ジョルノからの指示書とターゲットの確認をする為、プロシュートとホルマジオ、リゾットとわたしの4人はソファに集結していた。

「随分用心するじゃァねェか。ロコは必要なのか。」

「忘れたの?【Sconosciuto(不明者)がいる時はロコの同行必須】でしょ?」

人を邪魔者みたいにいうプロシュートをひと睨みして、「ね、リゾット!」と同意を求めると、あぁ…と心配そうな返事が戻ってきてあまりの信用の無さにぶすくれれば、ホルマジオがクツクツと笑い出し、その脇腹を軽く殴った。

ジョルノから直々に命がある仕事は殆どが政治に絡むものだ。故に、1つの仕事の中で熟す任は多く、手際は問われ、失敗は許されないという鬼の三拍子が揃っている。
そのなかでもターゲットリストに【Sconosciuto(不明者)】がいる場合は相手がスタンド使いである可能性も加味し、保険としてわたしが同行する決まりになっていた。

私が歌えば、能力のせいでこちらのスタンド使いも十分に能力を発揮できない。相手に致命傷の傷は負わせることができない代わりに、相手もスタンド能力が著しく下がるので、もしも誰かがしくじった場合、相手を生け捕りに出来る。

幸いながら今のところ【Sconosciuto(不明者)】がスタンド使いというパターンは多くない。だが、これがジョルノの依頼となると、可能性は五分五分にぐんと上がる。

「ターゲットは、元老院議員…と、プルトニウムだな。ホルマジオ、丁寧に扱えよ。」
「アァ?爆発したってリトル・フィートなら問題ねェだろ。」
「そうじゃねェ…持ち込まれたピカピカ新品のプルトニウムじゃねェと意味がねェだろう。コイツが武器商人から武器を買ってるでかい証拠がいる。」
「武器商人……」

今回の仕事は2ヶ月間の大詰めだ。
プロシュートが潜り、大統領指名で3年前から終身議員に就任した科学者の男が政治利用の為に国外の武器商人からプルトニウムを大量に仕入れていた事を突き止めた。

プルトニウムの政治利用自体はパッショーネの知らぬ所(核共同保有ルールなどクソ喰らえ)だったが、男の欲は遂に政治の範疇を超え、武器の売買は男の私腹を肥やす事に使われ始めた。

プルトニウム以外の武器が闇市場に流通し始めたのだ。

パッショーネの関与しないところで、無知な者に武器が渡り、組織のパワーバランスが崩れだした。事の発端はこれだ。

プロシュートの報告書からプルトニウムなどの武器類は男の息のかかった観光客船でやってくる事まで判明している。

今回はその観光客船に潜り、プルトニウムと武器をホルマジオのリトル・フィートで確保。プロシュートのザ・グレイトフル・デッドで船内の乗客を少しばかり粛清する。
そんな容赦ない下準備を終えてから議員の男とジョルノの、もう交渉とはいえない交渉が始まるのだ。

「…武器商人絡みは良い思い出ねェなぁ。」
「ね、前はすごいムキムキのアジアンマフィアが用心棒で怖かったよね…。」

なぁ、とホルマジオが私の肩に手を回す。

ホルマジオとは良くコンビを組まされた。怪盗みたいに目当てのブツを小さくして盗み取るのはお手の物で、大概わたしは見も知らぬ国の用心棒がスタンド使いではないかのチェックに駆り出された。

「ボスの仕事はいつも厄介だからよォ。」
「でも今回は良いおカネにはなりそーね。毎日カンノーロ3つは食べられそう…」
「小せェ贅沢だなまったく…」

二人でクスクスと笑い合っていると、プロシュートが眉間に皺をよせ、私の頭をグイと引き寄せた。首をひねりかけてギャーギャー騒ぐと何故かウルセェと凄まれる。なにそれ理不尽…と睨みをきかせると、引き寄せられた腕の中にふと、シトラスのプロフーモが香って、への字に曲がっていた口が綻んだ。

私が以前、ジョルノに「その香り大好き!」と言ったのをあんなに不機嫌そうに隣で聴いていたのに…らしくもない爽やかな香りを付けて、可愛いったらない。

「へへへ…」

プロシュートの胸に頭をすりすりと押し付けると、頭上から何時もの鼻で笑った声がした。分かりづらいようにみえて、こういうところは分かりやすい。わたしも多分にもれず分かりやすいけど。プロシュートがわたしの気を引こうとしたのだと思っただけで鼓動が速くなる。

「ちゅーする?」
「アァ?言ってろ、馬鹿。」

挑発的なわたしの額をデコピンして、プロシュートがふうと煙草を蒸した。

「オイオイ、俺を仲間外れにして作戦会議中にイチャつくんじゃあねェよ。」
「お前たちはまったく…」

リゾットはため息を吐いて冷めたコーヒーを啜った。コーヒーカップの下敷きになった3枚のクルージングチケットにコーヒー染みが丸く滲んだがどこ吹く風だ。



《ユニバーサル・バニー〉
(ピンクの季節風はいまどこに?)
pink monsoon
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