迷って巡る軌跡を辿れば

Step.31 赤子の祈り 24/28

『帝人…?』


バイトが終わっていつもみたく双子の兄と暮らすアパートに帰ってきた。帰ってくれば「おかえり」と笑って言ってくれる帝人がいるはずなのに今日はいつもの帝人がいない。
正しく言えば帝人は“いる”けど帝人じゃないその人。

私が帰ってきた頃にはセルティさんと何故か臨也さんがいた。臨也さんは新しいおもちゃを見つけた子供のような目をしてる事から、あまりよくない事だと思う。セルティさんはセルティさんで何事か分かっていない様子だった。
というか誰も私に気付いてないですね。


「やあなまえちゃん、おかえりー」

『セルティさんいらっしゃい』

「あれ?無視?」

《邪魔してる。ところであれは何だ?》

『私に聞かないでください』


呆れたふりをしていれば帝人が私に漸く気付き、私の前までやってきた。


「おかえり、なまえ。さっそくで悪いんだけど僕に付き合ってくれる?」


その声はいつもより少し低い声でこんなの知らない。こんな帝人は知らない。けれども体は正直かな、大好きな帝人の頼み事には軽く頷いてしまう。
彼はいつもの帝人じゃないのよ――…?


「では作戦会議をしましょう」


頷いた私にニコリと微笑むとすぐに表情を崩しここにいる三人を見渡して言った。
それから淡々と話しだす帝人に呆気にとられていたのは、私だけではないらしい。横にいたセルティさんが普段の帝人を知ってると仮定しても、驚いていたのは確かだ。ただ一人、それを面白そうに見ていた人物が言わずもがな分かるが……まあ後で聞いてみることにしよう。お金取られたらどうしよう。



◇ ◇ ◇



全て見届けてから一人集団からそっと出ていく彼。どうやら終わったらしい。一応携帯を片手に事の成り行きを見ていたが、まあなるほど。分からん。
同じように携帯を持って画面を見ている臨也さんにどういう事か説明を聞きだす。


「あれが裏のお兄さんだよ」

『…ふざけないでください』


一発かましてやろうかとも思ったが、帝人が近くにやってきたのでやめておいた。代わりに私が更に帝人に近づく。
明日からまた、私なりの日常を過ごしたいのだ。こんな人の違う帝人は見たくない。
帰ってきたら「おかえり」って笑う帝人、友人にからかわれて真っ赤になる帝人、非日常に憧れ、今日も池袋と言う場所で友人たちと毎日を楽しく過ごしたい。



きっともう来ないでしょう

きっとこの時点で壊れ始めていることは、気付いていた。
だから願った。のに。


***
修正 3/14
原作の覚醒部分を、ちょっとだけ。


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