その先を目指せ | ナノ


▽ 04


今日は雨だ。警報でも出ない限り部活は普段通り行われる。雨で外は走れないから、体育館で準備運動や走り込みをする。それでも時間がかなり余った。
監督と主将、ついでに俺と話し合った結果、二年と一年でミニゲームをすることになった。勝てるかな、どうかな。なんせこの二年生たちは決勝リーグまで行ってる、らしい。新設校でそこまで行くとはすごいな。かなり練習したに違いない。…じゃなきゃ監督が怖いわけない。
俺は得点ボード係と個人の体調云々を任されたので監督の横から応援。


「ビビるとこじゃねェ。相手は弱いより強い方がいいに決まってんだろ。行くぞ!」


監督に頼んで去年の試合のビデオを見せてもらったが、一年で作り上げたとは思えないくらいすごいチームワークだった。中々いい線も言ってるしこりゃまだ伸びるなとも思った。あとは練習メニュー次第で全国も行けるんじゃないだろうか。

試合開始のホイッスルと共にボールが宙へと上がる。もちろん投げたのは監督だ。
投げられたボールを逸早く取ったのはあのカガミくん。それから丸坊主のやつに行き、いつの間にかゴール近くにまで来ていたカガミくんの手に渡る。そしてそのまま強烈なダンクを一発。あー先輩大丈夫かな。監督も驚いている、俺だって驚いてる。…けど、うーん。
それから何度もダンクを決め11対8で、今は一年がリードしている。殆どカガミくんなのもどうかと思うが。当のカガミくんは不機嫌そうだ。
黒子も黒子なりに頑張ってるが、まだアレは使わないようだ。後半から使うのかな。


「そろそろ大人しくしてもらおうか」


主将のその一言からカガミくん一人に3人、ボールを持っていなくても2人がガガミくんにつく。そこまでしてカガミくんにはボールを持たせない、いや触れさせもしない気なのか。他の一年経ちの実力も見たい、というものあるだろう。
カガミを抑えられてしまった一年たちは手も足も出ない。点差はすでに追い越され15対31と約倍の差にまでなってしまった。


「やっぱり強い…!」

「ていうか勝てるわけ無かったし…」

「もういいよ…」

「もういいって、なんだそれおい!」


最後の一言でカガミくんはキレ、茶髪の一年の胸倉を掴んだ。はいはい身長縮め。
止めに入ろうかと思ったが黒子がカガミくんの後ろにいる。そして、膝かっくんをお見舞いした。その反動でカガミくんの手に力が抜け、茶髪のやつは解放された。
…あれ、よくよく考えたら一年のやつらの名前よく知らないや。あとで教えてもらおう……。


「落ち着いてください」


膝かっくんのせいかより一層カガミくんのイラつき度は上がり、黒っぽいオーラを纏いながら黒子にゆっくりと振り向いた。声も一段と低い。一年3人組は顔を真っ青にし、抑えようとしている。カガミくんは殴ろうとしてんのか手を振り回すが黒子はそれを避ける。当たらないイラつき度が増し、カガミくんは今度こそと胸倉を掴んだ。

先輩たちが何か話してる様子が視界の端で見えるが話の内容までは聞こえないが、目線が黒子に向いてるから多分、黒子がいつからいたか覚えてないんだろうな。よくあることだから。横で監督も銜えていたホイッスルを落として目を見開いていた。アンタもか。あ、いやなんでもないです。

そんな感じで残り3分弱。黒子を見てると目が合い小さく頷く。どうやらやるらしい。
始まりのホイッスルが鳴ろうとするその手前、黒子は手首を動かし始めた。何か久しぶりに見る気がする。

練習は再開し、黒子にパスが出される。もしやさっき何か言ったな。投げられたボールを追う先輩、一瞬黒子の目線は動く。誰も見てない中、ボールは軌道を変えゴール下に這っていた一年の手元へ辿り着き、そしてそのままシュート。


「…え…はい…?ええ…!?今どうやってパス通った…?」


先輩たちが驚く中で、当の本心は相変わらずの無表情で見ていた。相変わらず、としか言いようがないのは仕方ない。
それでも試合は続く。パスに困っている坊主の一年が黒子を見つけたようで黒子はいつでもパスがもらえる様準備している。一年の坊主の奴は黒子にパスすると俺からは見えない位置でパス回しを出す。そして別の一年にパスが回り、あっと驚く中、カガミくんはシュートを催促。良い判断じゃん。
引き続き見えないパスは繰り返され、シュートは決まっていき少しづつ点差は縮まっていく。


「どうなってるの…」


呆気に取られる隣の監督に、烏滸がましいかもしれないが種明かしをしようと思う。説明していけば監督も時期に分かるだろうか。


「アイツは存在感の無さを利用してパスの中継役になっているんです。元の影の薄さを更に薄めて。しかもボールに触れてる時間が極端に短いから取られるのは難しい。
監督は“ミスディレクション”をご存知ですか?」

「確か、手品なんかに使われるテクニック、よね。それを使って自分以外に相手の意識を誘導させる…」

「はい。アイツは普段影も薄いんですけど、試合中なんかは自分以外を見るように仕向けてるんです」

「それ、って」

「アイツ…黒子は、パス回しに特化した選手なんです」

「!元帝光中のレギュラー、幻の六人目…!噂は聞いてたけど実在するなんて…!」


監督の驚きように、自分の事じゃないのに少し嬉しくなってきたぞ。
監督とのお喋りはここまで。その間もパスは決まり、カガミくんの手にボールが回ってきた。カガミくんにボールが行くの久しぶりな感じだ。カガミくんは一瞬足が止まったがすぐにゴールへシュートを打った。ダンク以外も出来るのか。そして点差は36対37で1点差となった。最後に何でもいい。シュートさえ入れば一年の勝ち。

最後の大勝負。先輩たち二年は守りつつ点を取りに来るだろう。先輩がボールを投げた時、横からカットが入り、黒子にボールが渡った。そのまま黒子がボールをドリブルしてゴール元に、ってええ?
一年は行けと背中を押し、二年はさせないと止めに走る。これ負けるんじゃ…と思ったんだけど。黒子はレイアップで決めようとしていた、が、ボールはネットを潜ることなく縁に跳ね返り、それまで勝ったとばかりに明るかった一年の顔は一瞬にして真っ青になる。


「だからよえー奴はムカつくんだよ!!」


跳ね返ったボールをカガミくんが受け取り、最後にダンクを決めた。


「ちゃんと決めろ、タコ」


38対37で一年の勝利となった。
…これはこれで、良いチームになりそうだね。


「…おめでとう、黒子」


今は久しく見る目の前の勝利を祝おうじゃないか。


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