いらっしゃいお客様

※ころころ視点が変わる。
※まずイヴ視点から。




叫ぶギャリーを置いといて目の前の扉を開けると綺麗な部屋に出た。ここが変な空間だと忘れるくらいの。
辺りを見回すと見たことあるソファ、とその上で女の人が寝て…いる?顔はここからじゃ見えないけど金色の髪がさらっと落ちてとても綺麗だと思った。
綺麗と思うと同時に今まで味わった恐怖が全身を駆け巡り咄嗟にまだ扉の向こうにいるギャリーの手を引っ張った。

「ギャ、ギャリー、あれ…」

「え?」

「…ん…」

予想より大きな声が出てしまいソファの上で寝ていた人が身じろぎする。ヤバい。ギャリーは目を少し大きくさせて女の人を見ていた。そしてギャリーも少し多きめの声で言った。

「あ、あれって絵の子じゃないの…!」

「え、…あ…」

「…だれ…」

絵だと聞かされもう一度女の人を見ると上半身を起こしており、不機嫌そうな声を発した。…あれ、喋って、る?ギャリーもピタリと固まって動かない。どうしよう、逃げれない。なのに女の人は一歩もこちらに向かってない。どうして?



◇ ◇ ◇



少し騒がしいなと思い目を開けるとこの部屋じゃ絶対ありえない声が聞こえた。目だけ動かすと男性と少女がこちらを見ていた。なんでここにいるのか分からない。そもそもどうやってここに来たの。
体を起こし二人をじっと見つめる。
青紫の男性もじっとこちらを見ているし、少女は少し怯えた様子でこちらを見ている。…ああ。

「…いろいろ聞きたいけど、とりあえずここ座る?」

ソファから立ち上がり二人に言ってみるが、まぁそりゃそうよね。いろんなものに追っかけられるし信用なんてできないよね。その場から一歩も動かない二人の背には少し空いてる扉。逃げようと思えば逃げれるはずなのに逃げようとしないのは…足が動かないから、かしら。
息を吐いて二人から少し離れるように本棚へ寄り一冊手に持つと二人は動きだした。この部屋から出るのだろうか。ひそひそ声、なんて嫌いなんだけどな。

「ねぇアンタ」

男性が私を呼ぶ。アンタって…そういう類の人なんだろうか。何、と振り向くと二人が案外近い所にいた。お互い手を伸ばせば届くんじゃないかってほどに。

「なんでアタシたちを襲わないの?なんで喋れるの?絵なのに」

「一気に聞かないでよ。それなりの理由はあるけど君たちに話すほどでもない。襲わないのは私がそういうのじゃないから」

「どういう意味?」

「知らなくていいわ。出ていくか私の質問に答えるか黙って休めば?」

なんだこの人、結構ぐいぐい来る。
そんなに襲ってほしいのか。別に出来ないこともないけど。…多分。

“絵なのに”

…絵、か。



◇ ◇ ◇



イヴが入った部屋にはソファや本棚などあって、まるでここに人が住んでるかのような雰囲気。イヴに言われて気づいたけどソファの上に女の子が寝ていて、この部屋の主だと思う。少し声が大きすぎて起こしちゃったけど、その時出てきた瞳に目を奪われた。
金色の髪にエメラルドの瞳…。アタシこの子みたことある気がする。

「ねえギャリー、この人あの絵の人じゃないかな…」

イヴは小さな声で言いながらアタシの後ろを指差した。後ろ姿だけど金色の髪の少女。服装も髪の長さも一緒。
つまりこの子は絵だった。けど他の絵とは何か違う。イヴもそう感じたらしい。
思いきってその子に声をかけてみたの。
ちょっと声に刺があるけど悪い子ではなさそう。それにアタシたちを襲わないし、敵…ではないみたい。よかった…。もし敵だったら逃げ道がないわ。
でも安心しちゃいけない。なのに、

「長い廊下?そんなのがあったの?」

「うん。そこにお姉さんの絵がいっぱいあったよ」

「うわぁ…それは見たくないわ。それにもう道は変わってるだろうし」

どうしてイヴはこうも馴染むのが早いのかしらね!
同じ女の子だから?自分より年上だから?人だから?でも絵よイヴ!!

「…あの人大丈夫?百面相してるけど」

「大丈夫…多分」

なんか二人がアタシの方見てるけど今はそれどころじゃないわ!イヴが危ないかもしれないのに!

「ふぅん、お父さんとお母さんと来たんだ」

「うん」

「お母さん優しい?」

「怒ると怖いけど、優しいよ」

「そう、よかったね」

「うん」

女の子がイヴの頭を撫でている。ちょっと微笑ましいわね。ってあら、触って…る!?

「お兄さんも、こっちに来たらどうですか」

「ギャリーもおいで」

「う、うーんそうね…」

普通にイヴに触ってたし、その割には花弁は減ってないみたいだし…大丈夫、なのかしら。まだちょっと怖いけど。

「自己紹介が遅れたわ。アタシはギャリー」

「私イヴ」

「なまえよ」

なまえ、と名乗ったこの子は人間っぽい名前だ。作品それぞれにちゃんとした名前があるのかしら。人間だから、とか。

「なまえさんはどうしてそんなに人っぽいの?」

「ああ、さんとか敬語はいいよ。んー、そうね…私もこの美術館に来たから、と言っておきましょう」

え?

「ちょっとそれどういうことよ?」

「関係ないでしょ。もし次会うことになったらその時に教えてあげる。その代わり私の質問にも答えてね」

「どういう、」

意味よ。

言葉は続かなかった。
気付いたらさっきまでいた紫の場所に出ていて、辺りを見渡してもどこにも扉もなまえもいなかった。
美術館に来たってことはアタシたちと同じってことよね?
ぱさっと足元に何か落ちた音がして視線と落すと一冊の本。これなまえが持ってた本じゃない?表紙には「日誌」の文字。何が書かれているのかと開いてみると、

『ヒトの想いが こもった物には
 魂が宿ると 言われている』
『それならば 作品でも
 同じことが できるのでは と
 私は常に 考えている』
『そして 今日も私は
 自分の魂を 分けるつもりで
 作品作りに 没頭している』

と書かれていた。

「うそ、これだけ……?出口の場所くらい書いときなさいよね」

「でもこれ誰が書いたんだろ?」

「…さぁね…。こうなったらさっさと出ましょ!イヴ!」

もしも出れるならなまえにも会いたいわ。


あなたはだあれ?



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