そっとほわっと優しく
『お疲れ様ですー』
「みょうじっちぃいいいぃいいイェア!」
「黄瀬くんうるさいです」
『黒子くんもお疲れ様ー』
「ありがとうございます」
「みょうじー俺にもタオルー」
『はいはい』
部活が終わり、真っ直ぐにこちらにきたキセキの世代と呼ばれる人達。黄瀬くん、黒子くん、青峰くんが最初にやってきて順番にタオルとドリンクを渡していく。
黄瀬くんについてはスルーです。一々構ってたらキリがない。
「なまえちーんオレもー」
背中にずしっと重さが加わる。これは紫原くんですね。
『はーい、って紫原くんお菓子まだ食べちゃダメですよ』
「もう終わったんだしいいじゃんー」
『着替えてから食べてください。お菓子のカスが零れるんで』
「むー…」
「相変わらず紫原を扱うのが上手いなみょうじは」
『あ、主将。お疲れ様です』
「ありがとう」
いつの間にか恒例となってしまっていたこのやりとりに主将の赤司くんが入ってきた。
手馴れてる、という部分はスルーしておこう。そういうつもりはないが否定するものめんどうというか。
主将にもタオルとドリンクを渡し、その後ろにいた緑間くんにも渡す。
あとはほかの部員にも渡して、後片付けをすれば帰れる。
今日は個人練習はせず帰るそうだ。近々テストもあるそうだし。
「そういえばみょうじ。この後少し時間はあるか?」
『大丈夫ですよ。どうかしました?』
「ああ、来週の練習試合のことでな」
『…それなら桃井さんでもよくないですか?』
「桃井からみょうじのほうがいいと言ってきてね。で、いいかな」
『はい』
「じゃあ後で部室に来い」
それだけ言って先に部室に戻っていった主将。
ええと、とりあえずあまり待たせないように仕事をやってしまおう…。
「みょうじ」
仕事にかかろうと動いた時、副主将の緑間くんに呼ばれた。
『なんですか?』
「今日のラッキーアイテム、パンダのぬいぐるみだ。念のため持っておけ」
『はぁ…。ありがとうございます。ちなみに何位でした?』
「10位だ」
『うわ悪い方で微妙』
もらったぬいぐるみを抱きしめて癒してもらう。
特に疲れてることはないが、なんというかこれからのために。
『これ明日お返ししますね』
「いい。持っとけ」
『えぇ!?…でも、』
「…なら明日それの代わりになる物くれたらいいのだよ」
『はぁ…わかりました』
一礼してボールの片づけをする。ボードも、と思ったんだけどいつの間にか片づけられてるところを見ると桃井さんがやったのかなー。
よいしょよいしょと一つ、二つとボールを籠に入れていると籠が動いた。
『へ』
「手伝います」
『黒子くん!?え、いいよ!』
「僕がやりたいだけなんで」
でも黒子くんは休んでおかなきゃ、と言おうとして口を開くが「遅れたら赤司くんに怒られますよ」の一言にぐっと開いた口を閉じた。
結局そのまま甘えることにした。
数分して片付けが終わりボールの籠を受け取ろうとした、が「重いですから」と言う黒子くん。一度言ったら聞いてくれないからなぁ…。
ということで倉庫までついてきてもらいました。申し訳ないです…。
戻ると誰も居ない体育館に忘れられたタオルが一枚。誰かの忘れものかと思い名前はないかと探す。
そこに恐らく持ち主だと思われる人の足音。
「あ?みょうじじゃねーか」
自分の名前が出され振り向くと入り口前に青峰くんがこちらに駆け寄ってくるところだった。
『これ青峰くんの?』
「おう」
どうやらこれの持ち主は青峰くんだったらしい。よかった。
あ、そういえば…。
『ねね、まだ主将いる?』
「赤司?いるぜ。明日の練習メニュー考えてる。みょうじはまだ帰らねーのか?」
『戸締まりしなくちゃいけないから』
「そっか」
それだけ言うと早足で出て行ってしまった。
え、他に何か言う事ないのか。
と思ってたらひょっこり顔だけ体育館を覗いて「また明日な!」とだけ言って帰ってしまった…。
なにあれ…。
その後戸締まりをして部室へ向かった。お、怒られる…!
さっきチラッと時計見たけど部活が終了してから30分は経っている。
部室に向かう際更衣室の前を通るのだが、たまたま着替え終わり帰ろうとしていた桃井さんとすれ違った。急いでいたため軽く挨拶くらいしかできなかったけど、過ぎたとき後ろから「愛されてるね」なんて聞こえた。はて?それは誰が…?
駆け足で部室へ向かった甲斐あって約3分の道のりを1分弱で着いた。
部室前に立って数回ノックする。中から主将の声。さすがにみんな帰ったかな。
入っていいとのお許しも出たのでドキドキしながら扉を開く。
恐る恐る中を覗くとバインダーを片手に何か書き込んでる主将。一通り書き終えると顔を上げ私を見るとニコリと優しく微笑んだ。
『お、遅れてすみません…』
「いや構わないよ。黒子が緑間や紫原と話していたと言っていたからね」
片手にあるパンダのぬいぐるみを見て主将は言った。
つまりは事情を話してくれてたわけか。明日黒子くんには礼を言っておこう…。
怒られなくてよかった…けど。
『それでも遅れちゃいましたから…』
「今回は許すと言っているんだ。素直に甘えなさい」
『はいっ』
ワントーン下がった声にびくっとしてすぐに返事をした。あれ怖い。
隣に来いと促されたので、控え目にちょこん数センチ空けて座った。一応主将の持つバインダーの文字は見えるので特に問題はない…はずなんだけど。
『えっ、と…あの?』
「…………」
隣に座ったのになぜか不機嫌オーラ全開の主将。
どうしたらいいのかわからず、でもなにもしないと言うわけにもいかないのでどうしたのかと訪ねる。
と、主将自ら空いた隙間を埋めるようにずいっと近づいてきた。
『え、え、』
「みょうじ、」
『あ、え、はい』
「…名前を呼んでくれないか…?」
『な、名前…ですか?』
「ああ」
呼ぶって言ってもこの部屋には主将しかいないわけだしつまり主将の名前と…。
『……あ…』
赤司くんと呼ぼうとしたがうまく声にならなかった。しかも無駄に緊張する。よくよく考えてみれば名前を呼んだことなんてないかもしれない。廊下ですれ違う事なんてまずないし、仮に会っても特にこれと言って話す事はない。逆にあるとすれば部活の事だし、それだといつも「主将」呼びだし。部活以外で彼に会ったことなんてないんじゃないか…?
つまりこれは初めて名前を呼ぶ…ということ。
彼はそれを分かってて言ってるのか…。それとも…。
『あ…赤司、くん』
「…ん」
たった一回呼んだだけで横からぎゅっときつくはないがそれなりの力で抱き締められる。今日の主将どうした。
『今日は甘えたですね』
こんなこと言ったら殺されるだろうか。
内心びくびくしながら事に身を委ねてると首元に顔を埋めている主将…いや赤司くんが笑った。
「みょうじにだけだよ」
そう言って手を腰に回してさっきよりも強く、けれども優しく抱きしめた。
いつもは冷静な赤司くんでもこんな一面があるんですね。
もう少し仲良くしたいです。
「みょうじは俺にとって特別なんだよ」
そっとほわっと優しく(…赤司くん、苦しい)
(ん…)
(もしもーし?おーい?…え、寝てる…?)
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「キセキに愛され。みんながいると冷静だが実は一番溺愛してる赤司」でした。
愛されってなんだっけ…。でも自分なりに溺愛させてもらいました。わかりにくいですよね…。ズーン
サブタイトルが「僕だって独り占めしたい」でした。
みなみ様!!大変遅くなりましたが如何だったでしょうか…!?
企画参加ありがとうございました!