の繋がった片割れにここまで会わないとなると。

顔を見れた嬉しさ、声を聞けた嬉しさ。でも、

「………」

気付いてから触れてしまうと以前のようには触れられないと思うのだ。
兄妹であるなら尚更。

「…着替えるか」

だから気付かなかった。
あの時の兄さんの表情に。去った後の表情に。

声に含まれたその感情に。


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