眩しいほどのあなた


※ブチャラティと恋人同士のヒロイン設定





「アバッキオ、あーん。」
「自分で食え。」
「やだやだ、あーん!」
「テメェ…」

アバッキオを苛つかせるのは、ジェラートを口に入れろとねだり、隣の席で足をバタつかせる同僚の女だ。今日は一日この調子でアバッキオにベッタリで、何をするにもああだこうだと煩く構われ、ひとりの時間と静寂を愛するアバッキオは遂に限界を迎えかけていた。

「怒らないでよ、アバッキオまで…」

ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いたロコに、やっぱりそうかと小さくため息が出る。こいつが俺にべったりなときは決まってブチャラティと喧嘩をしたときだ。不安でたまらないロコは俺に邪険にされながらも隣に来るのだ。無意識に頼りにされることに悪い気はしないが、この甘え方にはいつも頭を悩ませている。

もし俺以外にこんな風に隙を見せて甘えれば、直ぐにとって喰われてしまうのは見えている。だが、そう考えるとこのバンビーナは、バンビーナなりに本能で人選をしているのかもしれない。やはり、悪い気はしない。

ジワリと目尻に滲み始めた涙を親指で拭ってやると、あまり嗅ぎなれないシダーウッドのスパイシーな香りが鼻をついた。気のせいかとも思ったが、ロコが目を擦ろうと身動ぐと、たちまち香り立った。

「…プロフーモ付けてんのか、」
「…えっ、あぁ…そういえば…うん。」
「…男物だろ…オークウッドなんて、女は使わねェだろう。」
「…でもいい香りでしょ!プロシュートがっ…!!ぁ、あーうん、いや、」
「プロシュート、だぁ?テメェ、まだあの野郎とつるんでやがるのかァ?」
「うっ…もう食事には行ってないよ!これは、その…この間リストを持って行った時に会って…プロシュートの香水が好きって言ったら、くれたの…だから…」

ブチャラティとの喧嘩の原因が分かったところで、もう一度深いため息をついた。暗殺者チームのプロシュートはロコとは仲が良く、ブチャラティとロコが恋人同士になってからも、隙をみてはロコにちょっかいをかけていた。当のロコ本人は、プロシュートが自分に想いを寄せているとは微塵も思っていないため、ガードが甘い。甘過ぎる。
「あなたの香りが好き」だなんていい口説き文句だ。常に落ちそうで、だけど落ちない。駆け引きをしてるようで、まったくしていない。どの女とも違うコイツを気にいる男は多い。

「オイ、オメーブチャラティがもし、女の匂いをつけて帰ってきたらどうすんだ。」
「えっ!ヤダよ!なんで??」
「なんでじゃねェ、テメェがいましてることはそういうことだ。」
「なにそれ。」

ロコはしかめっ面からきょとんとして頬杖をやめ此方を見た。頬杖の跡が右の顎あたりにくっきり残ってなんて間抜けな面だ。
まるでいってる意味が分からないのだろう、まつ毛が何度か瞬いて、説明しろと急かす。

「自分の女が別の野郎の匂いをプンプンさせてやがんだ。ブチャラティじゃなくても腹が立つだろ。現に俺は腹が立ってるぜ。オメェの不用心さにな。」

頬をぎゅっと押し潰すと、ロコはうーと呻きながら潰れた頬のまま話した。

「なんれ、あふぁっきほは、おほるの(なんで、アバッキオが、怒るの?といいたいらしい。)」

「知るか、マヌケ。」

不意をついた鋭い質問の答えをはぐらかしたのはいいが、その少しの動揺を自覚してしまったことが癪に障る。ああ、そうだ。ブチャラティやプロシュートの野郎と俺も同じなのだ。この薄汚い世界の異端児を心の底から甘やかしたい。

俺の返答に気を悪くしたロコは頬を膨らましたかと思うと、午後の微睡みの刹那、俺の手に握られたピスタチオのジェラートがとろりと輝くスプーンに食らいついた。

「なっ…テメェ…やりやがったな!」
「わたしにイジワルすると、こーなるんだからね!」


にひひ、と無邪気に笑うその笑顔がたまらなく眩しくて、瞬きが増える。

あぁ、憎らしい。
砂漠の底に射した、
永遠に俺のものにならない一筋の光め。




【眩しいほどのあなた】
(俺のそばで、この目が焼けるまで)







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