その先を目指せ | ナノ


▽ 10


「ここッスよ」と言われ連れてこられた体育館。やっぱ強豪校ってだけあって広いしでかい。のびのびと練習が出来るな。設備よさそうだ…と、別の方を見ているとちょっと不服そうな声が聞こえ、改めて中を見回していく。
半分を仕切る網。網の向こうではいつも通りに練習に励む部員たち。はは、温度差。そのうち向こうの監督さんがこちらに気付き挨拶をしてくれた。おっさん…がたいの割にいい声してんな。痩せたらモテるだろう。痩せたらな。
素朴な疑問として監督について聞かれたが、慣れたように受け答えするうちの監督。驚かれてたけどそっちよりも、マネージャーと勘違いされてちょっとムッとした監督が気になります。そんなに嫌なのか、マネージャーだと思われるの。…似合うと思うけどなぁ。

しかしまぁ、向こうの監督さんの言葉にはちょっとカチンと来たよ、俺。監督は先輩はもちろん。黒子でさえも普段の無表情とは違う怒りを含めた表情。


「…ナメやがって。つまりは練習の片手間に相手してやるってことかよ」


火神くんの言うとおりだ。でも強豪校との練習試合ってそういうもん。あんま怒れる立場じゃないけどこれだけは言っておく。


「アイツの肉削ぎ落としてやる」

「どうやってするんですか…」

「秘密」


そこには触れてはいけません。
そして向こうの監督は…相手を怒らすのが好きらしい。黄瀬を出すと試合にならない、という点にこっちはもう怒りMAXだ。慌てて黄瀬がこちらに謝ってくるが黄瀬は悪くないからいいんじゃねぇの。でもこれ使えるな、本気を出させるためには。
僅か一瞬ではあったが黄瀬と目が合った。気がする。


「そもそもオレを引きずり出すことも出来ないようじゃ、キセキの世代を倒すとか言う資格もないしね」


挑戦的な目に挑発的な笑み。モデルなだけあって様になるその姿も少しだけで、すぐさま向こうの監督にまた案内役を任されてた。
彼らは案内も待たずに体育館から出て行ってしまう。


「アップはしといてください。出番待つとかないんで」


出ていく間際に黒子が残したこの言葉に、黄瀬は呆気に取られていた。さっきまでの顔はどこ行ったのかな黄瀬くん。ところでみなさん海常の更衣室分かるんですか。…さいですか。
出ていった方へ目を向けていた俺には、意味を理解した黄瀬が笑っているのには気付くことはなく…。あ、ヤバい。出て行き損ねた。いやでも俺が更衣室に行く理由は……誠凛の、バスケ部のマネとしてこれどうなんだろう。いやでもなんとなく行き辛かったっていうか。


「白垣っち」

「なに」

「行かなくていいんスか?」

「だよなー。けどその前に、俺に何か言いたいことあんだろ」


黄瀬の方を向いて問い掛ける。黄瀬は言い当てられたことにか、視線を左右に彷徨わせ、ややあって目が合う。この短時間でどうしようか迷っていたんだろう。


「…ある、けど。後でもいいっス」

「ふーん?」

「あ、やっぱり一つ!」


おいコロコロと変えんな、俺もう何も答える気でなかったのに。少し逸らしてた体をそのままに、また黄瀬に向き直る。黄瀬の目は、どこか不安そうな目をしていた。
何故そんな目をするのか分からないが出来るだけ刺激しないよう優しく、ではないがそこそこ落ち着いた声で続きを待つ。


「白垣っちもベンチにいる?」

「一応いるぜ。マネとしてな」

「…え?」


驚きに見開かれた目を見ながら、そっと口元に人差し指を当て口角をそっと上げた。

"アイツ等には内緒だぜ?"

何度も頷く黄瀬を確認した後、手を下ろし息を吐いた。誰にも言うな、内緒にしろって意味じゃねぇけど。どっちかっつーと会った時にマネしてるんだって言って、今の黄瀬のような驚いた顔が見たい。驚いた顔って言ったら一番最初、バスケ部に顔出した時のあの黒子の驚き様もよかった。
残りのメンバーの顔を思い浮かべて驚くかどうか脳内シュミレーションしてみたが…俺が思ってるような反応はしてくれないだろうという結果が出た。まあだよな、しょうがないさ。
さてそろそろ行かないと監督に怒られちまう。もう着替えも終わっているかもしれん。


「ところで黄瀬」

「なんスか?」

「更衣室ってどこ?」

「え、そこ出て右行ったら分かると思うっスよ。ね、白垣っち」

「なんだ」

「オレが勝ったら黒子っちもらう予定なんスけど、白垣っちも、もらっていい?」

「お前何言ってんの」

「えー」


不服そうな表情に見えた悲しい色。それには見て見ぬフリして先輩たちが出て行った方へ歩き始めた。ていうか黄瀬が勝ったら黒子もらうって、まだ諦めてなかったのか。諦め悪いなぁ。嫌いじゃないけど。
分かっていたけど、かつての仲間が今じゃ敵って、少し寂しいもんだな。


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