――それから6年後。
16になった紫苑は姉たちに見送られながら、さっそく夜の海の外へと登った。
ドキドキ、わくわく。この日が近づくにつれ中々眠れずにいたがそれも今日で終わるのか。何年も楽しみにしてた外が漸く見れる!
『わあ…!』
夜なだけあって薄暗くて、それでもいくらか南にある街がきらきらと輝いていてとても綺麗な景色だった。
ただ、ここでは少し息苦しさを感じ、急いで海の中へと入る。
近くにいた魚たちに聞くとどうやら人間と魚たち、人魚たちが吸うものが違うらしい。
人間は空気を。魚と人魚はプランクトンを。
空気中にはそれがないため苦しいらしい。何が、と聞けばそれは“空気”だと言う。
『…ん?』
少し離れたところで何かが浮いている。そっと少しだけ近づく。
そこには船と呼ばれるものがあった。これが船…。上は明るく人間の声もちらほら聞こえる。騒がしいな…と思っていると、船から人の影。慌てて海の中へ入り、下からでも船が見える距離で止まった。よくは見えないが船の明かりで赤色が見えたのは確かだ。
水音をたてないように慎重に顔だけを出す。 赤い髪を持つその人は何やら悩んでいる様子だった。遠くからでもわかる大きなため息に思わず見惚れる。なんて、綺麗な人だろう…。違う、これは今初めて思ったことではない。きっと初めて見たときから思ってる。否、そうだ。
ちょうどその時横にもう一人、人間が横に並ぶのが見えた。今度は水色。その色はまるで海のようだ。
薄暗い明かりでは髪の色くらいしか分からないのがとても残念だ。暫く様子を見ているとなにやら話し込んでいる様だ。しかしまた中へと戻っていってしまった。
『……残念』
自身も海へ潜り姉たちのいる底の底へと泳ぐ。時折赤いものが視界に入っては、先のあの人のことを思い出す。
なんだろうこの感情は。胸がドキドキする。本で読んだ“恋”というのに似ている。どうしてだろう、この気持ちのせいか今とても幸せな気分だ。
人間とは…あんなに綺麗な生き物なのか。
黙々と海の底へ潜っていく彼女は、姉の心配する声を聞くまでずっと赤い髪の人の事ばかり考えていた。
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