迷って巡る軌跡を辿れば

Step.34 この恋は叶わない 27/28

自分が特殊の中の特殊である存在だと知りながら、平凡で平和な人間一人に恋をしてしまった。
特殊と言ってもチェインであるから、この世界じゃ普通。けれどその中では珍しい、人型のチェインである。ほら、チェインって基本人ではない形をしてるでしょ?でも私の場合、何も知らない人間が見たら普通に人間として扱われてしまうくらい、人間っぽい人間。チェインだけど。
しかも黒うさぎと言われるアリスは元は人間だったらしいけど、私は希少な、というか前例のない0から生まれた人型チェインである。もちろん中身は他のチェインと一緒で誰かと契約して、過去を変えてやるとか持ち出して人間をズッタズタにしてやろうと企む極悪なチェインだ。あれ私何度チェインと連呼した?まあいいや。

話が随分と逸れてしまったが、まあその、私が人間に恋をした。
お相手はオズと言うごく普通の少年である。話によれば貴族の生まれだと言うらしいがそこらにいる少年らとなんら変わらない。そんな、普通の少年を好いてしまった。我ながら馬鹿だと、反省している。だが後悔はしていない。私みたいなのでも“感情”と言うものがあるらしい。
このままだと逸れる一方なのであれこれ含め、同じく人型のチェインであるアリスに今後どうしようかと一方的に押しかけてきたところだ。
何故アリスか?それは私の感情の変化にいち早く気付いた人物だからである。自分でも気付いていなかったから余計に驚いた。まさかアリスに気付かれるとはね…あは、冗談。


『ねえアリス。オズはやっぱり私が憎いだろうか?』

「…何故それを私に聞くのかは分からないが、そうなんじゃないのか。…でも、」

『?』

「最近のアイツは気色悪い。お前の名前を呟くからな」

『…へぇ』


アリスにしては珍しく苦虫を噛んだような顔になり、そんなに気持ち悪いのかと軽く想像してしまった。気色悪い…か。
正直、なぜオズは私が憎いのかすら分からないが、私に会うといつも目が冷たい。そんな奴にどうして惹かれてしまったものか…。心の中で何度目かも分からない溜め息が出た。


「…お前も、どうしてアイツがいいんだか」

『そうね』

「オズは私の所有物なのに」

『知ってる』


このまま嫌われる前に、姿を消しちゃおうかな。アリスにも嫌われたくないし。


「?おい、どこに行く?」

『ん?オズのところ』

「……そうか」


じゃあね、アリス。
そう心の中で呟いた。



◇ ◇ ◇



目の前にいる人物に思わず顔をしかめる。どうしてここに彼女いるんだ、と。アリスと話してたんじゃないのか、と。
彼女はオレを見るなり、困ったように笑った。でもそれが、彼女が今すぐにでも消えてしまいそうな感じがして思わず――。

思わず?
オレは今何をしようとした?

…手を伸ばし掛けなかった…?


『ごめんねオズ。ずっと苦しませて』


頭上に聞こえた彼女の声。なんだよこの違和感。待って、


『私ね、あなたが好きだったよ』

「は、」


なまえの言葉に耳を疑う。オレの言葉なんて待つつもりはないらしい。
言うだけ言って「じゃあね」と横を通り過ぎて行った。
足は縫い付けられたみたいに動かない。それどころか声すら出なくてそのまま立ち尽くしてた。




アリスが声を掛けるまで俺は動けなかった。アリスは何か知ってそうな顔をして、知っていることがあるなら教えてほしいと伝えると公開の波が押し寄せてきた。




好きでした。変でしょ?


なまえを憎い、なんて思ったことはない。ただ少し苦手なだけだった。
チェインなのに、人間であったことなんてないのに、人の心を人よりも上手く転がす癖があった。それでいて他のチェインと違うとこばかり。どうすればいいのか分からなかった。
それでいて彼女を理解しようとする自分にも分からなかった。


それが彼女が好きであると言うことに気付くわけがないんだ。



***
なんだかんだで実は両想いだった…この場合両片想いですね。


修正 11/29


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テーマ「人外ファンタジー」
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