流れ星を探している。


「なーに黄昏てんの?」


夜が開ける直前に見た、あの琥珀の星を。


「黄昏てるわけじゃなくて、探し物」
「夕方に流れ星はないだろ?」
「と、思うじゃん?」
「それ、オレのやつ」


放課後、教室にはあたししか居なかったはずなのに。いつの間にか隣に並んで あたしと同じように空を見ている米屋の横顔は夕日に照らされ少し赤い。


「帰ってなかったの?」
「補習でした」
「流石お馬鹿」
「今回赤点五個あったぜ。流石オレ」


すげーだろ、と 笑い事に出来るそのメンタルの方が凄いと思う。もし今この場所で流れ星を見つけたら あたしは間違いなく『米屋が卒業するまで先生の胃が持ちますように』とお願いするだろう。


「流石に 夕方に流れ星は無いか」
「諦めて帰ろうぜ」
「一緒に帰るん?」
「え、駄目なん? よーちゃん寂しい」
「よーちゃんはもう十七歳なんだから 一人で帰りなさいよ」
「よーちゃん大人になりたくねーなー」


とっくに帰り支度は済んでいる。通学鞄を肩にかけて赤く染った教室から出ると 当たり前のように米屋は隣に並んでいた。


「三輪くんとかツリ目男と帰んないの?」
「別に一緒に帰んなきゃいけねーわけじゃねーけど。 出水は確か今日防衛任務で、秀次は自業自得だっつってさっさと帰って行った」
「三輪くんに見捨てられたんだ」
「そ、だからよーちゃんと一緒に帰ろうぜ」
「よーちゃんは仕方ない子だなあ」


薄暗い昇降口で上履きから少しだけ踵が擦れたローファーに履き替える。片足で立つと運動が得意ではないあたしはバランスを崩してしまうのだが 米屋が手を貸してくれたので転けずに済んだ。米屋は意外と紳士のきらいがある。


「まだ夜は開けてなかった」
「うん」
「紫とピンクの空に、流れ星がブワーッて」
「うん」
「その流れ星は、琥珀の星から出てきたの」
「へえ」


いつ見たのかは覚えていない。
どこで見たのかも覚えてない。
覚えているのは、夜が開ける直前の空は紫とピンクが混じりあっていて綺麗だったと言う事と、小さな琥珀の星から 流れ星が数えきれない程に溢れ出てきたという事だけ。


「その琥珀が、本当に綺麗だった」


流れ星を探している。
夜が開ける直前に見た、琥珀の目を持つ人を探している。


「そういや 出水の目も琥珀じゃね」
「…あんなツリ目じゃ無かったし」
「ふーん」


琥珀の目を持つ人を知っている。
そいつの名前は出水と言って、同じクラスで、油を舐めたみたいに口がよく回るヤツで、それがどうにも偉そうで気に食わなくて、あたしと絶妙に性格が合わなくて。
正直出水の事は、好きじゃない。


「…あのツリ目、流れ星作れる?」
「さあなぁ」
「人を助けたーとか自慢してたり」
「言われてねぇな」
「…出水の戦うとこ、見てみたい」
「危ねぇからやめとけって。 それにオレ出水の任務の日とか知らねーし」
「あはは、そーだよね」


流れ星を探している。
夜が開ける直前に見た、あの琥珀の星を探している。
あの人は一体誰なのだろうか。


「もしその『琥珀の流れ星』が出水だったらどーすんの?」

「…それは悪夢だわ」


**


夜明けを探している。


「何黄昏てんだよ」


星を沢山散りばめた、あの紫の夜明けを。


「黄昏てねーよ」
「夕暮れと夜明けは真逆だろ」
「分かってるっつーの」


放課後、教室にはおれしか居なかったはずなのに。いつの間にか後ろに居た米屋の顔は 夕日に照らされて少し赤い。


「帰ったんじゃねーのかよ」
「補習でした」
「流石バカ」
「今回赤点五個あったぜ。 流石オレ」


授業の後も勉強とか流石に疲れるわ。と 肩を回すこの悪友に『お前のバカに毎度付き合わされる先生の方が疲れてるわ』と、言ってやりたい。


「空見てても見つかるわけねーか」
「さっさと諦めて帰ろうぜ」
「おー。 槍バカ今日本部行く?」
「もち。 ランク戦しよーぜ」
「負けた方がコロッケ奢りな」


とっくに帰り支度は済んでいる。通学鞄を肩にかけて赤く染った教室から出ると 当たり前のように槍バカが隣に並ぶ。


「三輪 迎えいかねーの」
「別に一緒に帰んなきゃいけねーわけじゃねーけどな。補習だっつったら自業自得だっつってさっさと帰って行った」
「三輪に見捨てられてんじゃん」
「ゴミを見るような目だったわ」
「想像できるのがウケる」


薄暗い昇降口で上履きから少しだけ踵が潰れたローファーに履き替える。槍バカのスニーカーはおれのと違って踵は潰れていなくて綺麗なままだ。槍バカは意外と物を長く大事に使うきらいがある。


「太刀川隊と三輪隊の任務が被った日にさ」
「おー」
「イレギュラー門の近くにいた女の子助けたじゃん」
「おー」
「あの女の子、お前に任せたけどその後どうなったん?」
「普通にエンジニアに受け渡して 記憶措置」


遠くて姿はよく見えなかった。
薄暗くてどんな子なのかも見えなかった。
唯一見えたのは、夜が開ける直前の空は紫とピンクが混じりあっていて綺麗だったと言う事と、小さな紫の空には 星が数えきれない程に散りばめられていたという事だけ。


「あの目は綺麗だったな」


夜明けを探している。
おれのアステロイドを映した、あの夜明け空の目を持つ人を探している。


「そういや 名前の目も紫じゃね」
「…同じ紫でも天と地だよ」
「ふーん」


紫の目を持つ女を知っている。
そいつの名前は名前と言って、同じクラスで、バターを舐めたみたいに口がよく回るヤツで、それがどうにも偉そうで気に食わなくて、おれと絶妙に性格が合わなくて。
正直名前の事は、好きじゃない。


「…あの女、なんか言ってた?」
「さあなぁ」
「ここ最近の記憶が曖昧だとか」
「言われてねぇな」
「…話聞いてみようかな」
「やめとけって。 夜明けを探してるとか言ったら、弾バカのあだ名が暫く坂本龍馬になるぜ」
「槍バカ 坂本龍馬 知ってんのかよ」


夜明けを探している。
星を沢山散りばめた、あの紫の夜明けを探している。
あの子は一体誰なのだろうか。


「もしその『紫の夜明け』が名前だったらどーすんの?」

「…それは悪夢だな」


**


『槍バカ!その子任せるわ!』
『おーけーおーけー』


最近 各所でイレギュラー門が開く。今日は住宅街に門が開いた。夜明け前だし人なんか歩いてねぇと思ったのに、なーんでお前こんな時間に歩いてんのよ。


「名前」
「…よ、米屋?」
「怪我は?」
「無い、無いけど、あれ、何?」
「ん、トリオン兵知らねぇの?」


名前の細くて白い指が震えている。恐怖で震えているのかと思ったが 目を見てそれは違うと 直ぐにわかった。


「凄い…」
「あー…すげー威力だよな」

「米屋、あの人 誰?」


名前の紫の目が 興奮と感動で揺れている。
あぁ、薄暗くて弾バカだって分かってねーのか。
そう言えば最近流行った映画で言ってたな、今みたいに薄暗くて誰が誰だか見分けもつかねぇ時間の事を、彼は誰時…彼者誰時って言うんだっけ。


「後で教えてやるから今は逃げるぞー」
「あ、うん」


名前の華奢な体を抱き上げて迷うこと無く本部へ向かう。いつもだったら安全な場所に避難させてオレも直ぐに現場に戻るけど、今日は別。


「米屋…あたしこれから何されるの?」
「大丈夫大丈夫。安心しろって」
「米屋…なんか、怖いよ…?」


さっきまで弾バカのアステロイドを全て映していた紫の目が、今は恐怖に震えている。
怖がんなくても大丈夫だって。
お前は今から全部忘れんだから。


「名前」
「なに?」
「好きだよ」
「……え?」


じゃあ エンジニアさん達、どうかよろしく。
オレの好きな女が弾バカに惚れちゃったから しっかり記憶 消しといてね。


「よりにもよって弾バカかー」


弾バカも惚れっぽいところあるしなー。弾バカと名前って妙に似た部分あるから、直ぐに惹かれあっちまいそうで本当に怖いんだよなー。そうならねぇようにオレがしっかり気を付けねぇと。

あーあ、まじで


「悪い夢であってくれよな」


彼者誰時のナイトメア


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