迷って巡る軌跡を辿れば

Step.32 こんなにも貴方を 25/28

「俺たちって世間一般で言う“恋人”じゃん?」

『そうですね。…嫌なんですか?』

「まっさかー」


雨が鬱陶しい梅雨の季節。恋人である臨也さんに呼ばれ、大雨だったけど傘を差して、でも一分でも一秒でも早く臨也さんに会いたくて、走ってびしょ濡れになっちゃったけどやっと来れたのに。彼は一度も私の顔を見てくれない。
玄関でタオルとか温かい飲み物とかくれたけど、その際にも顔は一切見てくれてない。
これでも何年も付き合ってきた方だ。なんとなく何か考えてるのは分かってる。そしてそれがあまりいいことでもないと言う事も。

そして漸く目が合ったかと思えば、今まで見たことがない程真剣な顔した臨也さんがいた。この短時間で私の覚悟は、出来るだろうか。


「今日はね、君に話があって呼び出したんだ」

『話…ですか』


それから冒頭の台詞になる。
ずっと心の奥で恐れていた。ある意味凄い臨也さんと、まさか恋人になるなんて。いつ私が飽きられるかも分からないまま、何年もこの関係を続けてきた。いつ、彼が私が捨てちゃうのかなって。恋人らしいことは何一つ出来てないけど、一緒に居れた時間はあったからそれで満足…かな。

しかし彼から終わりを告げるその一言は出ず、ただ淡々と綴られる言葉の単語。それもどれもよく聞いた話ばかりだった。そしてそれは30分ほど続いている。
何が言いたいのかさっぱり分からない。何が言いたいの?そう思い始めた途端、ピタリと止んだ彼の語り。突然すぎて一瞬何があったのか混乱してしまった。臨也さんは何か考え込んでいるようで、全く視線が合わない。
呼んでみようかとも思ったが、あまりに真剣に考え込む臨也さんを前にして呼ぶに呼べない。
そうしているうちに彼が漸く口を開いた。


「俺って人間すごく好きじゃない?」

『そうですね、知ってます』


これは即答できる程重々承知のことだけど、それがどうしたというのだ。しかも今。
また「人間」について語るのかとも思ったがさっき語ってなかったかと頭の隅で思い出してみた。ちょこちょこその言葉はいくつか出てきてはいたかな。


「いつも考えていること全て君に塗り替えられる訳。だから君にその責任を取ってもらいたいんだよね」

『…それは別れろ、ということですか』


後半にあるにつれ、低くなっていった声のトーンと真面目な表情に戸惑いに近いそれを抱えつつ、私なりに考えて出てきた単語を紡いで言ったら、彼はその真面目な仮面を外して肩を竦め、呆れたように微笑んだ。
だって、そうでしょう。彼は人を愛しているんだ。罪歌…という人物?(前に聞いたけど何だったか忘れちゃった)、とは少し違うらしいがそれと対立するくらいには愛している。そんな彼の思考を邪魔してしまう私はいらないのだ。だから、と思ったのに。
どうやら私の考えと彼の考えは違うらしい。


「本当、君はどこまでもバカだね」


バカとか失礼な。いつもならそれくらい言えるのに今は何故だか言えなかった。精々気持ちを顔に出すくらいか。むっとしているであろう私は、黙って臨也さんを見据える。
そんな私を良しとしたのか、彼は定位置である椅子から腰を浮かしこちらに歩み寄り、私の手に彼のそれを重ねた。


「責任取って結婚しよう、って言ってるんだよ。なまえ」


あまり見ることのない穏やかで優しい笑みを浮かべる臨也さんを見て、これは夢なんじゃないかと目を見開いた。
だって、彼は私が邪魔だと思って、それは違うと言うのか、
目を見開いたまま固まる私に今度は違う意味で小さく笑った臨也さんはさっきと変わらない笑みを浮かべながら「返事は?」と催促する。


もしかして彼はずっとこの事で考え込んでいたんじゃないだろうか。考えすぎて私の顔すら見るのも忘れて…ってこれこそ考えすぎか。自惚れにも近い。
もしずっと悩んでいてくれたのだとしたら、私、


『…はい…っ』


今最高に幸せかもしれない。きっとこんな未来ないと思ってたから。
返事を聞いた臨也さんはこれ以上にないくらい嬉しそうな顔をして、私まで嬉しくて幸せで。きっと今どちらも幸せと言える表情をしてるんだろうな。どうしよう堪らなく胸がいっぱいだ。

いつの間にか嵌められていた指輪の冷たさに、これは夢じゃないんだと実感した。
どうかこのまま幸せであれたらいいのに。この人のこんな笑顔がもっとこれからも見れますように。
そんな願いを込めて臨也さんの手を握り返した。



幸せになりましょう。

前よりも一緒にいる時間は増えたけど、前よりも彼に送られる災難には、私も一緒に逃げ回る日々が続いてます。
でも、不思議と嫌とか、嫌いになるとか、そんなの全くなくて、ただただ楽しいです。
あ、でも、


「静ちゃんってばなまえにも容赦ないねえ」


私にまで自販機投げるのは止めていただきたいかな!


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修正 3/8


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