迷って巡る軌跡を辿れば

Step.17 ぴったりの距離 15/28

「好きです」


昼休みの屋上はなぜか人が少ない。もういないに等しい程。昼ってお日様の日差しが気持ちいいでしょ?静かなとこで寝るのが好きな私には絶好のスポットなのである。
そんな今日は珍しく客がいる。しかもとてもとても珍しい客二名。

誰かと覗く前に耳に届いた冒頭のあれ。こ、これはもしや…告白!!
とまあおふざけは置いといて。

最初のあの声は女子生徒のもの。なかなか可愛らしい声をしてらっしゃる。
音を発てぬようそっと下を覗くと男子生徒と女子生徒がいた。ふむ、貴様かラッキーボーイ。私から見て奥に女子生徒、手前に男子生徒がいる形である。
声を聞かずとも、後姿だけでラッキーボーイの正体が分かってしまう私は天才である。…嘘です前から知ってる人間ですから分からないと絶対ぼこられる。

いつの間にか男子生徒は女子生徒に返事をしていたらしく女子生徒は泣きそうな顔で屋上から去って行った。さらば初恋。(多分)
まあアイツの事だからフったんだろうな。モテ男め、もうちょっとマシな答えはできぬのか。
そのままじとーっと隠れながら男子生徒を見てたら突然振り返り、帰るのかと思いきや目が合った。

…………………。

いやいやいやいやいや。なんで初めから分かってました的に見るの?しかも一切ズレ無し?一瞬で目が合ったよ、なんなのあのチート、マジパねえ。


「いつまでそこにいるつもりだ」


いい加減降りてこいなまえ、と普通かつ棘のある声で名前を呼ばれた。いつまで、っていうか私最初からいたんですけど。私悪くない。ラッキーボーイである赤司征十郎は腕を組み、私を真っ直ぐ射抜いている。ひい怖い。ちょっとだけ距離あるのに怖い。
でもこの場所いいなあ、いつも私が見上げてるから、ラッキーボーイが見上げると言うのはとても良い眺めだ。降りたくないなー。


「……なまえ」

『はい只今!!』


とうとう痺れを切らした赤司征十郎は先よりもいくらか低い声で降りるよう催促してきた。動きたくない私でも動かすには十分の低さである。

私と赤司征十郎…征十郎は所詮幼馴染である。幼稚園からの付き合いで、俺様何様系につきもの下僕と言う訳でもなく、ごく普通の幼馴染…だと思う。
でも時々あのような、と言うかいつもより低い声を出されると過去の記憶が蘇って自然と体が動いてしまう。まあ特に本気と書いてマジと読むとき限定だけなのだが。私も征十郎もそれについてはイマイチ分かってない。


『只今最上!』


忍者のようにシュタッと降り立つとそれでいい、みたいな顔した征十郎が仁王立ちしていらっしゃった。ひいい近いとより怖い。嘘です、迫力はぱねえです。と言うかツッコミ不在ですか、そうですか。
征十郎は小さめなのは普通なのか、はたまたわざとなのかちょっと大きめのため息ついて腕を解いた。


「またサボりか」

『違うよー、昼寝!』

「とか言ってどうせ午後の授業をサボるつもりだっただろ」

『あーそれも一理あるかも』


なんせ身体は正直ですから!と冗談飛ばして世間話に花咲かせてると、征十郎がそっぽ向いてしまった。え、なんで!?こっち向いてよー!と顔の向きに合わせ動くと叩かれた。地味に痛いよこれ。馬鹿になったらそうするの!?


「聞いていたか、今の」


と普段からは考えられない少し弱めな声で言った。特に隠すことでもないので素直に頷いた。それを聞いた征十郎は小さく溜め息を吐いた。溜め息付くと幸せ逃げるよー?


『征十郎は今も変わらずモテるねー』

「好意は嬉しいが、毎度断る僕の身になってみろ」

『あはは、大変そうだねー』


声から出た僅かににじみ出る疲労感を感じ、もう笑うしかできない。労りの言葉に決して気持ちがないわけじゃないけど。
彼女作らないのかなー。あ、それはそれで嫌かも。今の時間取られたくない。
そもそも、と征十郎が話す。


「本当に好きな奴に好かれなければ意味がない」


と私の目を見て悲しそうな表情をした。タイミングよく私たちの間に風邪を通り抜ける。私は目を逸らすことなく、と言うか最初から征十郎の顔見て話していたわけだが。彼は気付いてるかな。気付いてたら少し動揺しないか。
今の辛そうな顔からして、と私は少し考える。まあつまり、


『片思い中ですか』

「……そうだな。向こうは見向きもしてくれないが」


今もアピール中なんだがな、と小さく呟いた征十郎が先に目を逸らした。お、珍しく征十郎が年相応に見えるぞ。それと同時にあの赤司征十郎のハートを掴むなんてどこのどいつだろうと興味が湧く。

…なんて言えるわけないじゃない。


『征十郎も人間で高校生なんだなー』

「お前は僕をなんだと思ってるんだ」

『人間離れした神様?』

「今即興で考えただろ」

『あは、バレた?』

「何年一緒にいると思ってるんだ」

『えーと幼稚園からだから……』


本当は知ってるんだ、征十郎の片思いの相手。
それが私で、その気持ち自身に気付いたのは中学からだって。昔からその気はあったのに気付くのが中学からなんてまだまだ青いね。

私なんて小学校から征十郎が好きだよ。
でもね“今”の征十郎じゃないんだよ。別に今の君を否定してるわけじゃない。
今の君じゃ、私はまだ気持ちは伝えられない。私だって辛いんだよ。


『私征十郎の恋応援するね!』


だから早く私の好きな征十郎に戻って。
そしたらお互い楽になれるよ。



条件を満たすとき
(今は手の平で転がしてるだけ)


thanks:コランダム


***
修正 5/15


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