「なまえ」
優しく微笑んで手を伸ばしている私の愛しい人。何時かは結婚もして子供も作って、一生この人の隣にいるんだってその時は心からそう思ってた。
でもそんな矢先、幸せな家族像は叶わなくなってしまった。
――彼が子供を守って死んだ。
トラックがアクセルとブレーキを踏み間違え、子供を轢きかけたところに彼氏が飛び込んで助けたそうだ。よくある話だ、だから何度も嘘なんじゃないかって考えた。いつかひょっこり家に帰ってくれるんじゃないかって。
幸い子供は軽傷だけで済んだらしい。
一年、二年、三年……何年待っても帰って来なく、漸く受け入れた。
受け入れて、ビルの上に立った。ただの気まぐれ。嘘、死のうと思った。
だってあなたがいないんじゃ、どうやって生きていけばいいのか分からないよ。
「みょうじっ!!」
呼ばれた気がして、目を覚ます。目に入ったのは最近になって見慣れてきた天井、その横に大分馴染んだ今の彼氏。
そういえば昔そんなこともあったっけか。まだそんなに昔の事じゃないのに昔のような気がする。ゆっくり起き上がると額から首へと汗が流れた。
どうして今こんなことを思い出すんだか。忘れるなって?今更。
「大丈夫か?随分と魘されていたが…」
『ごめんね、起こしちゃったね』
「そうじゃない」
とても心配そうな目に背を向けたが、彼の手によって戻されてしまう。目はまっすぐにこちらを見ていて、手は温かく、今の私には泣きそうなほどなくらい。どうして泣きそうなのかは分からない。でも心地いい。
「どんな夢だったんだ?」
『え?』
「私を置いて行かないで、いなくならないで。って」
『……』
「言いたくないならいい。でもいつか聞かせてくれると嬉しい」
そっと優しい手つきで頭を撫でてくれる彼に涙が出そうになるがそこはぐっと堪えた。今泣いたら思わず言ってしまいそうだ。昔のことを思い出しました、って。
すぐに言わせない辺り彼の優しさだろう。そんな優しい彼に甘えているのも私だ。…もちろん、いつかきちんと話そう。
―私この世界の人間じゃないんだよ。
そう言えるのには訳がある。
あの日ビルの上から飛び降りて死のうと思った。けど次に目を覚ました時懐かしい気持ちになる部屋にいた。考えて考えた結果そこは昔の、学生の頃住んでた自分の部屋にそっくりで。
しばらくしたら幼い頃に亡くなったはずの母がいるし(顔も自分の知ってる母親だった)私の記憶よりも若い父がいるしで訳が分からなくて、時間のある限り部屋の中を調べた結果(その後のことも纏めると)、自分はどうやら異世界にトリップ&若返ったらしい。
鏡見て自分の顔見た時、若いっていいわあ…と呟いてしまった。某探偵を思わず思い出しましたよ、私。
余談だが、その日は中学の入学式の日だったらしい。通りで制服が真っ白で綺麗なはずだ。いや元から白いけど。
自分が二度目となる中学校は全く知らない名前の中学校。何処かで聞いたことあるような気がするけど思い出せないや。