寸止め


ふわふわした意識からゆっくりと現実に戻されていく感覚。なんとなく目は開けたものの二度寝できる気がしない。というか今何時…側に置いてあった携帯を手に取り時間を確認した。


『6時37分…』


なんともまあ中途半端な時間に起きてしまった。起床時間までまだもう少し時間はあるが…。そういえば今日は日差しがいいな、と視界の端に写る障子の明るさへと目を移した。……うず。早く目が覚めた上にこんなに明るいと…外を見てみたくなる。
思い立ったが吉日。のそのそと布団から這い出て立つのも億劫だったので四つん這いで障子へと寄る。元々布団と障子の位置は近い。別にいいよねぇ。と障子に手をかけ、通れるくらいに開け外を見渡した。う、眩しい。


「おや主。早いな」

『…三日月さん?お、おはようございます』

「あいおはよう。今日は天気がいいな」


何故か部屋の前の縁側に座り、庭を見渡す三日月さんの姿があった。三日月さんも随分と早いなぁと思ったが、そういやじじいだって自分で言ってたなと思い出した。早寝早起き…まさにじじいだな。
そうですね、と返しながら何故三日月さんがここにいるのか考えてた。だってここ三日月さんの部屋の前ではなく私の部屋の前。ここ謎。景色でも見てたのか、でもわざわざ座らなくてもいいのになぁ。やっぱ分からん。

四つん這いだが、顔しか出していなかった私はそのままで三日月さんの隣へと近寄った。三日月さんはそんな私をじっと見ていた。…なんか気まずい。
縁側まで行ってそこで初めて体制を変え、隣に座り込む形となった。


「目が覚めてしまったか」

『ええ。もう一眠りしたいところなんですけど』

「はっは。さすがに今から寝るには起きるのがちときついと思うぞ?」

『ですよねぇ。三日月さんはここでなにを?』

「…はて、何をしておったかな」

『え』

「はっはっは」


三日月さん惚けちゃったかな。会話もそこそこに目を庭へと見やる。朝の日差しを浴びて、いつもみるのとは少し違う雰囲気を醸し出す庭はとても綺麗だった。うーんやっぱ庭を見ていたんじゃないかな。だってこんなにも目を奪われるほど綺麗なんだし。
…でも何でここを通ったかが問題だよね。お手洗いは反対方向だし。…本丸で迷子はあり得ないだろうし…でも完全に否定できないんだよね。ここが残念かな。
庭への感嘆の声を上げると三日月さんが小さく頷いた。


「のう主、」

『はい?』

「俺が何も考えずにここまでくると思うか?」


その質問の意図が分からなくて、庭から三日月さんへ目を戻すとこれはこちらをじっと見つめ、いつもの笑みのはずなのに違うように見える笑みを浮かべていた。いつからこっちを見ていたのだろう。ああそれより質問に、答えなくては。
でも考えたって答えは出ず、庭を見に来たんですか?と答えると元々細く象っていた目がまた少し細められ、首を小さく傾げた。どうやら違うらしい。口には出していないがそういう風に見える。じゃあどうして?と聞くとくつくつと笑う声。…え、笑うの?


『三日月さん…?』

「くっ…あいすまぬ。主が可愛くてな」

『…は』


この人は突拍子もないことを突然言うから心臓に悪い。良い意味でも悪い意味でも。唐突すぎて言葉さえ失う。いや照れてるとかそういうのではない、断じて。かといって言われて嬉しくないというわけでもなく。一番の問題はこの流れの中でどうしてかわ…いいとか思っちゃったかって事で。…はぁ、三日月さんが読めない。


『それでどうしていたんですか?』

「んー?」

『んー?じゃありません。答えずはぐらかすのは卑怯です』

「いやなに。こう言うては主が真っ赤になるであろうと思うてな」

『みか、』


三日月さんが言い終えると、腕をいきなり引っ張られ、驚きに目を白黒させてる間に三日月さんの腕の中。ん?と内心首を傾げながら三日月さんを下から見上げると、それはそれは優しく綺麗に微笑む三日月さんが、同じくこちらを見下ろしていた。
この顔、前に何度か見たことある。それは滅多に出さない顔で、私にしか見せない表情の一つ。


「主に会いたかった、と言ったらお主はどうする」

『…会いに、ですか』


真っ直ぐに三日月に見下ろされる。こんなにも真っ直ぐなのは初めてのことではないかと思えるほどには混乱してしいた。そう混乱。混乱してると、人は場違いな方に考えが走るものなのか。それとも単に私がそうして回避しようとしているのか。
何も答えれずそのまま見上げる形で固まっていると不意に三日月さんが動き出した。端正な顔立ちが視界いっぱいに映っていき、また同様に彼の中の三日月もよく見えるように……って、え?


『みっ…!?』


悲鳴のような言葉も途中で途切れてしまう。三日月さんの顔がとても近いのだ。視界いっぱいに映るのは三日月さんが顔を近づけて来るからでしかも逃げるに逃げれない程度に腰に手を添えられどうやったって逃げれない。待ってこれキス、するのでは。
ふ、と目が伏せ目がちになりながら近づいてくる三日月さんの顔。ああもう!と半場自棄になりながら来るであろうそれを待つため目をきつく閉じた。

………が、何も来ない。恐る恐る目を開けると鼻先がくっつくかくっつかない位置に三日月さんのどアップ…が……。
ぱちり。目が合った。すると三日月さんはふにゃ、と笑い、おでこにキスをした。


『…!?』

「あいすまぬ。主が可愛くてな」


それどこかで聞きました、割とこの短時間で。とは突っ込めずぼーっと見ていた。さっきのはなんだったのか、ずっとそればかりがぐるぐると回る。さっきどうして顔を近づけてきたのとか…普通、キスされるって思うんだけど…。……あ、もしかして遊ばれた?可愛くて、とか言われたのはさっきの私の顔見られたってこと?キスしないで見られた?…見られた!?


「たまにはこうして二人きりもまたよきかな」


両手で顔を覆い俯く私と違って三日月さんはいい笑顔で私の体をその中に収めていた。お互い寝巻のせいか体温はいつも以上に温かく感じられ、ちょうど胸あたりに耳が行ったとき僅かではあったが少し早い鼓動が聞こえ、嬉しいのと羞恥とでいっぱいで三日月さんの膝の上で丸くなる私であった。




寸止め
(その後私たちは皆が起きてくる声が聞こえるまでそのままだった)

(その時までずっと静かで、まるで、)
(まるで世界に二人きりのような)
(そんな気がした)

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分かりずらいんですけど二人はこっそり恋仲という設定でした。

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