見えない招待状
※ギャリー視点。
イヴを休ませてる間にこの部屋にある本を読んでいく。何かヒントはないのかと。でもハズレね、手掛かりなんて一つもなかった。
本をしまうと向こう側でがばりと音がした。イヴが起きたのかしら。
「あ」
イヴの方へ寄ってみると起きていて、でも少し顔色が悪い気もする。さっきので相当なダメージを負ったものね…。あえてアタシは明るく、明るく。
「おはよ。イヴ、気分はどう?」
「怖い夢を見た…」
「そう……かわいそうに。まぁ無理もないわね……あんな怖い目にあっちゃったら……ね。起こせば良かったかしらね。ごめん、気がつかなくて……」
首を横に振り大丈夫と言うには弱弱しい笑顔。そんな顔しなくてもいいのよ?無理だけはしないでほしい。まだ子供なんだから。
どうすればこの暗い表情を変えれるかと考え、そう言えば口が寂しいと嫌だからって思ってポケットに…。
「イヴ、そのコートの左側のポケット探ってごらん?」
イヴは言われた通り左ポケットを探る。それを掴みコレ?と差し出してくる。
「それあげるわ。食べてもいいわよ」
ニコっと言うとはにかみながらありがとうと言った。さっきよりは随分顔色もよくなったし、もう少ししたらイヴも動けるようになるかしら。
「じゃ、もうちょっと休んでから出発しましょ」
アタシは元いた場所に戻りまだ読んでいない本をぺらぺらと捲っていく。横でくいくいと服が引っ張られそちらへ視線を動かすとイヴがコートを持ってきてくれたらしい。
「あらコート……わざわざアリガトね」
コートを着るとイヴは本棚の向こうへと行ってしまった。
このまま無言もちょっとアレだしちょっと話しかけてみようかしら。
「ねぇイヴ」
「なぁに」
「イヴは美術館からどうやってここに来たか覚えてる?アタシなんかあんまりよく覚えてないのよねー」
「そうなの?」
「ええ。帰ろうと思って……ふとまわり見たらだーれもいなくてさ…。玄関も開かないから焦ってたら壁だった場所に階段ができてて降りたら……赤い壁の通路に出たの。……そのあとはわかるでしょ?」
「なんとなく…。私は絵に飛び込んだの。“おいで”って言われて…」
イヴもここまでの道のりを話してくれた。それからいろいろ話して、そろそろ行こうと言うイヴに本当に大丈夫?と確認すると大丈夫と笑った。あれからまた顔色も変わってるけど、本当に大丈夫かしら…。
「いい?辛くなったりしたら言ってね?遠慮なんてしなくていいから!」
「わかった、ギャリー」
部屋を出る。右にはあのマネキンの絵がいくつも飾ってる。見せないよう右側を歩き、階段を下りていく。階段を下りると紫の廊下に出た。なんか出そうね…。
進んでいくと左側にあった扉がどんどんと叩く音がする。イヴが見てみようとアタシの手を引っぱって歩いて行く。うぅ、情けないけどちょっと怖いわ…。
「あれ…」
「どうしたの?」
「開かない」
「鍵がどこかに…あら、覗き穴があるわ」
「……何も見えない…」
「この部屋は後にしましょう」
「うん」
来た道を少し戻りまた進んでいく、とさっき見た時はなかった黒い扉がそこにあった。
「…こんな扉あったかしら」
「なかった…と思う」
開けてみる、とイヴはその扉を開けた。開けるとそこは廊下になっていて、さっきよりもちょっと薄暗く、少し冷えてる。気もする。
「行ってみようよギャリー」
「でも何か出てからじゃ逃げ道…が…」
後ろを振り向くとそこに扉はなかった。
これ、ヤバイ?
見えない招待状
「…とりあえず、何かあったらアンタを抱えて逃げていくわ。行きましょ」
イヴと手を繋ぎ歩いて行く。暫くすると壁に額縁が何枚も飾られているのが見えてきた。あの赤い女とか青い女だったら逃げれないんですけど!
と思ってたけどどうやら違うらしい。そこには一輪の薔薇の絵。色はなく、ただ真っ白。次第に色付いて緑に。
「ねぇギャリー」
「ん?」
「この絵…美術館にあったよね?」
「確か…あったわね」
イヴの真横に飾ってある絵は見たことある。美術館に同じような子の絵が何枚も飾ってあってよく印象に残っている。全部寂しそうな表情ばっかだけど。
そのまま進んで行くとだんだんその子の絵が増えていってしまいにはまるでその子に近づいてるみたい。
最初は後姿で遠かったんだけど、今は頭から膝まで描かれている。手にも何か…持っている?…なんでかしら、少し悲しくなってきた。
「ギャリー」
「どうしたの?」
「…あれ」
イヴの指指す方を見るとこの空間と不釣り合いな扉。罠かしら、それともこの空間からの出口かしら?扉に何かプレートがある…。読もうとした時にイヴがアタシの手を離してたたたっとその扉に手を掛け…ってちょっとおおおおお!?
「い、イヴ!」
「きっと大丈夫だよギャリー」
ガチャリ、とやけに明るい音が響き、イヴが扉を開けた。
ああどうか何も出ませんように。