『真太郎!ちょっといい?』
「…なんなのだよ」
騒がしい昼休み。いつも鬱陶しく一緒にいる高尾が珍しく席を外している時のことだった。中学からの知り合いであるみょうじがこれまた珍しく緑間たちのクラスに来たのだ。内心驚きながらも緑間は読んでいた本から顔を上げ、みょうじを見た。心なしか、いつもよりにこにこしている。思わず眉を寄せてみょうじを見据える。
その目に気付いたみょうじは苦笑いしてそのまま流しておき緑間の隣まで来た。
『これなーんだ?』
言いながら手に持っていたものを緑間の前に付きだす。緑間は一度それを見ると再びみょうじを見上げた。
「これがどうしたというのだよ」
『もう、相変わらず鈍いな』
みょうじの手にあるものは2枚の細長い紙。緑と黄緑の短冊だった。それがなんなのか分かった上での回答だったが、彼女には伝わらなかったらしい。それを1枚、緑間の机に置くともう1枚は彼女の前で揺れニヤリと笑った。
『今日七夕でしょ?真太郎もたまには願い事してみたら?』
私も書くし!と勝手に緑間の机を漁る。緑間はその行動に怒るが、彼女のいう通りたまには願い事してみるもの悪くない、と思っていた。
ペンケースを出した緑間は「今書くのか」と聞く。それにみょうじは肯定した。
『私の願いはもう決まってるの。それでね、部活後時間ある?』
「あるが、どうかしたのか」
『願い事書いたら一緒に飾りに行こうと思って。いいでしょ?』
「行ってやらないこともない」
『ん、部活終わったらメールして』
話してる間に短冊に願い事を書き終っていたみょうじはそれだけ言うと自分のクラスに戻って行った。それと入れ違いに高尾も戻り、自分がいない間に増えてる緑の短冊とペンケースを種にからかうのだった。
(少し遅くなってしまった)
部活を終えた緑間は言われた通りみょうじにメールをし、返ってきたメール内容の待ち合わせ場所に向かっていた。心配なのはいつもより部活の終了時間が遅くなってしまったこと。メール文面を見る限り怒っている様子はないが、遅れてしまった申し訳なさから自然と足は速くなる。説教なら合流してからいくらでも聞こう。だから今は一秒でもみょうじの元へ行かねば。
待ち合わせ場所である秀徳から一番近い公園に入るとベンチに座って携帯片手にこちらを見つめるみょうじの姿があった。彼女はまだ制服姿でまだ家に帰ってないのだと直感した。
急いで彼女の元へ行けば、彼女もこちらに向かって走ってきた。
「遅くなってすまない」
『ううん、部活お疲れ様。お疲れのとこ悪いね』
「いや…」
素直に謝れば彼女は全く気にしてない素振りで、むしろ緑間を気遣ってきた。そう言えばコイツはそうだったと内心思い出す緑間を他所に、みょうじの手が緑間の手を掴み引っ張り、次なる目的地へと進む。
「ど、どこに行くのだよ?」
『うん?展望台だよ。あそこに笹があるんだよ』
お空に近い場所だよー、と彼女は笑う。
目的地に行くまで他愛もない会話をしていればあっという間に目的に着いた。時間もそこそこだからか、男女のカップルらしきグループもちらほら見えた。そんなのお構いなしに彼女は展望台屋上、笹の元へ歩く。
『開いてるとしたら上か下だね…真太郎は上なんて簡単に出来…るね』
笹の横に開いてある箱の中に入ってある紐を取り出し、短冊の穴に通し笹ごと結めば終わり。みょうじが話している間に短冊を付けた緑間は話なんて聞いていなく、呆れた様子のみょうじをきょとんと見ていた。その様子に吹き出したみょうじも、緑間と同じように紐を取り出し笹に結んだ。
最後に叶いますように、と更に願うみょうじを横目に緑間はその空を見上げた。
「今年は綺麗だな」
『…うん!』
二人の脳裏に過ったのは去年の七夕。その時は曇り空で今このように綺麗な夜空が見えることはなかった。まるでそれがこの先の未来を不安に思う彼女らの心みたいだと誰かが呟いた。
今年は綺麗な夜空が見ることができ、二人の顔には自然と緩む。
『他のとこはどうか知らないけど、みんなにメールしておこ』
「見る暇があればいいのだがな」
『そうだねー』
ひとしきり笑い合うともう一度夜空を見上げる。
『…真太郎』
「なんだ」
『誕生日おめでとー』
「……ありがとう」
海を満たす星屑
(みょうじさんからメール?)
(“外を見て”?なんかあるんスか?…あ)
(…おー)
(わぁ綺麗な天の川!)
(外ー?…あ、室ちん見てみてー)
(こんな所でも綺麗なんだな)
thanks:反転コンタクト
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2日遅刻ですが、みどりんおめ!
20140709