その先を目指せ | ナノ


▽ 03


「白垣くん、少しいいですか?」


部活後、着替えて学校を出た後黒子と出会った。まぁ同じ高校で、一応同じ部活の選手とマネ志望なわけだし会わない方がおかしいが。
そして冒頭の台詞だ。俺は二つ返事を出して、今こうして既に暗い夜道を歩いていた。どちらが話し出すと言うことはなく、ここまで無言だけど。
少し遠くでボールが跳ねる音が聞こえる。そーいやこの辺ストバスあったっけ?


「どうして君がここにいるんですか」


このずっと続きそうな無言の時間を破ったのは黒子だった。きっとずっと気になっていたことだろう。それ聞きたくてずっと黙って考えてたわけ?まあ、あの日のあの後、声かけるのやめたからな。


「んー、いちゃ悪かったか?」

「そういうことじゃないです。分かってるくせに」

「まあ怒んなって」

「別に怒ってないです」


100%分かった状態で上手くかわすことには成功した。黒子もそれを分ってるだろう、俺否定もしてないし。
歩いて行くたびに大きくなっていくボールが跳ねる音。当然気になってたが誰かいるのか。黒子も気になってたようで「少し寄っていきますか」と言って早足で先に入ってった。
この話はもういいのか。そう聞きたくなるほど早い変わり様。

俺も気になってたしいいか、と遅れて中に入るとつい最近見たことあるやつがコート内にいた。
どうやら黒子と何か話してるらしく、こちらには気付いていないようだ。邪魔しちゃいけないよな。そう考えて脇にあったベンチに座る。微量ではあるが会話も聞こえる。


「何やってんだ」

「君こそ一人で何やってるんですか」


ていうかなんで黒子がボール持ってたんだ。あれか。シュートしたボールをそのままキャッチしたパターンか。昔もそんなことあった気がする。
ボールを返し相手はボールを受け取る。


「別に。何もやってねーよ」

「そうですか」


何もやってないってバスケしてただろ。多分。
数秒の沈黙を挟み長身の男が口を開いた。


「オレは、中二までアメリカにいた。こっち戻ってきて愕然としたよ、レベル低すぎて。オレが求めてんのはお遊びのバスケじゃねぇ。もっと全力で血が沸騰するような勝負がしてェんだ」


突然何言ってんだコイツは。つかアメリカ帰りってこいつか。道理で強そうだと思ったよ。レベル低い、ってどこ中出身だよ。少なくともうちは強かったから?そう言うの分かりませんが。
んで、なんでそれを黒子に言うんだか。


「聞いたぜ、同学年に“キセキの世代”って強ーやつらがいるらしいな。お前はそのチームにいたんだろ。オレもある程度相手の強さは分かる。ヤルやつってのは独特の匂いがするんだよ、っ」


またボールを黒子に投げた。黒子はそれをキャッチし、話を聞いている。
にしても独特の匂いってお前は犬か。いや髪の柄的に虎だな。動物かよ。
アメリカにいたんじゃアイツ等のこと知らなくて当然だ。にしても日本に来てからアイツ等を知らないとは損してる。


「が、お前はおかしい。弱けりゃ弱いなりの匂いはするはずなのに、お前は何も匂わねぇ。強さが無臭なんだ。
確かめさせてくれよ。お前が、“キセキの世代”ってのが、どんだけのもんか!」


どうやら黒子とバスケがしたいらしい。ま、じゃなきゃこんな話しねぇよなー。
黒子はそれを聞くと少し俯き学ランに手を掛けた。


「…奇遇ですね。ボクも君とやりたいと思ってたんです」


少しだけ真剣になる表情。黒子のこの先の言葉も予想できた。


「1on1」

「やるか」


けどこれからの勝負は勝負にならねー気がするんだけど。
脱いだ学ランを持って俺のとこまでやってきた。そこで漸くアイツも俺に気付き、驚きの声を上げた。


「おまっ!?いつから!?」

「黒子と一緒に来てたよ。1on1、するんだろ?」

「これお願いします」

「はいよ」


なんだか黒子の気分になったようだと思いながら、黒子から渡された学ランを受け取りパパッと畳んでいく。その間に黒子たちはコートへと戻り、俺も観戦気分でコートへと視線を移した。
夜のコート内にボールを跳ねる音が響く。
どんな反応見せてくれるのかな…。



◇ ◇ ◇



何度かやり、ついにアイツはガッカリしたような顔になった。面白いから写メっとこ。
見てて思ったが、あれから上達ってのはほとんどない。黒子なりには頑張ってただろうけど、まだまだってところか。ほんと、なんで1ミリも上達してないのか俺も不思議でたまらねェよ。

転がったボールを追いかけていく黒子の姿がなぜかひよこに見えてきた。黒子の顔には汗が大量(部活中程ではないが)に出ている。あとで水分補給させねェと。さすがにじっとしてたら冷えてきたし。
ボールを拾ってアイツの元へと行く。目の前に来たところで「ふざけるな」と言い出した。言いたいことは分かったし、その気持ちも間違っちゃいけねェけど…な。黒子は黙って聞いている。俺も、黙って聞いておこう。


「話聞いてたか?!どう自分を過大評価したら俺に勝てると思ったんだおい!すげーいい感じに挑んできやがって!」

「まさか。火神くんの方が強いに決まってるじゃないですか。やる前から分かってました」


言い終えたとほぼ同時に黒子の胸倉を掴むカガミくんとやら。おいおいそれはやめなって。
てか俺今初めてアイツの名前分かったよ。


「喧嘩売ってんのかおい!どういうつもりだ!?」


一拍置いて黒子は、はっきりと言った。


「火神くんの力を直に見たかったからです」

「はぁ?」


黒子を離し頭を抱えたカガミくん。なんだ、膝かっくんする暇もなかったな。せっかくこっそりカガミくんの背後まで来たのに。
そのカガミくんは何か考えてるみたいだけど………まぁ、いいか。背後から離れて黒子に近寄る。


「黒子、大丈夫?」

「大丈夫です。ありがとうございます」


手に持ってるボールを見てカガミくんに差し出す。
もしかしてまだやる気か?


「あの…」

「あー、もういいよ。弱ーやつに興味ねーから。それよりお前、俺と1on1しようぜ」


明らかに今度は俺を標的にして来たな、おい。


「あ?なんで?」

「強ーやつに匂いがするんだよ。いいだろ」

「いや俺マネだし」

「……あー…」


マネージャーを理由に断ると、そういえばと思い出したようでベンチに戻っていく。よしゃセーフ。カガミくんからすれば俺は強い匂いがするらしい。嬉しい限りだ。
一応バスケできるけど今はしたくない。マネだし、なんてただの建前だ。
黒子はカガミくんをじっと見ている。


「最後に一つ忠告してやる」


学ランと鞄を持つと黒子に向き直った。


「お前、バスケやめた方がいいよ。努力だなんだの、どんな綺麗事言っても、世の中には才能ってのは厳然としてある。お前にバスケの才能はねェ」


言うね、コイツ。けどなんでそんなことお前に言われなきゃなんねーの、って話。俺が何か言おうとしたとき黒子は一歩前に出た。ボールを持ったままベンチへと向かう。


「それは嫌です」

「あぁ?」


帰ろうとしていたカガミくんだったが黒子のそれを聞いて一度立ち止まった。


「まずボク、バスケ好きなんで。それから、見解の相違です。ボクは強いとか弱いとかどうでもいいです」

「何だと?」

「ボクは君とは違う。…僕は“影”だ」

「…まーそういうことだ。じゃあまた明日、カガミくん」


カガミくんは始終訳が分かっていないようにも見えたが、恐らく明日にでも分かるだろ。時間さえあれば練習だってするだろうし。
訳が分からない、といった顔をしながらカガミくんは帰っていった。残ったのは俺と黒子の二人。
ここにいたって何もない。というわけで俺らも帰ろうと鞄に手を伸ばした。


「白垣くんは…もうバスケしませんか」


鞄に手が触れる直前に隣の黒子が呟くように言った。その横顔の半分は影で見えなくて、でもなんとなくどんな表情をしてるかは安易に分かった。だから俺は…―。


「してるよ。ずっと」


喋りながら黒子の手元にあったボールを奪い取りそのまま後ろに投げた。スパッとボールがネットを潜る独特の音がし、入ったんだと分かる。ま、当然だけど。これだけ答えておけばいいだろ。チラッと見ると、隣の黒子は少し嬉しそうに少し笑っていた。…珍しい。

そう言えばマネなのに強い匂いするって気付かなかったなアイツ。バカなんだろうか。


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