『おにーさん、暇?』
「…あ?」
彼、火神大我はつまらなかった。
元々アメリカでバスケをプレイし、そのゲームがどれだけ楽しくて、真剣か。その楽しさを当たり前と覚えたまま日本にやってきた。そして落胆した。近くの中学に転入した彼はお遊び程度にしかやらない日本人に。誰も本気でバスケなんてしないこと。
彼は愕然としていた。
そんな時だ。毎日の日課であるバスケの練習に励んでいた時、一人の少女が声を掛けてきたのは。
少女はそこらにいる子とは違う雰囲気を放っていることに火神は気付いた。
だから無視はできなかった。
「…誰だお前」
『通りすがりの学生?でいいよ』
「はあ?」
少女の返答に火神は顔を顰めたが少女は数秒考えた後、火神の持つボールを指さしながら言った。
『ねえおにーさん。バスケ好きなの?』
「…だからなんだよ」
『んーん、それでいいの』
少女はニコニコとした顔で火神を見上げる。それが火神には少し怖く感じた。少女は言う。
『ねえおにーさん。暇なら私とバスケしようよ。1on1』
しよ?と首を傾げ火神の返答を待つ。俺とコイツとで1on1?
女相手に本気にはなれない。それに見たところ自分より年下だろうしますますやる気にはなれない。
だがどうも断れないプレッシャーを放っている。
ならば手加減してこの誘いを受けようと了承した。
『言っとけけど手加減なんてしたら許さないから。おにーさんからどうぞ』
「許さないから」の件で声のトーンが下がったような気もするが気のせいだと思いたい。どこからシャキシャキと音もするがこれも気のせいだと思いたい。
今手加減なんてすれば危ないと身の危険を感じ、渋々久しぶりに本気を出してみるかとボールをバウンドさせた。
『で、手加減は?』
「っしてねえ…」
『ならいいの』
約10分間の1on1。勝者は少女だった。
ありえない、自分より小さくて、ましてや女に負けるなんて。
火神はこれでもかと言う程見た点数の差をもう一度見た。悔しい。本気、だったのに。だがそれと同時に嬉しくもあった。自分より強い相手が目の前にいること。久しぶりにうずうずする。日本では初めてかもしれない。
『まあ、伸び代はあるか…』
ぽつり呟いた少女の言葉は火神に拾われることはなかった。
「なあお前!」
『ん…なに?』
ベンチに座ってスポドリを飲んでいた少女に火神は迫る。スポドリから口を離し自分の話を聞いてくれる体制に入った少女に、多少の罪悪感はあるものの今はそれどころではない。
「お前強いな!名前は!?どこの学校に通ってrむぐ!?」
『うるさいよ。一度に聞かないで』
少女はいつの間にかベンチの上に立ち、片手で火神の口を押え、もう片方で耳を抑えたふりをしていた。つい、熱くなってしまった。慌てて落ち着きを取り戻したところで少女は手を離してくれた。
『赤司なまえ、帝光中3年よ』
「俺は火神大我。また1on1しようぜ!」
『…いいよ』
交えた約束
(“また”はいつのことになるのやら…)
***
修正 4/12