遠くから見てると笑ってるのに悲しそう。
近くで見ると愛想笑いだけど嬉しそう。
私の元彼は人気モデルで、かっこいいから、有名人だから、モデルだから等、モデルの彼女と言うスペック欲しさに近づく輩は後を絶えず。というか私の通う学校ほぼ全員と言ってもいいくらい。
その元彼は時折私を見つけてはどこか切なそうに笑う。いや苦笑…?そんな表情でさえ、女子は黄色い歓声を上げる。
この際別れた理由は省くとして…。
女子のうるさい歓声から逃れるため屋上に来ていた。サボりの時にもよく来るのだが、二回に一回は会う青峰が珍しくいない。会うと言っても起きてるか起きてないかの差であって。
まあいないなら、いないでいい。
自分だけの特等席に腰をおろしそのまま寝転がった。今日の空は快晴。
控えめではあるが太陽の日を浴びるこの場所。その気はなくとも眠くなる。
「見つけた」
半分ほど眠りの世界に入った時、ふいに頭上から聞き慣れた声がした。聞き間違いじゃなきゃアイツだけど。目を開けると急な太陽に目が眩みながらも、それでもきらきら映るヤツは見えた。
有りの侭の気持ちを素直に伝える。
『何でいるの』
「サボりッス」
明らかに嫌そうに言ったのにも拘わらず目の前のヤツ――黄瀬は特に気にした様子もなくただ淡々と答えた。まるで何を言ってるんだコイツ、みたいな言い方で。
お邪魔するッスーと得意の愛嬌で、私の許可も聞かず隣に座りこんだ黄瀬は体制は違えど、空を眺めた。それからぽつり、ため息と混ざって、
「なんでか急になまえっちの顔が見たくなったんスよねぇ」
と横(正確には斜め下)からでも分かるほど口元を緩めながら、でも口調は呆れたように言った。なんでッスかね、と。んなもん私が知るわけない。と少しぶっきら棒に言ってもそッスねーなんて半分上の空気味に返された。どうでもよかったのでしばらくそのまま放置してみることにした。
「なまえっちはいつも口悪いッスね」
『これが素の女ってもんよ。知ってるくせに』
「まあ。…ファンの子たちもなまえっちみたいに口悪かったらと思うとおかしくてたまんない」
『…妄想乙』
それを重ねたのかくくっと笑いだす黄瀬とそれを横目に見ながらうわあと引く私。けれどその様子に大丈夫そうだなと安心している自分がいた。
――いつも通りだ。
「それでね、思ったんスよ」
『…?』
既に笑いが治まった黄瀬は改めた様子でこちらを見ていた。一瞬だけ目が合いすぐに逸らした私。
「なまえっちと…またやり直したいなって」
『………』
少し前…と言っても数ヶ月前、私たちは付き合っていた。別にモデルの彼女、みないな邪な気持ちもなく、本気で好きだった。お互い好き合っていた。それは紛れない事実で。
昔から付き合いはあったから関係自体あまり変わらない感じだったけど、そんなんでもうまくやってた。けれど別れを切り出した。それは私だ。
理由はその頃彼は仕事が忙しいみたいだったし、私と言う存在が、恋人という存在が邪魔になってしまってたら嫌だったからだ。別に気持ちが冷めたわけではない。今でも、好き。
別れてから戻っただけだよ。前の関係、幼馴染に。別に辛くはない。いっぱいいっぱい考えて出した結論だから。彼の事を思って出した答え、なんだから。
『別れを切り出した本人に言う?それ』
「だって…」
一拍置いて、こちらを真っ直ぐに見つめる。
来れ、本気の目だなあ。なんて呑気なこと考えてた。
「別れてから思ったんスけど、なまえっちと居る方が幸せで、仕事も楽しく思えたんス。あの時期は時期的に忙しかったスけど…でもなまえっちが、なまえがいたから。
付き合ってからもそんなに変わらなかったけどオレ幸せだったんスよ。でも別れてから胸に穴が開いた様に寂しいんス。
…ねえ、なまえ」
もう一回、やり直そうよ。
「もう一回」はダメですか?
黄瀬が口癖のようなものを取る時は本気なんだって知ってる。時々呼ばれるその声が好き。ちょっと慣れなくてたじろぐ私を見て密かに微笑む黄瀬を見るのも好き。
最後の方で泣きそうになったのは、きっとまだ一緒にいたいんだろうな。
『邪魔にならない?』
「うん」
『ほんと?』
「絶対ほんと。一緒にいようよ」
『…うん』
そういえば付き合うことになったきっかけも、涼太からだったなと何時かの記憶を思い出した。
***
修正 5/10