迷って巡る軌跡を辿れば

Step.2 それが漸くの安寧だと知らずに 2/2

刀剣side




己を握りしめ、全身に神経を集中させ、何時如何なる時でも敵を排除できるよう構え、常に警戒していた。このような日々を、もう何日、何週間、何ヵ月と続けている。
あの地獄の日々が終わって漸く、俺たちは自由になれたというのに。政府と言う輩はまた新たに審神者を送りつけてきた。いらないと追い返して何度もまた別の審神者、いや人間を送り付けてくる。そしてどの人間も言うのだ。「手入れだけでも、」と。
手入れは俺たち刀にとっては重要だ、しかし人間の手に触れられるというのがどうしても癪に障る。

人は汚い生き物だ。

人間の手に作られ、愛されてきた俺たちが、何故人間なんぞに穢されなければなるまいか。昔の、そう、同士たちが振るわれてきていた時代の方がよっぽどいい。時代の流れとは酷である、だが同時に世は美しかった。
昨日も審神者を送ってきたのなら今日も送り付けてくるだろう。そしてまた追い返してやればよい、さもなくば脅して、それでも駄目ならこの手に掛けるしかあるまい。

つかの間の安寧。近しい存在の者たちとの語り合いもほんの一握りのこと。
突如ここ、本丸の入り口から新たな気が流れを感じ、新たな審神者がやってきたころを告げる。瞬時に全員、柄を握り締めた。
今日はどのように追い返そうか、そんな会話も今じゃ日常茶飯事だ。驚かすのが好きな奴はニヒルな笑みを表に、きっと裏では酷な事を考えていることだろう。表面の優しい面を持つ奴はどう守ろうかを考えていることだろう。そして守られる奴も、どう守ろうとするか。
ぴりっとした重い空気が部屋を支配する。しかし審神者の足音どころか、その気は全く動いていないように思える。はて、審神者はやって来ていなかったか、それならまあいいんだが。ざわつく室内。気を緩めようとした、その時。

『………!!』

外で誰がの叫び声が聞こえた。何と言ったかまでは分からないが、その一声、いや一叫びで審神者がいることが再確認され、また警戒態勢に戻った。先程までの静寂は一体なんだったのか…いや気にすることはないか。声の少し後に、審神者が漸く動き出したのを感じ、気を引き締めて己を握りしめた。
暫しの静寂。玄関の開く音が僅かに聞こえた。もうじき、奴らが来る。そう思って襖の方を睨んでいたのだ。

しかしその襖から現れたのは二人の童ではないか。しかも身なりも、いつも見るものと随分と違う。…これは一体どういうことだろうか。政府とやらの新たな策か。そうなら俺は騙されん。
立ち尽くす童に、俺は問いかけた。

「…何用だ、人間よ」

童たちはこちらへは振り向いたものの、誰が喋ったかまでは分からずこちらの方をきょろきょろと探している。童たちは答えた、こんのすけがほしい、と。
得体の知れぬ童たちに、こんのすけを渡すなど。されど霊力の切らしたこの式神には、審神者の霊力を与えなければ、ずっとこのままだ。甦させるだけさせ、あとは切り捨ててしまおうか。もう人間とは話すのも面倒だ。
前のあれは、さぞかし酷かった。もう一度あれを見る羽目になるなら、俺たちはこのまま審神者を拒み、朽ちるのを待つだけの身となっても構わなかった。

獅子王からのアイコンタクトに許可をし、事の成り行きを見ていた。こんのすけを受け取った童の女子は始めにいた場所に戻って行った。本来審神者ならすぐに霊力を与え、式神なんぞすぐに動かせるはずなのだが。この童たちはちとおかしい。こんのすけを撫でる手付きは優しい、表情もまた優しげだった。それを見ていた兄弟刀は羨ましそうに見ていたが…いいやもう一振り同じような目で見ていた刀がおった。

女子の声につい答えてしまったが、そのおかげで女子と目を合わすことになった。真っ直ぐで芯の通る、あれとは大違いの目をしていた。……俺を見る目も、あれとはまた違うのが目に留まったが。
暫く撫でている様を監視していればこんのすけは目を覚ました。奴は言った、温かい霊力、と。話はどんどん進んでいき、まるで俺たちのことなど忘れられてしまったかのよう。童の男の声で漸くこちらに気づき、侘びと感謝の言葉が添えられた。
こんのすけは無事目を覚ました。もうこれでよいだろう。立ち上がろうとしたところで女子の叫び声と、スパンといい音が聞こえたのだ。…何やら口論のようだが…。
呆気に見つめる俺たちを差し置いて、今度は男が笑い出すという事態になっていた。状況が読めずこんのすけを見るが奴もまた呆気に取られていたようだ。そのうち女子はこちらに向き直り、

「自己紹介…及び呼び方は考えとく。今一度状況を理解したいから退くわ。ほら行くよこの馬鹿。笑い過ぎ」

と笑う男を引きずりながらこの部屋を後にした。遅れてこんのすけも出て行ってしまった。
暫く呆然としたまま時刻はゆっくりとすぎ、漸く追いつき思ったのは人間がこの屋敷にまだいるということだった。ぽつりと誰かが呟いた。
「まるで嵐だった」と。今すぐ人間にこの屋敷から出て行ってもらうよう言いたいところだが、時間がたった今人間がどこに行ったかも分からない。更に今この状況でこの部屋を出るには少し危うい。何せ全員中傷、重傷者ばかりなのだ。あの童二人がどのような力を持つかは知らんが、少なくとも一人で出歩くのは些か野暮というものだ。ここは一旦、待っておくとするか。
何人かが探して追い出してくれればいいんだがな。まあそうも言ってられまい。審神者が行く場所なぞ大方目星は付くが……まあすぐでなくともいいだろう。



綺麗な魂には皆惹きつけられる。それがあの童たちの事だと、まだ知らない。



20150705
これにてこの話は終わり。刀剣視点も書けたので大方満足です。(最後ちょっと無理矢理だったかな)


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