迷って巡る軌跡を辿れば

Step.11 若き草はまた根を這う 9/28

物心つく前から目が見えなかった。母親と呼べる人はいなくて父親と呼べる人はいた。優しくて厳しい人。けどそれも優しさの一つだと知ってるから嫌じゃない。
たまにやって来る部下の人たちはみんな父を「かっこいい」とか「強くてたくましい」と目の見えない私に教えてくれる。そりゃそうだ、自慢の父親ですから。私はみんなから慕われている父親が大好きだった。目は見えなくとも分かる。

目が見えない事を不便だと思ったことはない。むしろ好都合な気がする。よく人は見た目でその人を判断するらしいが、目が見えない分耳が発達しているので、声でその人を判断するため余計耳がいい。
今日は聞き慣れない声の人が来ているので私は別室で大人しくしておく。それでも耳は澄ませてその人がどんな人なのか判断する。どうやらその人は新兵らしい。父の部下になったらしくその挨拶…と言ったところか。
話が終わったらしく扉が開いて閉まる音がする。父は一息つくとこちらに向かうようだった。


「なまえ、終わったよ」


優しい父の声。それに一つ頷くと立ち上がり、壁を伝いながら父の書斎に出てきた。
本来、私のような奴は普通いない。けど他に身寄りのない私は父の傍に居とくしかない。今更他人の世話にはなれない。邪魔だし、使えないし。人生の半分は私の世話に使われる。他人の時間を奪いたくない。でも父はそれでもいいと、ある程度動ければいいんだと言って私をこの部屋に置いてくれた。それでも忙しい父の時間を奪ってしまうことに変わりはないが。

そんなある日、父の膝の上でいろんな話をしていた時、ガチャリと扉が開いた。足音すら聞こえなくて突然の訪問に心底驚いた。相手も驚いてるようでこちらに向かってきている様子はない、というか足音が無い。
この部屋は私のためにと父が少しだけ床を改造している。どんなに忍び足で来ようと音が出る。不思議な床なのだが…音が無い=こっちに来てない、ということになる。今のうちに別室に移った方がいいだろう腰を浮かせたところで足音がこっちに向かってきた。同時に浮かせた腰も元に戻された。


「おい…そのガキは誰だ?」

「誰とは酷いな。私の娘だよ。ほら、前に話しただろ?」

「…ああ、そうだったか…」


あ、この声の人…この前の新兵さんじゃないか。かなり態度がでかい。けど、どこか信頼してる様子だ。なら大丈夫だろうか。声から少し棘を持っている気がするけど悪い人では無さそう。
ぺこりとそのままお辞儀をすると視線を感じた。多分、新兵さんだと思う。何が言いたいのか粗方見当はつく。なぜこんなガキがここにいるのか、と。新兵の方は必ずと言っていいほど聞く。けど父は以前私のことを話していたらしい。つまり私のことは知っているのだろう、物珍しさに見ているのだと頭で結果を出した。

暫くして視線は消え、話に入った。私は席を外そうと思ってるのだけれど、父がそれを許さないとばかりにお腹を押さえられ身動きが取れない。なるべく話は聞かないようにしておいた方がいいかな。
話が終わったらしく辺りはシンとしている。しかし新兵さんの足音は扉に向かわず、デスク前にあるソファに座った。それを疑問に思ったが私がとやかく言うつもりはない。一刻も早く、別室へ移りたいものだ。


「おいガキ」

『……?』


ガキ、というのは私のことだろうか。いやこの場にいるガキは私しかいない。ならば私だろう。私は応えるように軽く首を傾げた。私に言っているであろう言葉に私が反応していいのもか正直不安なのだ。
新兵さんはそのまま続ける。


「名前は?」

『…なまえ。なまえ・スミス、です』


あれこの人前に私のこと聞いたんじゃないの、とか思ってしまった。というかこう答えていいんだよね…?何かきついことでも言われるのかな…。


「そんなに睨まないでくれ、リヴァイ。なまえが怯えてしまう」

「……」


どうやらこの人はリヴァイ、という名前らしい。どんな人だろう、と少しばかり想像してみた。…リヴァイさん。名前を聞くだけでこんなに想像できるなんて久しぶりな気がする。


『り、リヴァイさん…は、父と同じ調査兵団なんですか…?』

「…ああ」

『あ、えと、頑張ってください!』

「ああ」


リヴァイさんとお話しするのはこれが初めてのことだ。その様子を父は黙ってみてくれていたらしい。リヴァイさんが出ていくと父は優しく頭を撫でてくれた。理由は分からないけど…ただ少しいつもと何か違った気もする。


「なまえも大きくなったね」

『?』


そう言った父の声は寂しそうだった。
父の言った言葉の意味が私にはさっぱり意味が分からない。



いつそれに気付くのか


20140521


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