迷って巡る軌跡を辿れば

Step.27 触れようとする私と 1/2

最近、青峰くんがバスケをしない。しない、というのは私の前だけなのかもしれない。それと同時に彼の笑顔も減った気がした。
「どうしたの」と聞いても「なんでもない」と返されて結局は分からないまま。
彼の好きなバスケでもして、また笑顔が見れればと思って声を掛けても「めんどい」と以前の彼からは考えられない言葉が返ってきた。

青峰くんのチームメイトに聞けば、彼が突然強くなってしまったようで、試合がつまらなくなってしまったとか。自分と対等な者がいないとバスケの練習もあまりしないそうだ。
その強さを目の当たりにして、退部していった者もいるらしい。

それを誰かが「才能」だと言った。
誰もが欲しいであろうそれを彼は持っていて。羨ましいのだろう。
でも私はそれがいいとは思わない。
だってそれのせいで彼は大好きなバスケしあまりしなくなってしまったし、笑わなくも、なってしまった。今の私に、出来ることなんて…何もしてない私だったら皆無だろう。




桃井さんの言っていた通り、彼は屋上にいた。私を見るなり眉を寄せたけどすぐに直したのを、私は見逃さなかったよ。自然な足取りで青峰くんの隣に座る。背中にフェンスがあたって少し不安定な気持ちになる。


『青峰くん』

「…んだよ」

『なんでもない』


周りがどれだけ変わったと言っても、私の声に答えてくれる辺り、やっぱり優しくてかっこよくて不器用な、私の好きな青峰くんだ。にやけてしまいそうで口元に手で覆って隠した。好き。


「…1on1ならしねーぞ」

『うん』


どうやらまた言われると思っていたのだろう、彼にしては珍しい先手を打ってきた。しかし今日はそういうことが目的ではないので素直に頷く。

青峰くんと付き合うようになってから内緒である事に取り組んでいる。今じゃそれ程の腕にはなったと思うが、最近になってもっともっと真剣に取り組んだ。いや今までも真剣だったけどそれ以上に。正直しんどいが、青峰くんのため、彼らのためと思うと頑張れた。

そろそろ私がここに来た目的を果たそう。
私は息を静かに吸った。


『ねえ青峰くん』

「あ?」

『バスケ嫌いになっちゃった?』

「…嫌いじゃ、ねえよ」

『じゃあさ、今日は私の練習に付き合ってくれる?』

「何の」

『バスケ!』


ニカって笑って言って見せた。

私がここ最近になって真剣に取り組んでいるのがバスケの練習、というなんともお門違いだと思われがちな事。しかし私にはこれがいいと思った。青峰くんの笑顔を取り戻す…って言ったら笑われるかもだけど、笑顔の青峰くん私大好きだから。また見れるなら頑張るよ。

今では黄瀬くんくらいになら勝てたりもするほど上達したと思う。これも全てあのチームのおかげだ。今は緑間くんとやることが多いが勝てたり勝てなかったり。いつか紫原くんにも勝てるようになったら青峰くんとしてみたいと考えていたが多分それだと遅い。なら今はまだ弱いと思うけど少しでも楽しいと思ってもらえたら。
…私は青峰くんのチームではないから。


何度も「やろう」と言ってみたことはある。けれどその度に「めんどい」の一言で返されてしまう。それはやはり私が女だから、素人だと思っているんでしょ?バスケの練習をしてるのは秘密だけど、授業程度の事しかやらないってことしか彼は知らないから。

前に一度どうしてやってくれないのかしつこく問い質したことがある。それに返ってきた言葉に頭に来たことがある。結局は私が女で、素人で、弱くてつまらない。そう言いたいんじゃない。この日ほど女であることを恨んだことはないし、緑間くんや赤司くんが引くほどバスケに取り組んだことはない。


『ダメ?パス練習してみたいんだけど』

「……はあ、しょうがねえ」

『!ありがとう!』


上手く落ちてくれたみたいで嬉しい。バスケ関連で縦に頷いてくれたことは今までなかったので更に嬉しい。思わず感謝の抱擁をしてしまった。


『放課後に体育館前集合ね!あ、部活のことは心配しなくていいよ。赤司くんとは既に話してあるから!』


立ち上がり出口へ走って向って去った。扉が閉まったと同時に胸の奥で小さくガッツポーズ。
よし頑張っちゃお!





「体育館前……」



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