『オズ?こんなところに呼び出してどうしたの?』
「あ、うん。ごめんね、急に呼び出して」
『ううん。平気』
みんなで楽しくティータイム中、こっそりなまえを呼び出した。ティータイムには相応しくない、曇り空。まるでみんなの心の中の様に暗くて、何もかも嫌になりそうだ。
わざと外に呼び出して外の湿った空気を肺に入れる。
今から言う事を彼女が叶えてくれるかどうか、何度も考えたけど五分五分なところ。絶対、っていうのはない。
パンドラの公務員で、家が騎士の生まれだから、主を守るために人を殺すなんて簡単なことだと思う。っていうけどギルは辛そうだったし、もしかすると彼女も辛かったかもしれない。そんなのも含めて考え付いた答えがアレだ。
「お願いがあるんだ」
『なぁに?』
「…オレを殺してくれる?」
『………え?』
にこにこと笑うなまえの顔から笑顔が取れる。ああもったいない、どうか笑っていてよ。何言ってるの、と声は出てすらいないが口がそう言っていたような気がした。オレは変わらずの笑顔で言う。お願い、って。
『な、んで…』
「なんていうか、もうダメみたいだから」
『っどうして、』
「それは君たちがよく知ってるだろ?」
『…っ』
なまえを含むみんなの様子に気付いていない訳がない。みんなオレと居るとおかしくなってきてしまっている。ならオレは消えてしまおう、ただそう思っただけ。アリスの記憶探しは残念だけど、もう無理かもしれない。でもオレが死んでもアリスは消えそうにないし、探せるはずだ。
なまえの表情は暗くなる一方だが、ここはどうしても通しておかないといけない。自覚のあるその狂気をオレは取り払う事すらできない。ならば、と。
「なまえ」
なるべく優しく名前を呼ぶと俯きかけていた顔が一瞬強張った。少しだけ上がった瞳にはゆっくりと回る狂気の色。次第に瞳に水の膜ができてきている。
『出来、ないよ…』
「なまえ」
『嫌だっ!どうして?ねえ!』
悲鳴にも近い叫びが響く。お願いと呟くように言えば耳を塞ぐなまえ。瞬きするとポロリと落ちた雫。その雫を指で掬い顔を寄せ、額同士をくっつけた。いくら耳を塞いでいてもこの距離では聞こえないはずない。
「オレにはもう、時間がない。ねえなまえ」
『っ…オズが死ぬなら、私も死ぬ。だから、ね、考え直して…』
ゆっくりとなまえの口にキスをする。こんな時に何やってんだろオレ…。自分でも驚いたよ。なまえは嫌がる様子なく受け入れてくれてる。ゆっくり離れてなまえの手を耳から離す。ちゃんと聞いて欲しいから。
「これは君にしか頼めない。だって君が好きだから…」
『…っ!』
「なまえ、お願い。オレの好きな君のままオレを殺して」
我ながら卑怯な手口だと思う。それでもこうしないときっと手を掛けてくれないと思うから。最後に、想いを伝えることが出来て良かったなあとか、まだ終わってもいないのに。
オレの目をじっと見ながらどうするか悩んでる。なまえの目に映るオレは微笑んでてなんだか気持ち悪い。でもきっとなまえにはただ笑ってるとしか見えないんだろうな。
「……殺せば…いいの…?」
少しの間を置いての返事。オレはその言葉をずっと待ってた。オレはゆっくり頷いて少しなまえと距離を取った。なまえは腰に差してある刀を取り出しオレを見据えた。
覚悟の決まったなまえの目に、一瞬目を奪われ本当は死にたくないなと、オレが後ろを向いてしまった。
本音はそうだね、もっとみんなと居たかったよ。
『私もね、オズ』
剣を取り出す音がオレの耳に届く。
『あなたが大好き』
言い終えると同時に腹部に激痛とは言えない痛みが脳に伝わる。すぐに刺されたとわかったが、ここまできついなんてね…。
いきおいよく剣が抜かれて立っていられなくなったオレは膝から崩れ落ちる。うまく力が入らないや。なまえは刀をしまう事なくオレに支える。
途端凄く眠くなったオレはきっとこれが最後だと目を閉じた。
一筋の涙を流し、狂気に包まれ、笑うなまえの顔を見ながら。
最後に見た君の顔
(――ありがとう)
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狂気…狂気……。
修正 11/24