奪いたい (多分短編の赤司) 僕には彼女がいる。その子はよくて普通、悪くて普通の至って普通のどこにでもいるような女子である。けど少し違うのはとても浮気性で、いろんな男に好きだの愛してるだの言うこと。けれどどんな言葉を並べてきても暫くもすれば僕の元へ帰ってくる。 「ごめんね」「愛してる」そう言って。全く可愛らしい彼女だ。 けれどそれもつかの間、また誰か見つけたらすぐ行ってしまう。僕が引き止めるよりも先に彼女は行き、必ず「好きだよ」と言って行ってしまう。掴もうと思っていた腕も無意味なだけで宙で止まり、元あった場所に戻っていた。 勘違いしないでほしいのが僕は決して「好き」だの「愛してる」だのと安い言葉を並べられて舞い上がるような馬鹿な奴ではない。付き合う以前から彼女のことが好きで目で追ってしまうほど好きで、漸く僕の元に来てくれた僕の最愛の人。 それまでに彼女がどういう人間で、どういった癖があるとかもなんとなく把握済みで大体のことは理解していた。僕の元へ来る前だって、何人かの男に愛の言葉を囁いていたようだし。まあそれも過ぎたことだからどうでもいいが。 彼女についての前置きはもういいだろう。ここからが本題なのだ。 先日、また気に入った男を見つけたらしくまたそちらのほうへ行ってしまった。今回は新しいパターンだ…何せ僕の知らないところで恋をしたらしいのだから。いつもは目の届くところにいたというのに。気付けばいない。こんな不安は付き合ってから初めてかもしれない。 次の男のことは知らないが、どうやらかなりゾッコン、らしい。知り合いから聞いたのだが相当気に入ってるらしい。だがどうやっても男の正体は掴めないままだ。…もどかしい。いっそ彼女に直接聞けやしないものか。 だが今会ったところで彼女を逃がせそうにない。自由で明るくて、自分だけに笑ってくれる彼女が好きな自分はどうもこの手には出れない。例えるなら蝶のような彼女。好きな花に止まり、好きなだけ居座り、飽きたら(というわけでもなさそうだが)僕の元へ、もしくは次の花へ移る。 嫉妬心は強い方だ。人間誰だって欲深い。 ずっと僕のところにいてほしいとか、もう誰もその目に移すなとか、僕だけで十分だろう?…とか。今隣にいない彼女に、そう言ってやりたい。 ああ…出来ることならその目すらくり抜いて僕だけを見ていればいいのに。 奪いたい それが出来ないのはいつだってその一歩手前で帰ってくる彼女が僕らに笑いかけてくれるからだ。僕らはそれに救われる。 と同時にそれが出来ないのは"俺"がそれを許さないからである。 ------------------ とある短編のヤンデレバージョン…?(続きのつもりで書いたのに…あれ?) 意外と気に入ってます。あの短編。そして意味はまた同じ。 prev/next |