その先を目指せ | ナノ


▽ 08


今日も部活だっていうのに、また教師に捕まるとか俺本当に運ない。誰かさんが聞いたら人事がどうのって言いだしそう、ってか脳内で再生されたわ。今そんな余計なこと考えてる場合じゃねえし。俺ってもしかして不良生徒に見られがちなの…?

大股で部室の方へと歩いてると何故か妙に上機嫌な女子生徒が廊下の先にいた。その後ろ姿はとても見覚えのあるもので。いやいやまさかと思いつつ、駆け足に近い速度で例の女子生徒の元へ行く。廊下は走っちゃ駄目って言うけど今教師いないし走ってもバレないんじゃ…いや周りの先輩たちが注意するか。ていうかあの女子生徒、周りに目が行かないのかな。すごく見られちゃってますよ。


「監督!」


丁度角を曲がる直前に声を掛け、その足を止めることが出来た。わあ、やっぱり監督だ。いつもに増してめっちゃ機嫌いいように見える。スキップするほどいいことあったんだろうか。……確か練習試合申し込むとか言ってたっけ。
練習試合を思い出して、何故か妙に胸騒ぎが。嵐の前触れって奴でしょうか。


「あら、白垣くん。また先生に捕まってたの?」

「あー、まあ。それはそうと監督、何かいい事ありました?」

「んー?ふふーん。まあねっ」


わぁすげー気になる。あの監督が、って言ったら失礼だけどこんな監督初めて見たわ。まだ付き合いも短いけど。例の練習試合の事かと聞けばとてもいい笑顔で頷いてくれた。どうしてだろう、ちょっと嫌な予感する。これはちゃんと確かめた方がいい気がする。


「何処と…?」

「それは後で言うわ。今は体育館に行きましょ」

「そうですね」


と言うわけで体育館まで一緒にお供させていただきました。目的地に着くまで今日の練習メニューとか、道具の場所やら教えてもらいました。ありがたやー。できれば練習の相手校も教えてほしかったなーと内心苦笑いで。
体育館着いた時、何故か先輩たちの顔が引き攣っていたけど何故だ。黒子や火神くんも分からんと言うし…。まあ時期分かる事だし気にしなくてもいいか。
さて、久しぶりにマネ業しますかね。



◇ ◇ ◇



何じゃこの光景。目の前に広がるたくさんの女子生徒。時々黄色い歓声が聞こえたり、色紙らしき物を持ってたりと様々。
休憩時間の間に監督が話をする、っていうからそれに合わせてスポドリを作りに体育館を離れていて戻ったらこの光景。数十分だってのに何があった。どうしよう、女子が多すぎてどうにも入れそうにないわ。…でもこれに似た光景どっかで見たことあるんだよなー。


「……いやいやまっさかー」


俺の脳裏にある一つの過去の記憶が甦る。比較してみてもそれはそれは似ているもので、やべえ、運動してないのに汗出てきた。
入り口から少し離れた脇で考えてると女子生徒たちが少なくなっていく。様子からして帰ってるようにも見える。

やっとできた入り口からそっと中を覗く。するとどうだろう。ここにいるはずのない色が見えて無意識に眉を顰めた。すごく、入りたくない。
しかも、だ。俺自分がどこの学校に行くか誰にも言ってねえんだよ。触れないよう触れさせないようしてきたから、教える機会もなかったし。あとめんどくさかった。
アイツの事だから俺見つけた途端ギャーギャー騒ぐのは目に見えてる。それに余計な事言いそうだしなぁ。

でもこのまま戻らずに監督や先輩に怒られるもの嫌だ。……となれば、俺が取る行動は一つしかない。スポドリの入った籠を入り口脇に置き、ポケットに入れてたはずの携帯を探し出す。…お、あったーと思ったらボールがバウンドする音がする。
またさっきと同じように中を覗いて見ると火神くんが他校生の人間と1on1中だった。火神くんって馬鹿だとは思ってたけどまさかそれ以上?なんでキセキの世代とやっちゃってんの。

なんとなしに二人を見ていた。先に動いたのは相手の方で一瞬遅れて火神くんも着いて行く。…うんだろうね。結果から言ってしまえば相手の勝ち。ゴール下まで突っ込んで急カーブしてゴールに入れる。素早くてキレのいい動き。器用なやつ。少し見てない間にまた一段と強くなってるかも知れん。きっと練習メニューがいいんだ、そうに違いない。
見ているだけの俺にとんでもない言葉が聞こえてくる。


「やっぱ、黒子っちください」


くださいって黒子は物かよ。入学したばっかの奴に何言っちゃってんのコイツ。転校手続き誰がやると思ってんの?黒子母だよ!勝手な事言うな!…黒子がいいって言うならいいけど、それだと俺もつまらなくなりそうだしこの部やめることになるけど。
入り口から離れないで中を覗き見って不審者以外の何者でもないぞ俺。…言っててちょっと辛い。とか言いつつしっかり中の様子を覗き見させてもらう。声が一部一部しか聞こえないのはちょっとアレだけど。俺の集中力なのか。


「ね、どうスか?」

「そんな風に言ってもらえるのは光栄です。丁重にお断りさせていただきます」

「…!」


ここだけしっかり聞こえ内容に思わず吹きそうになり顔を引っ込めた。その際視界に入ったスポドリの籠。あー、スポドリの存在忘れてた。ぬるくなってんじゃ…よし冷やして来よう。これで少しは時間稼げるかな。
物音を立てないよう慎重に持ちその場から去った。あの後火神くんと黒子たちがどうなったか知らない。黄瀬の気持ちも、知らない。



◇ ◇ ◇



スポドリを冷やし終え体育館に戻ると既に他校生の姿はなく、部員たちは練習を再開していた。俺は何でもないように平然と戻り監督の隣に籠を置き、何気なく練習風景を眺めた。なんか、なんとなくピリピリしたものがある気が…。


「何かあったんですか?」

「え?わっ白垣くん!?いつからそこに…!?」

「今さっきですけど」


あれ俺黒子化してたの?ヤバい俺もついに進化してきてる…やっば。まあどうせ黒子みたいに継続は出来ないけどな。つくづく黒子が羨ましいぜ。
ってそうじゃなくてこの変な空気について聞きたいんですけど。


「さっき練習校の相手が来ていて色々ね…」

「練習試合の…え、どこの高校なんですか?」

「海常高校よ」

「か……確か神奈川、でしたっけ」

「ええ」


まあアイツが来てる時点でおかしいと思ったよ。ていうか神奈川て。神奈川て!アイツ部活どうして来たんだろ。ちゃんと真面目にやってんのかな。向こうの先輩さんをナメてたりしないだろうか。認めてないやつには結構つんけんしてたからな…。あーこんなに気になるなら会っておけばよかったか?いやでも騒がれたくないし…。試合後、向こうの先輩さんたちに聞いてみるか。そうしよう。
その後遅れた事怒られずに済んだ。代わりにマネ業超頑張った俺を誉めて。


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