ロコはたしかな足取りで密集した屋根の上を歩いていた。高所に流れる風は建物に遮られることがなく荒く頬を吹き付ける。太陽に一層近いせいで眩しさに目がちかちかした。目を細めて一望するネアポリスの街並みはいつも私の心を穏やかにする。こうして屋根の上で汐風を受けながら、観光客の賑わう声を聞けば、故郷に帰ったような気がして気持ちが昂ぶった。

「…Che bella cosa na jurnata 'e sole,
n'aria serena doppo na tempesta… 」


風の轟々という音が止んだ一瞬に、口をついてバカンスにぴったりの『O sole mio』を口ずさむ。ご機嫌な午後の陽気だ。






「どうしました、レクイエム。」
パッショーネを掌握して久しく経った頃、ジョルノはネアポリスのレストランテ、そのVIPルームを久々に訪れていた。しかし、席について間も無く姿を表したレクイエムに、同行していたブチャラティは顔を顰め攻撃に備える。

「どこから攻撃されている…!」
「落ち着いてください、ブチャラティ。攻撃と決めつけるのは早急です。」
「しかしッ!レクイエムやスティッキィ・フィンガーズが反応しているじゃあないか!!」
「ええ、よく見てください。反応はしていますが、臨戦態勢ではないでしょう。…彼女ですよ。」
「彼女…?しかしッ…」
「どうせ、またあそこです。」

ジョルノが指差したのは頭上。ブチャラティがため息をついて携帯電話を取り出すと、ジョルノはそれを制して席を立ち、外に向かって歩き出した。

「ジョルノ、危険だ。俺が行こう。」
「いいえ、僕が行きますよ。彼女を呼んだのは僕ですから。」

表に出て、レクイエムで植物に生命を与え蔓を伸ばす。そこに足をかけてレストランテの屋根に登ると、そこには空に向かって歌う彼女が立っていた。






「美しい声ですね、まったく…聴き惚れてしまいます。」


歌に乗ってジョルノの声がしたような気がして振り返れば、そこには予想通りの人物が佇んでいて、思いがけず笑顔が溢れた。

「ジョルノ!!」

駆け寄ってぎゅうと抱きつけば、危ないですよという冷静な声が頭上から聞こえたが、腰はしっかりと抱きとめてくれている。

「レクイエムが反応していましたよ。たまにはコントロールする努力をしてはどうなんです?」
「うん?あ、歌が聞こえちゃったのね。ごめんごめん。」
「ロコ、あなたの能力はスタンドを骨抜きにするんです。もっと自覚を持ってください。」

開口一番の小言に目を逸らせば、ジョルノの鋭い視線が胸元に向けられた。あ、また小言が飛んでくる!

「…またこんな布地の少ない服で過ごしているんですか。」
「…いいでしょ別に。アッサッシーノらしい服なんて誰も着てないもの。」

ジョルノの鋭い視線に負けないように睨み返せば、ジョルノはため息を吐いて、添えられた腰の手に力を込めて私を引き寄せた。ふわりと香るシトラスが爽やかで鼻腔を擽る。

「ロコ…貴女が心配なんです。」
「なら最初からそう言えばイイのに。忙しいジョルノに久々に逢えたのに、イジワルばっかり言うんだもん!」
「…すみません。貴女があまりにもチームに馴染むのが早いので、少し面白くなかったのかもしれない。」
「なにそれ…。ジョルノが私をリゾットに預けた癖にー!」
「貴女の能力を考えれば暗殺者チームに所属するのが妥当です。ただ、あそこも曲者だらけですから…馴染めずに泣きついてくるかと思ってたんですがね…相変わらずの負けず嫌いだ。」

あまりに矢継ぎ早の言われように拗ねて爪先に視線を落とせば、ジョルノがあやすように髪の毛を一房掬って自然にその束に口付けした。相変わらずキザな奴だと視線をやれば、微笑んでいたジョルノの瞳がまた冷たい視線を帯びた。

「…今度はなに!」
「いえ…兎に首輪とは随分と心配性なことだ。」

ジョルノは胸元に光るサファイアの華奢なネックレスを手に取ると、それをグイッと引き寄せて、私の顔をよくよく覗き込んだ。こんなの尋問じゃん!

「あ、これは…じ、自分で買ったの!」
「下手な嘘ですね。サファイアなんて、貴女らしくもない。」
「わ、私だってジュエリーくらい身につけるわよ!」
「……本当に、貴女の『兄貴』は独占欲が強くていけませんね。」

ジョルノの瞳がギラリと光る。きっと、このジュエリーが誰から贈られ、私がどんな気持ちでこれをつけているのかジョルノは知っている。知っていて、こんなことをいうのだから。


「ジョルノ…意地悪。全部わかって言ってる。」
「許してください。ロコは僕がボスになってから初めて手に入れた宝物なんです。遠くに置くのは気が気じゃない。」
「宝物なんて白々しい…武器って言ったら?」
「…どんな切れ味のナイフでも、美しいカッティングなら頻繁に使うのを躊躇ってしまう…美しい武器は罪深いんですよ、ロコ。」
「それ褒めてる?」
「ええ、勿論。」

すっかり機嫌を損ねた私の瞼にキスをして、ジョルノが手を差し出した。こんなふうに言い合いをしているけど、ここは屋根の上。そう考えるとなんだか滑稽で、くすくすと笑いが止まらなくなる。

「貴女はいつも楽しそうですね。」
「なにそれ!呑気って言いたいわけ?」
「おや、先に言われてしまいました。」
「ジョルノめ〜!えい!」

ジョルノの右頬をびよんと抓ると、お返しとばかりに両頬にキスを落とされる。

「この僕の頬を抓るのは貴女くらいなものです。」
「わーい、なんか嬉しいな!あれ?でもなんで呼ばれたんだっけ?」
「それは屋根から降りてから話しましょう。」





《 ユニバーサル・バニー 》
(宇宙を股にかけるうさぎちゃん、今日は屋根。)


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O sole mio
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