『みーつけた』
誰もいるはずのない背後から突如知ってるような声がして反射的に振り替える。大抵は新しいチャンピオンの人だとかが興味本意、または本気で勝手に与えられた“頂点”という座(ずっと前に来た人が言ってた)を奪いに来る人の声に振り返っては見るものの、まさかここ数年会ってない人が今目の前にいるなんて。
『探したよレッド。何年ぶり?』
「…知らない」
『そうだよね、私も分からない。ね、挨拶代わりに』
バトル、しよっか。
ボールを手にする彼女は、僕の幼馴染みで、旅の途中から一切顔も、声も聞いてないなまえは、昔と変わらぬ笑顔で僕にバトルを仕掛けてきた。
『え、じゃあずっとここにいたの?』
「うん、まあ」
『…まさか半袖?』
「うん」
『……私一日も生きれる気がしない』
バトルは、なまえが勝った。ギリギリ、いやそれ以上のバトル。今までに体感したことのない、久々に熱くなれた気がする。お陰でバトル終了後、初めてと言っていいほど、このシロガネ山がとても寒いと実感した。
そして今、僕が寝泊まりする洞窟の奥で、僕の今までの経歴をピカチュウと説明していた。正直今となってはあまり思い出せなくてピカチュウの記憶を頼りに話してるんだけど。なまえはピカチュウの言葉にも耳を傾けてくれて、たまにピカチュウの頭を撫でてくれたりして、昔に戻ったような感覚だった。たまに街で会うと色々と話してたっけ。翌日には僕か彼女が先に街を出て、またどこかの街で会えたら、って話になって。
なまえの持っていたひんしのカケラ(げんきのかたまりはないと言っていた)で少し元気を取り戻したポケモンたちを、彼女は優しく抱きついていた。多分そのために使ったんだろうけど。
『私ここに来る前マサラに寄って登ってきたの。殿堂入りしてから久々の帰宅だったから、ちょっとのんびりしてきちゃった』
殿堂入り後、いつの間にか行方不明になってしまった僕を探す旅をずっと続けてたと彼女は最初に言った。何度か同じ場所にも行ったり来たりしたらしいが。その間にも昔歩いてた街は少し変わっていたと話してくれたり、グリーンの様子も教えてくれたり。とにかく色々と話してくれた。
『ここにもいなかったらどうしようって思ったけど、来てよかった…』
「…ごめん」
『レッドに放浪癖がなくてよかったよ。あ、すぐあちこち行っちゃう的な意味でね』
「うん」
『…ねえレッド、たまにお母さんに顔見せた方がいいよ。普段は明るいけど、本当は誰よりも心配してるんだから』
「そうだな…」
『それでグリーンも呼んでみんなで賑わいたいな。あの頃のように。ぱあーっと!』
「なまえ、おっさんみたい」
『お父さんっ子なのよ、きっと』
お互いふふっと笑うとなまえは立ち上がって僕を見た。
『帰ろうよ、我が家へ』
手を伸ばしてくれたなまえの手を掴んでゆっくりと立ち上がった。
そして君は歩いた
20140520