プロシュートが一足先に別の港からフェリーに乗り込んだという連絡を受けて、私とホルマジオは慌ただしく準備を始めた。

「まったく、3人ともゲストなんてヒドイよねぇ…」
「仕方ねェだろ?俺らみたいな奴がお上品な豪華客船のホストを演じるっつーのは無理があるからなァ。」
「でも従業員通路を堂々と行き来出来ないのはかなり動き辛いよ。」

いつもは大体従業員の振りをして何ヶ月かかけて潜るのだが、今回は全員フェリーに乗船する客としてしか、乗船の枠が渡されなかった。この計画の概要を決めたのはジョルノだ。私たちの演技力の問題じゃあない。

【招かれた客として堂々と】という状況に意味がある。

元老院議員は、パッショーネのシマに隠れもせず(うっかりな訳はないが)武器ルートを作ろうとした。それはつまり、ジョルノに「お前など、わたしの脅威ではない」と告げるに等しいことなのだ。

目の前で堂々とシマを掻き回され、砂をかけられたジョルノ。この【ゲストとして潜入せよ】は、そんなジョルノの挨拶がわりの嫌味なストレートだ。されたことは1から10まで全てやり返す。スマートながら相変わらずの執念深さ。さすがボス。



ホルマジオがドレスアップした私の髪を結い上げる。手先が器用なこの男はよく私の髪を弄りたがった。アップスタイルに編み込むと、ドレスのジッパーを最後まで上げて、仕上げとばかりに首筋に素早くキスマークを付けた。まったく油断も隙もない!

「いっ…ちょっと!やめてよね!」
「いいじゃあねェか。オマエみてぇな、幼顔の初そうな女がヤリまくってンのは、男ならよォ〜、みんな燃えるぜぇ?」
「も〜!好きで尻軽女やるんじゃないんだからね!変な設定付け足さないで!」
「尻軽が嫌いな男はいねぇだろ?」
「……居るじゃない。」

ホルマジオは大きな瞳を見開いて少し驚いたふりをした。ニヤニヤ顔は更に皺くちゃになって、腰に回った手が不意に離れる。

「確かになァ、こうしてオマエといちゃついてンのも死ぬほど面白くないだろうしなァ〜。でもよ、もう《兄貴〜!》は卒業したんだろォ?ならアイツの目なんて気にするこたぁねェって話だろ〜?」
「まぁね、それはそうなんだけど…」
「ン〜〜、いや、違ェな、気にして欲しいって話か?オンナってのは、複雑だよなァ…」
「うるさいなもう!ホルマジオばか!きらい!」
「嫌うな嫌うな…相棒には優しくするもんだぜ?」

ホルマジオはいつものように頭を撫でようと手を伸ばしたが、綺麗に編み込まれた自分の力作に気がついて、崩さぬようにそっと頬にキスした。この男…私を女扱いするのが本当に上手いのだ。



ただ、ホルマジオの言う通りで、
私とプロシュートの関係はよく分からない。



暗殺者チームに来てから暫くはプロシュートが私の教育係だった。ペッシと違い、私は別のファミリーからジョルノに拾われてきた。殺し屋稼業は慣れているぶん、教育という教育はされなかったが、それでも、プロシュートはひとつひとつを丁寧に私に教えた。
時々怪我するような失敗をしてはキツくどやされ、心配なのか最初はどこにでもついてきた。だから、周りにプロシュートの女遊びの話をされたとき、すごく驚いたのだ。それくらい、プロシュートはわたしに誠実で、女の影を見せなかった。

暫くして、リゾットが適正を見てわたしとホルマジオを一緒に動かすようになった。
プロシュートはわたしを自分の側に置きたいと抗議したようだったが、いかんせんスタンドの相性が悪い。それからというもの、何故かプロシュートのわたしへの独占欲は膨らみに膨らみ…。

(ホルマジオ曰く『ありゃあ、好きなものが手に入らなくて駄々こねる餓鬼だ。不器用なヤツ…』だそう。)

自惚れかもしれないけど、自分がプロシュートの特別なのは分かってる。(理由は分からないけど) それに、そう思えば思うほど、わたしの特別な視線もプロシュートに向けられるようになってきて、今はお互いによく分からない距離感にいる。

ただ、お互いのことが気になって、意識して欲しくて、どの感情の裏にも特別が潜んでしまう。そんなティーンのような初々しい気持ちを向け合っているのが、暗殺者チームの二人なんて笑ってしまう。



「ほら、ロコ…ぶすくれてんじゃあねぇ。テストだテスト。」
「はぁい。」
「じゃあホルマジオ、ちょーだい。」

ホルマジオの手からサンストーンという赤い石を受け取ってホルスターの真下にある専用のポケットに嵌めた。


『…Can you hear me? My lovely boys & girls.滑り出したキセキは今 I already catch your heartー、』

私が歌い出すと、ポケットの中のサンストーンはみるみる軽くなった。私の歌と同時にホルマジオがリトル・フィートを発動させたのだ。

「どうだ?」
「うん、いつもよりも軽い。良好…かも!」
「そうか。石見せろ。」
「ん。」

私はポケットの中からサンストーンを取り出してホルマジオに見せる。
これはペアで仕事をするときの準備だ。
私の能力はスタンド能力を半減させること。敵も味方も関係ないので、ホルマジオのような能力は私の力が直に影響してしまう。
つまり、【思ったより縮まない】間抜けな状況になってしまうのだ。
怪盗稼業にとって大きな荷物は命取り。

この石を縮めるテストは、ホルマジオが私のスタンドが発動する中で、どの程度縮めることが可能かの検証になる。予め縮めた石をホルスターに入れておけば、その重さの変化で自分がいまリトル・フィート射程圏内のどこにいるのかがわかるようになっている。流石、頭のきれる男の策はいつもあらゆる効率が良い。

「プルトニウムだからな、ちと縮みすぎか?」
「そんなもの運ぶときの最適サイズなんて誰も測ったことないでしょ。」
「たしかにな。さ、車乗れ。行くぞー。」
「待ってホルマジオ、行ってきますの…」
「あぁ?テメェ早速ノリノリじゃあねぇか。このビッチめ。」
「兄貴はどうかしらないけど…他の男はビッチが好きらしいからね。」
「恋するバンビーナだったり、キスをせがむビッチだったり忙しいなぁ、オメェはよぉ。」
「…うるさい。」


他の汚らしい男どもとしなきゃいけないっていうなら、その前にどうしても心の篭ったキスが欲しい。ホルマジオは私を猫可愛がりしてるから、私がせがむと上気せるようなキスをくれる。噛み付いて、舌先を撫でるような。

本当はプロシュートにして欲しいけど、仕事のたびにそんなおねだりしていたら、マンモーニだと叱られてしまうから。好きだから、プロシュートには一人前だと認めて欲しい。



私の我儘の皺寄せで、ホルマジオは長い睫毛を伏せて私の唇を食んでいる。
下睫毛はちょっとだけプロシュートに似てるなとか、最低な事を思いながら。






《ユニバーサル・バニー》
(大人で子供、純粋で不誠実、矛盾だらけの私のステージにようこそ。)

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