美容院は月に1回、トリートメント代は必要経費。
メイク用品よりもスキンケア用品にお金をかける。
白い肌はこの世の正義。
シャドウとリップはこまめに確認、コンディションと季節に合わせて彩る魔法。
ネイルは校則で禁止されてるから出来ないけど、それでもウォーターケアは欠かさない。一番女の子らしく見えるオーバル型に整える。
頭の先から爪の先まで可愛くいたい。女の子ってだいたいそんなものでしょう?
「おっまえ、かわいないな。」
「………は?」
■いや別に自分のこと可愛いって思っとるわけじゃにゃあんじゃけど他人に可愛ゆうにゃあ言われたら腹立つあの現象ほんまになんなん?■上がりにくい頑固な目頭はしっかりと、中央は愛らしく見えるようにくるんとさせて、目尻は女性らしく緩やかに。鏡に映るパーフェクトなまつ毛を見て、ふふんと一つ鼻を鳴らす。中々上手に出来たじゃないか。自己満足ではないか誰かに確認をして欲しい、し、そのついでに自慢もしたい。さて、誰にするか。
「水上くん」
きょろり。辺りを見渡して、縦に長い(頭部のみ横にも長いが)背中に声をかける。声をかけてから、一秒、二秒…、振り返らない。無視をされている。
「み ず か み!!」
「うるっさ。なんやねんトイレなら教室でて左直進階段前左折やで」
「んなもん知っとらァ!!」
くるり。面倒だという感情を一切隠さず振り向いた彼の名は緑黄色野菜。ボーダー直々にスカウトされ関西からやってきた強者戦闘員である。ちなみに私もスカウトされて他県からやってきた強者オペレーターだ。
同じ境遇の同級生。私の方がほぉんの少し(重要)だけ入隊が早かったこともあり「色々教えてやってくれ」と 学校での彼の世話を押し付けられたのは、もうどのくらい前の事だったか。当時は貧乏くじを引いたと落ち込んだりもしたが、それなりに月日を過ごした今でも貧乏くじ引いたと思っている。
「あかんあかん、ヤクザが出とるで」
「あっ、ついうっかり…」
「ほんま自分気ぃ抜いたらすぅぐヤクザになってまうんやから。気ぃつけや?ほなまた明日」
「うんありがとうまた明…ちょお待てや」
くるり。爽やかに踵を返したブロッコリーの首根っこをがしりと掴む。
「まつ毛見ろっつってんじゃん」
「言われてないし強制やし」
「どう?変なとこない?」
背の高い緑黄色野菜に合わせるように背伸びをして、ぱちぱちと瞬きを数回。瞬きの合間に見える覇気のない彼の表情には気付かないふり、というか無視だ。見ろ。感想を言え。
「ええんちゃうの。くりーんなってて」
「よしっ」
過去、ビューラーをする私に向かって『まつ毛ギロチンやん…』とドン引きした男から頂いた「ええんちゃうの」判定に、グッと拳を握る。まつ毛はOK。後はリップを塗り直せば完璧だ。
「ちゅーか本部行くだけなんに」
「本部行くからやってるの」
「さいですか。なんでもええけど早よせんと置いてくで」
「もう終わる、一緒に行く、待って」
呆れたようにこちらを見下ろす彼は、なんやかんやで良い奴だから嫌いになれない。ササッとリップを塗り直したら、んまんまやって全体に馴染ませる。
大して中身の入ってないスクールバッグを肩にかけ、スカートの皺を軽く叩いたら、よし完璧。これが、最近の私の放課後ルーティン。本部へ辿り着いたらどうせ直ぐに換装体になる私の、大事な大事なルーティン
憎き『生駒達人』を、ぎゃふんと言わせるための、ルーティンだ。
□ ■ □ーー事の発端は、南沢海の暴走だった。
中央オペレーター。隊に属さない本部所属のオペレーター。基本事務作業に加え、門の補足、混合部隊やソロ隊員のオペレート、部隊同士の合流指示や誘導に、市民への緊急アナウンス。その他諸々、出来ることはなんでもやる、地味ではあるが必要不可欠な存在だ。
その日はいつにも増して、基地南西部の門の開きが多かった。B級野良共を集めた混合部隊をオペレートしつつ、多方面にいる部隊へ加勢の通信に誘導に。
正直に言う。めちゃくちゃ大変だった。これを無事に終えることが出来た暁には、かなり値の張る某女神カフェでカスタマイズを大量に施した化け物カロリードリンクを八本は飲んでやろう。そう思うほどに、大変だった。
けれども、だがしかし。大変だと言っても、やらねばならない。この山場を超えれば、後は現場にいる頼もしい兵士達が必ず何とかしてくれる。これは怠惰では無く信頼だ。さあ頑張ろう。今日の別腹は明日の脇腹だが関係ない、今日の化物カロリードリンクはご褒美なので幸せで割りでゼロカロリー。カスタマイズはソース追加にチョコチップ増量で……あ?
『何してんねーーーーーん!!!!!』
「…………。」
こ っ ち の 台 詞 じゃ ボ ケ ェ !!!
くらり。任務中にも関わらず天を仰いだ私を咎める者は、今この場にはいないだろう。思わず殴ったデスクの上でマウスが跳ねた。視界の端で忍田本部長もちょっと跳ねた。何してくれとんじゃボケコラ
「名字、今は、落ち着いてくれないか」
「…分かってます、今は、落ち着きます」
恐る恐る肩に乗せられた忍田本部長の手を、ごめんなさい の気持ちを込めて軽く一撫で。そう、今は、怒ってる暇なんかないのだ。私はこれから、合流して早々 仲間に切り落とされた隊員の穴を埋める作業に集中しなければならない。怒ってる暇なんかないのだ。"今は"
**
「細井ィ!!」
「すいませんでしたぁぁ!!」
任務終了後。報告も禄にせずオペレーター室を飛び出し、向かった先はB級作戦室フロア。
目的の場所から大荷物を背負って夜逃げよろしくコソコソ出てきた華奢な『弟子』に愛の怒声をプレゼントすると、そいつは飛び跳ねて謝罪の言葉を叫んだ。どうやら骨髄反射らしい。
「おっまえ一隊員の暴走止められんくて何がオペレーターじゃ!!」
「仰る通りです!」
「なんかあってからじゃあ遅いんぞ!」
「うわわ、水上先輩!ヤクザさんめっちゃ怒ってるっすやべー!」
「誰がヤクザじゃ元凶キューピー野郎が!お前は床でも舐めとけ!!」
「土下座しろってことっすか?!」
「物分りがええなぁ!反省しろ!」
頭を下げる細井はとりあえず放置して、元凶である南沢の頭を一発叩く。合流直後、あまりの門の数に興奮した南沢が暴走し、私のオペする混合部隊の攻撃手が見事巻き込まれ緊急脱出したのだ。そっちはお得意の「やっちまった!ぺろ」で済むミスかもしれんが、やられたこっちはたまったもんじゃない。
「名字やん。お勤めご苦労さんです」
「誰がヤクザじゃ」
「まだなんも言うとらんやん」
「名字先輩ご苦労さんですー。今日もヤクザのスタンドがありありと、」
「おうお疲れ湾の果まで沈めるぞ」
「「怖っ」」
ひょこり。作戦室から顔を覗かせた水上と隠岐に向かって首を切る動作をしてやると、二人はヘラヘラと笑いながら作戦室の中へ逃げていく。腹は立つが、今はいい。今は、南沢と細井だ。
「南沢」
「っす、」
「次やったら指切り落とす。勿論生身のな」
「反省それ即ち落とし前?!!!」
「んで、細井はーー」
「んな怒らんでもええやんか。マリオちゃんはなぁんにも悪いことしてへんのやから」
「………は?」
細井は反省会ということで、某女神カフェに強制連行致す。絶対太らすから覚悟しろよ。
そう伝えようと思ったら、背後から低い声。今この人、なんつった?
「なんやねん。事実やろ」
「…何言ってるのかさっぱりなんですけど」
「マリオちゃんが何したって?俺からしたら『さすがマリオちゃん今日も完璧なオペレートありがとう!』しかないけどな」
「ちょっ、イコさん…」
待て。待て待て待て。何言ってんの、こいつ。
耳鳴りの向こう側で、焦る細井の声が聞こえた。南沢なんか珍しく目ん玉ぐるぐるさせて狼狽えてるし、関わらんが吉と作戦室に戻って行った水上と隠岐が冷や汗を垂らして様子を伺っている。目の前のこの男は何を言っている?
「あー…えっと、」
自分は何も間違っていないだろうという、威厳に満ちた態度に、頭が奥が痛くなる。
「もしかして生駒さんって、"終わり良ければ全て良し"みたいなタイプですか?その考えを否定する訳ではないですけど、過程に死人が出ている場合でも、さすがマリオちゃんって言える感じ?」
「…ちょい名字、落ち着きや」
「素晴らしいチーム愛ですね。部隊を組んでない私には到底抱けない尊い感情です。どうぞこれからも大事な大事な仲間を贔屓に、名も知らぬ死人の前で胸を張り続けてください」
生駒隊が誰かを死なせたことは無い。生駒隊はとても強く、様々な部隊に恐れられている存在だ。愛着のない三門を守る防衛任務だってきちんとこなし、雰囲気は緩いが手を抜いたところなんて見た事ない。それでもここは、私達のミス一つで誰かが死ぬ世界だ。
「あー…分かるで。自分が言っとることは最もやわ。"かもしれない運転"いうやつやんな」
「限りなく現実に近い"かも"ですけどね」
「うんうん、分かった。よおおおおお分かったわ」
ピリつく空気に合わない、のんびりとした声が廊下に響く。言葉の通り異常を感じたのか、影浦隊作戦室の扉の隙間から 黒いケセランパサランと小さいのが心配そうにこちらを覗いているのが見えた。
「おっまえ、かわいないな。」
「………は?」
やんやか言うてますけども、これがプロローグとか長すぎひん?
次回から会話文多めです
ato
Not cute!!