部屋に入るなりバリっという袋を開けるような音が聞こえた。またかと思い暇もなく音がする。気にせず奥へ進むとお菓子を食べてる彼女がいた。片手で俺のパソコンを触り、もう片方で菓子を口に運んでく。まるでニートだと笑いたくなるその姿。
部屋の主が帰ってきたと言うのに一切こちらを見ようとしない。どれだけ目の前の画面に夢中になっているんだか。
俺はとりあえず近くのソファに座った。ここからでも彼女の姿は見える。
今の彼女にはあまり近づきたくない。いや彼女の横にあるお菓子に、かな。
「今帰ったよなまえ」
『……ああ、おかえり』
「ただいま。それとあまり食べ過ぎると太るよ」
『太らない。臨也も食べる?』
「…それ、本気で言ってる?」
まさか、と言って嘲笑にも似た表情をする彼女はよくデキてる。
彼女は好きだ。人間を差し置いても。けれど彼女が持ってるソレが、俺は嫌いだ。そしてそれを知って差し出してくるこの時の彼女も、嫌いだ。
そして決まって、俺が睨むと彼女はイタズラがバレた時のような無邪気にも似た笑顔を張り付けてこう言うんだ。
『また失敗か』
彼女は俺がなまえという人を好きになってしまったことが不愉快らしく、俺の嫌いなものを俺の目の前で食べ始めたり、俺の居場所を静ちゃんに教えてたり、とか。しかもそれのどれもがタイミングのいい時ばかりで、こっちは仕事ができるかの綱渡り状態だ。最近は友人に教わったとかで鋏を刃物ののように投げてきたりもした。
そうして毎日俺が不快に思うことばかりをやってのける彼女を、俺は愛しいと思うわけ。でも彼女はそれを知らないだろう。例え内容がどうであれ、要は俺のことを考えてくれてるわけだよ?それだけで心が浮くような感覚だよ。
人間を愛して止まった俺をここまで夢中にさせるんだ。無意識って怖いね。
「とっとと俺の物になりなよ、なまえ」
「それは無理な話」
(そして彼女はいつ気付くのか)
***
修正 3/25