拝啓、さつき姉さん、リコお姉さん。お元気ですか。私は元気です。
さつき姉さんの教えてくれた魔女の家で人間の足をもらいました。もちろん対価はきちんと払いました。…払ってるのかな?
薬をもらって目が覚めたらいきなり私が会いたいと思っていた人でした。正直驚きすぎて、混乱して、緊張して、その人との会話をあまり覚えていません。冷静な判断…はできていたと思います。大丈夫です、バラしてません。

長い前書きはさておき。私が会いたいと願った方の名は赤司征十郎といい、近くの国に住む方でした。まあそこまでは予想通りでなりよりです。

その赤司さんなんですが、なんと……国の王子でした。察しのいいお姉さまたちなら分かってくれるでしょうが…この展開、昔の人魚姫と似すぎています。
もしかして、私は自らを泡と変えしまうのでしょうか……。時々思い出しては恐怖に怯える毎日です。でも不思議と今すぐ海に帰りたいとは思いません。
もうしばらく、頑張ってみようと思います。


『はあ…』


人間になって早数週間。私が目覚めたその後、赤司さんのご厚意で食事をしようという話になったのだが、立ってみるとこれはびっくり。足が痛い。痺れってきっとこういうこと。不思議がる赤司さんに何も言えず、どう言い訳しようか悩んでいた時、突然横抱きにされて食事の場所まで連れて行ってしまった。大きなテーブルにたくさんのお料理。人間とは不思議な食べ物たちを好む、とまた勉強になりました。
椅子に座る時椅子が勝手に動いたのにはまた驚いたがよくよく見ると人がいた。更によく見るとその人はさつき姉さんの思い人で…聞いたら赤司さんの執事…だとか。執事って、なんだろ。

ずっと赤司さんの世話にもなるわけにもいかず、食事後密かに歩く練習をした。数日経ってやっと一人で少し動けるようになったが…これも魔女のおかげだろうか。今では部屋の中なら歩き回れるほどになった。
時々やってくる赤司さんと雑談を交わしながらこの国のことを教えてくれた。時折こちらをじっと見るが分からないので保留にしておく。

現在紫苑は部屋のバルコニーに来ていた。ちょうど日の当たる位置でそろそろ眠くなりそうである。日の光に当たりながら船を漕いでいると後ろに人の気配。反射のそれもあり、勢いよく振り返ると水色と目が合った。


「わ…どうも」

『…こんにちは』


正体は赤司の執事の黒子だった。彼は突然振り返った紫苑に驚いていた。紫苑もまた後ろにいた黒子に驚いていた。数秒そのまま見つめ合っていると先に黒子が動いた。


「旦那様からの伝言をお伝えしに来ました。
 “今夜僕の部屋で話し合わないか”とのことです。出来ればお返事をその場で受けてくるよう言われてます」

『…え、っと』

「あ、今すぐじゃなくて大丈夫です。少し考えてもいいですよ」


黒子から言われたのは赤司のお誘いだった。それは夜一緒に過ごせると言うことで。紫苑は少し驚いていた。ここ最近赤司の顔が見えなくてほんの少し寂しかった。まるで赤司はそんな自分の心が分かってるかのように言ってくれる。…自惚れも良い所だと紫苑は内心自嘲している。
それでも今甘えてしまうのは残りを気にしてなのか。


『…お邪魔じゃなければ、ぜひ』

「ではそのように」


返事を聞いた黒子は綺麗にお辞儀をした後部屋を後にした。彼が部屋を出るまで見ていた紫苑は一つ、思った。


(どうしてさつき姉さんは彼に惹かれたんだろう)


というか、むしろどこで?

考えていてもしょうがない。帰ったら姉さんに聞きたいものだ。
紫苑はそう考えて小さく嫌と叫ぶ心は気付かないフリをした。



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