イコさんって優しい人なんです。それもちょっと、異常なくらい。

人に優しくするのって難しいやないですか。皆平等を意識しても所詮人間、好き嫌いとかあるし、どうしても贔屓とか…ね? 優しくしたつもりが"いやらしい"に捉えられたり、一方通行の自己満になってしまったり。年取れば年取るほど『人に優しくする』ってハードル高くなるんですよ。まぁおれまだ十七なんですけどね。多感なお年頃やからこそっちゅーか。あはは

でもイコさんはちゃうねん。皆平等。しかもハードルめっちゃ低い。こっちが心配になるくらい簡単に、ポイポイポーイって、持ってる優しさぜぇんぶ人にあげてまうんです。
しかもおもろいのがな。イコさんの優しさって、人にあげた傍から温泉みたいにムクムク沸いてきて、限りがないんです。おもろいでしょ?え?あぁ、やから、びっくりしたって話ですって。


「おっまえ、かわいないな」


イコさんがあーんな目を、女性に向けるなんて。


世の中の可愛いは比較対象であるブスの上に成り立っとるんじゃけえ世の中はもっとブスに感謝と敬意を払い丁重に扱うべきじゃ


「あれ?隠岐じゃん」
「あ。名字先輩やー」
「どした?傘忘れた?」
「そうなんですよねぇ」
「朝から雨降ってたよね?」
「ねぇ。不思議ですよねぇ」
「お前の五感と脳みそがな」


放課後、昇降口にて、水も滴る(予定の)優男を発見。少々モサッとしていてのんびり屋さんなのが『いやいや、モテませんから』の理由なのだろうか。まあ私はコイツの『いやいや、モテませんから』を信じてはいないが。


「本部なら入ってく?直通路までなら直ぐだし」
「えっ!いいんです?」
「えっ何その驚きよう」
「名字先輩のなけなしの良心に、」
「お疲れー」
「待って!」


ぼふんと傘を開きながら一歩踏み出すと、がしりと腕を掴まれる。こいつのモテるところはどこぞの緑黄野菜と違って首根っこではなく腕を掴むところだ。まあ『いやいやモテま(略)』らしいが。


「せめて!最後までボケさせてくださいよ!」
「ごめん。なけなしの良心使い切っちゃって」
「笑顔が怖いっ」
「じゃそうゆうことで、いや入んなし」
「ちょうどええスペースがあったんで」
「ここはスペースではなく雨を一切肌に当てないための大事なディスタンスです」
「まあまあ、ええやんええやん」
「急に馴れ馴れしいし」
「傘持ちますよ」
「急に男前だし」


傘を持とうと伸ばされた隠岐の手をパシンと叩き落とす。『濡れますよ、もっとこっち寄り』なんてされてうっかりトキめいちゃうといけないし、一応こいつは後輩だからなけなしの良心で優しくしてやらないといけないから。


「ていうか本当になんで傘忘れた?」
「この前傘盗まれてー、買い忘れててー、今朝は水上先輩と相合傘で来ました」
「ふぅん。アイツなんやかんや良い奴だよね」
「で、もうすぐここにイコさんが来るんです」
「なんで?」


本当になんで?生駒さんがこの高校に通っている生徒ならまだしも、あの人大学生だろ?わざわざ隠岐の為に大学から来るのも意味分かんないし、生駒さんが来るのに私の傘に入ってる隠岐も意味わかんないし。いや、本当に、なんで?


「傘忘れたって連絡したら、行こか?って」
「えっ、お前それ受け入れたの?」
「はい。お願いしますって即レス」
「日本人の美徳とされる遠慮の心はそう簡単に捨てていいもんじゃないんだよ」
「で、正門に到着したイコさんがあちら」
「3分クッ○ングも驚きの準備の良さだな」


隠岐が指先をぴしりと揃えて指した先に、生駒さん。存在感がえぐい。あの人黙ってたらめちゃくちゃ威圧感あるし、顔見知りじゃなかったら普通に怖いよな…待ってあの人傘持ってなくね?めっちゃ腕組んで佇んでね?ずぶ濡れじゃね?

………は??


「イコさんお疲れ様ですー」
「おうお疲れ。自分なんでおるん」
「ここの生徒だからに決まってんでしょ、じゃなくて!なんで傘持ってないんですか。隠岐迎えに来たんですよね?」
「おん。俺も傘忘れたから一緒に濡れて帰ろって」
「"みんなでやれば怖くない"もクレイジーを遠慮する権利くらいありますよ」


いや本当に考えられないなんなのこの人達。え、もしかしてこの人達って私と同じ人間なの?嘘でしょ? 生駒さん現在進行形でザアザア雨に打たれてんのになんでそんな堂々としてるの?隠岐もなんでなんともない顔してヘラヘラしてんの?

…えっこれってもしかして、無意識の内にイケメンと相合傘をしたかった私が生んだイマジナリーレインなの?んなら一生相合傘なんてしねぇから頼むよ神様今すぐレインをディサピアぁ!!


「アッ無理私の為に私の思考停止を推奨します」
「名字先輩顔すんごい事になってましたよ」
「中国の伝統芸能顔負けやったで」
「黙っとれや今思考停止しとんじゃけ」
「おお。変面『ヤクザ』ですやん」
「中国の伝統芸能にジャパンをぶち込むな」
「せやで隠岐。幾らお前がイケメンや言うても今回ばかりは名字の仰るストリートや」
「中国とジャパンの平行あったかハイムに洒落たドイツ人をホームステイさせないでください」


とりあえず子猫とセットじゃないズブ濡れの強面とか見るに堪えないんで入ってください。傘を傾けて水も滴る強面を誘う(勿論隠岐側だが)と、何故か強面の目がカッと開いた。怖っ


「自分、良心って、知ってたん…?」
「おつかれっしたー」
「待って待ってちゃうねんびっくりしただけやねん」
「首根っこ掴まないで貰ってもいいですかね」
「自分と優しさって…孫とパワードースーツくらい似合わんやん…?」
「隠岐、最期の透明な雨を堪能しろ」
「俺の血で赤く染るの確定やんそれ」
「あっ、水上先輩とマリオまだ学校おるんですって!おれちょお傘入れてぇって言うてきますわ」
「「ちょっと待って」」


ちゃんと待っとってくださいよー。へらりと笑った隠岐が傘から抜け出し、玄関まで爽やかに駆けていく。待って、水上と細井に連絡してここで待ってればいいじゃん。どうしてそんな無駄なことをするの隠岐、イケメンだからって何しても許されると思うなよ隠岐


「私を置いていかないで隠岐!」
「さながらヒロインの恋敵やん」
「勝手に入ってこないでください!」
「お邪魔します!」
「いらっしゃい!」


正門前、ずぶ濡れの強面と相合傘の図。通り過ぎる後輩達がギョッとした顔をしたと思えばすかさず目を逸らす、そんな図。どうしてこうなった。生駒さんもうずぶ濡れなんだから諦めろよ。今更雨を凌いだところでどうせお前は風邪ひくバットエンドなんだよ。


「………」「………」
「いや急に黙るのやめてくださいよ」
「…今、思ってんけど」
「なんですか?」
「俺、相合傘とか初めてやん」
「いや知らないですけどね?」
「大人になっても楽しめるのが相合傘のええ所やと思ってんねんけど」
「初心者が相合傘を語るなよ」
「初体験が自分って、どうなん?」
「今すぐ出て行ってどうぞー」


初体験が私で何が悪い。勝手に入ってきた癖に失礼極まりない男だな。生駒さんの背中をグイグイと押して傘の外へ追い出すと、何故か頭の上に大量の雨が降ってきた。なんで?


「あ」
「何してんの。はよ入り」
「それ私の傘なんですけど?」


いつの間に傘を奪われたのだろうか。そう言えば『私を置いていかないでモサ男~』『さながらヒロインの~』の時には既に、私は傘を持っていなかった気がする。え、何それ、なにそれ


「うっかりトキめいちゃったらどうしてくれるんですか馬鹿!!」
「関西人に馬鹿は禁句や!!!!」
「うわ声デカ怖っ」
「名字、こっち来ぃ」
「な、なんですか…」


そろりそろり、足元に溜まった水を蹴りながら、生駒さんの(持っている私の)傘の中へ入る。傘を持っていない方の手でがしりと肩を掴まれた。雨で前髪が垂れた生駒さんの顔がググッと寄ってくる。なに!怖い!


「関西人に、馬鹿は、禁句や」
「必死か」
そういう意味ちゃうねんけど、これ関西の伝統芸能みたいなもんやから」
「知らんがな。今すぐ離して」

「マリオ見て。イコさんと名字先輩相合傘でチューしとる」「ぅえっ?!ってちゃうやんけおもっくそ喧嘩してるやんけ!!!」「仲ええなぁ」



mae

Not cute!!


×
nanoへのご支援
- ナノ -