「紫苑ちゃんおかえり!どうだった?海の上の世界!綺麗でしょ!今度さ…紫苑ちゃん?」
『……え?あ、さつき姉さんただいま』
「どうかした?」
『なんでもないよ。海の上が綺麗すぎてずっと考えてた』
「そう?」
再び海の底に帰ってきた紫苑は姉のさつきの声でハッとした。言い訳は嘘ではない。ただ細かく言っていないだけだ。
話題を逸らそうと必死に先程の姉が何か言っていたのを思い出し、言いかけたその続きを聞こうと口を開く。
『さつき姉さん、さっき何を言いかけたの?』
「ん?ああ!あのね、今度は一緒に上に行こ、って誘おうとしたの。どう?」
『わぁ!行く!』
「じゃあ明日にでも行こうね!」
『うん!』
明日の予定を入れたところで、たまたま近くで話の一部を聞いてたリコが口を開く。
「ちょっとアンタたち、行くのはいいけど気を付けなさいよ?最近人がよくこの上に船があるって聞いたわ。もし見つかったら…なんてことになったら」
「大丈夫リコさん!夜だし暗いしきっとわからないよ!」
『あ、さっき船見ましたよ』
人間も見ました。
と言うと人間、という言葉に反応し、今日見たものをぽつり言うと姉たちはバっとこちらを睨むような、焦るような表情をする。一瞬怯むが大丈夫と続ける。
『大丈夫だよ。見えてないから』
「でもねぇ…」
『人間の顔は遠かったしこっちからも顔はよく見えないし…』
「……紫苑ちゃんその人たちが乗ってたのって大きな船?」
『え?うん』
突如出された質問に答えるとさつき姉さんの雰囲気が変わった。何て言うか普段のお姉さん、って感じじゃなくて…何かを探しているような…。そんな雰囲気。
「…さつき…アンタまだ…」
「………そんなんじゃ、ないよ」
どうやら姉たちは何か知っているようだと察した。気になるけど、何時か自分にも話してもらえることを願って自分の寝床へと移動した。
◇ ◇ ◇
「さつき、諦めたんじゃなかったの?」
紫苑がいなくなってからもこの話はまだ続いていた。
先程からこの話ばかりだ。この件に関しては数年前にこれでもかという程話し合った。だから今更話す事もないのだが。
またさつきの心は揺らいでいる。そうリコは察した。
「諦めたよ。でもやっぱりもう一度見たい」
寂しそうに切なそうに言ったさつきにリコはしばらく考えた後、はぁ、っと深いため息を零した。
「気をつけなさいよ」
「え?」
「また行くんでしょ?人間には見つからないようにね。それから紫苑にもこの事一応話す?」
「…うん、話す。きっと待ってるから」
「…そうね」
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