迷って巡る軌跡を辿れば

Step.26 溺れた君 21/28

「テツ君が溺れたらしい」


桃井さんは私に泣きそうな顔で言った。
そこは深い深い海で、私じゃとても助けれないと辛そうに言った。
何処にある海なの、と言うと「体育館」と答えた。
私はすぐに体育館へと足を向けた。



体育館の扉の下から水が漏れていて校門にまで続いていた。これはヤバいと直感的に悟った。私は急いで体育館の扉に手を開ける。
いつもの力じゃ開かず、思い切り力を入れて開けた。水のせいか、いつもより重い。


『黒子君!!』


開けてすぐ探していた人物を見ることが出来た私はその人の名前を大声で呼んだ。喉が少し痛い。けれど彼は私の声に気付いていないらしく、海へと引っ張られていく。

焦って私も海へ飛び込んだ。上着も着たまんまだ。泳ぐのが少し辛い。
必死で泳いでやっと見えた彼の姿。表情まで見えないが、酷く苦しそうにもがいている。ここからじゃ届かないのに、無意識に手を伸ばしていた。

しかし伸ばせば伸ばすほどどんどん引き離され、彼は海の奥深くに行ってしまう。

待って。そう言い掛けた時、幻覚のようなものを見た。それは今までのバスケ部で、楽しかったこと、辛かったこと。彼の初めての試合、合宿、文化祭、みんなの誕生日会、どれもみんな笑顔でどれも懐かしく思えた。
そこで気付いた。これは彼の記憶なのでは、と。
最後には青峰君の背中が遠く、遠くに行ってしまう映像でしめた。

黒子君が溺れた理由が、なんとなく分かった気がした。

ふと目線の横で空気の泡が過った。まさか、


『黒子君!!!』


水の中のはずなのに不思議と声ははっきりと出ていた。特に濁る事も無く、普通に話してるみたいに。
すると今度は聞こえたらしく黒子君の目がゆっくりと開いていく。次第に驚きと戸惑いの色を見せながらも私に向かって手を伸ばす。私もそれに応えようと近づいていく。
さっきは全く進まなかったのに、今じゃそれが嘘のように黒子君に近づける。

もう少し、

あとちょっと、


「なまえさ…」


黒子君がそう言った時、手に何か触れる感触を感じながら目の前が真っ白に光った。


ふと気付くと胸の中にぬくもりを感じ、目を開けると視界の下に水色の何かがもぞもぞと動いている。


『黒子君…?』

「…はい」


どうやら私は無意識に彼を抱き寄せていたようだ。多分あの時だと思うが、やはり記憶にない。


『よかった…』


ほっと息が出るのと同時に胸の中の彼をより強く抱きしめた。水の中にいたからか、服が濡れているのもあるが温かい。最初こそ抵抗の色を見せていた黒子君だったが少しずつ落ち着きそっと背中に手を回してくれた。


「…ありがとうございます」


そう小さく言った彼は果たしてどんな表情だったか。彼の肩に顔を埋めてた私には分からないけど。彼も笑顔だったら、いいな。



その数日後、テツヤは退部届を出したそうだ。




果たしてこれは終わりか



***
修正 4/22
BGMにイメソン集聞いてました。なんという雰囲気小説。


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