災難にしては悪戯が過ぎる

ふあっと欠伸を漏らして図書室へと向かう。
先日の任務中に見かけた北の国のことで少し気になることがあったので、賢者の書に書かれていた資料を探しにいくことにしたのだ。

まあ、昨日はまた魔法舎の壁が壊れてて夜中のお説教…じゃなくて仲介役に呼ばれて大変だったな…
全く、スノウとホワイトが謝ってくれても、当の本人達は何も思ってなさそうだからな…
ここで生活してくれてるだけ有難いと思ってはいるけれど

廊下でふと足を止めた。

『オーエン?』

冷たい匂いがした。
それから、若干混じった甘い香り。
自然の甘さと言うよりかは、子供がつけてくるようなお菓子にまみれた独特の甘さ。

『……』

「…僕の気配もわからないし人間のくせに、なんなの?」

小さな舌打ちと共に、オーエンが目の前に現れた。
生意気、と言いながら溜息を吐き出しては面倒臭そうに姿を見せてくれたのは一体なぜなのかよくわからない。
まあ、気配とかは確かに全くわからないが、強いて言うならばミスラからも魔獣並みと言われた嗅覚というか相手の匂いを感じてしまう鼻が原因だろう。

『どうしたの、こんなところで
全く…3人のせいで寝不足だよ?』

「3人?
ああ、ミスラとブラッドリー、あとオズか」

『違う
ミスラ、ブラッドリー、それからオーエンだよ』

「僕?
馬鹿馬鹿しい…それで、何の用?
くだらない用事だったら殺しちゃうかも」

『……』

だったらなぜ俺を追いかけて来たのかをまず問いたい。
そしてなぜ素直に呼ばれて出てきてくれたのかを聞きたい。

「ねえ、今日は甘いお菓子持ってないの?」

『普段から持ち歩いてないよ』

「つまんない…
追いかけて損した、さっきキッチンから出てきたからついてきたのに」

あ…そういう…
ごめん、普通に皿洗いしてました…
カナリアさんと意見交換会です
まあ、ネロが持たせてくれた残り物はあるんだけど…

「…何をポケットに隠してるの?」

『…昨日の残り物』

「持ってるくせに嘘ついた」

『残り物だったから人にはあげにくいだろ』

「関係ない、寄越しなよ
八つ裂きにしてあげてもいいんだよ?」

なんでこう、バレるかなぁ…
折角ネロからまたオーエンの機嫌直し用にもらってきた残り物だったのに、こんなにすぐ使うことになるとは…
しかもキッチンにいたのを見てたならストーカーじゃないか…

この手の脅しに慣れてきている自分が恐ろしい。
いや、勿論八つ裂きにしてやると言われて怖くないことはないのだが、オーエンも長いからか賢者を死なせたら皆が五月蝿いことやある程度のことはわかっての挑発というか、脅迫的なものだとも思える。
なんとなく、本心ではないような気もしているのだ、確かに怖い時は怖いけれども。

『夜中のことで何か反省してないの?』

「反省?
僕に何を求めてるのかわからないけど無駄だよ
僕は晶の欲しい答えとは反対のことを言うよ」

『じゃあトレスチェスは俺が後で1人で食べようかな、オーエンにも分けてあげようかと思ってたけどやめた』

「…思い上がるなよ
僕だけを責めるつもり?
オズのせいでしょ、あとはミスラが馬鹿をやったし、部屋の壁に激突して壊したのはブラッドリーでしょ?」

『勿論後で2人にも話しに行くよ
だけどスノウとホワイトが謝っても意味ないでしょ、いつも直してもらって…』

「僕が何をしようと関係ない」

『またそうなる…』

小さく溜息を吐き出す。

『んー…じゃあどうしてブラッドリーが壁に激突する羽目になったのか教えてくれる?』

「教えたらお菓子くれる?」

『あげるよ』

オーエンはふふっと笑った。

「オズが雷を落とした
はい、答えた」

…いやぁ、そうじゃなくてもう少し詳しくというか、それだけじゃこのトレスチェスには値しないかな…

「ちゃんと答えただろ、早くお菓子ちょうだい」

『もっとちゃんとした答えじゃないと…
等価交換だよ、トレスチェスと同じくらいのことを教えてもらわないと
じゃないとほら、オーエンだけのせいじゃないってことが証明できないよ』

「…生意気」

舌打ちをしたオーエンの目がスッと細くなる。

「……夜になったら今日こそオズをケルベロスの餌にしてやるって昨日話してた
ミスラがまたイライラしてたから、折角の罠に自分でかかって、本当馬鹿みたい
まあ、ミスラは強いからすぐに跳ね返せる、その術返しのせいでまず建物にヒビが入った
それでオズに気付かれて、出てきた所を後ろからブラッドリーが奇襲をかけてたけど、オズって最近覚えたとかいう剣術みたいなの、あれ、ほんとムカつくよね
最強の魔法使いなのに
まあ、魔法が使えなくなる時点で役立たずだけど
そんなことしてたら太陽が出てきちゃったから、オズが雷を落として地面に焦げがつくまで返り討ち
本当最悪…それでブラッドリーが吹っ飛んで、ヒビの入った魔法舎に突っ込んでいった

どう?
ちゃんと説明してやったんだからいいでしょ?」

ねえ、と隣にスイッとやって来たオーエンは猫撫で声でねえねえとねだってきた。
トレスチェスと等価交換、でここまで喋ってくれるとは正直期待していなかったので少し驚いた。
そんな情報量と同等なのか。

『わかったよ、話してくれてありがとう』

「お礼なんかいらないから早くちょうだい」

はいはい、と急かされてトレスチェスを取り出したら、奪うようにしてオーエンは俺から距離を取った。

…幸せそうに食べるなあ、本当に
なんか、子供みたい…

「…何、ジロジロ見て」

『いや…』

「あげないよ、僕のだよ」

『わかってるって…
本当に美味しそうに食べるなと思って
可愛いなとか…うん、オーエンがお菓子食べてる時の幸せそうな感じ、癒されるなと思っただけ
じゃあ、北の国のことで調べ物があるからこれで』

ようやく図書館にと思ったら目の前に赤と黄色の目がぶつかりそうになった。

「北の国のこと?」

『そう、この前の任務の時の…』

「…そんな本に頼るの?
北の国の魔法使いがいるのに?」

『…え、と…』

「そんなデタラメな話、なんで信じるの?
僕や双子みたいに北の魔法使いが目の前にいるっていうのに、賢者様はそんな作り話の方を信じるんだ?」

これは…オーエン的に話してくれると…
教えてくれそうな流れだな
ここは流れに任せて従った方が早いかな、変に機嫌を損ねるのも嫌だし

『わかった、オーエンに教えてもらいたい』

「もっとお願いしてくれたらいいよ」

『……オーエンに教えてもらいたいことがあるのでどうか北の国について何卒教えてください』

決して文献が作り話というわけではないが、やはり生き証人みたいな長い年月北の国にいた彼らに聞いた方が新鮮な情報は得られるだろう。

「もっとごねてくれてもいいのに…
まあ、いいよ
晶、もうあそこに用はないよね?」

『…まあ』

「なにその気の抜けた返事…折角話してあげるって気分だったのに
そんなにあの古臭い本がいいならいいよ
やっぱり人間って魔法使いよりくだらない作り話ばかり信じるんだ
口先ばっかり…
どうせ長い年月の間に美化された話ばかり、魔法使いはいつだって悪者扱い
人間が魔法使いを信じるなんて、よく考えたら僕が馬鹿だったな」

『オーエン、そんなこと言ってないよ
折角貴重な話をしてくれるんでしょう?
談話室にでも行こう、お菓子も持ってくるから』

ね、と宥めたらオーエンはジロリとこちらを見てから溜息を落とした。

「仕方ないな
お菓子があるなら付き合ってやってもいいけど」

じゃあ、と図書室を背にした瞬間だった。

バアァァァン!と音がして風圧と共に多少は吹っ飛んだ気がする。
オーエンなんかふよふよ浮いているものだから、多少驚きはしたものの、俺を見て笑っていた。

『な、何事…』

と言いかけてやめた。
知っている匂いが風圧に混じってやってきたからだ。
ぐっと拳を握り締めてから体を起こす。

『…ミースーラー!』

振り向いて、後悔した。

「あ、晶、丁度いい」

『ちょっと待って、あれは何!?
ドア、木っ端微塵、また魔法舎壊したと…』

「あのドア、なんとなく重たいじゃないですか
開けるの面倒だったんで」

そういう問題じゃ…

『な、直して…!今すぐに…!
スノウとホワイトが見つけたら今朝のお説教が2倍になるよ…』

「勘弁してくださいよ、あんなの
朝から2回もされるなんて、御免ですね」

ならなんでこんな事に…

「オズのせいにすればいい」

「ああ、それもそうですね」

『ちょっとオーエン、そそのかしちゃダメだよ?
とりあえずミスラはドアを直してね
オーエン、ほら、談話室行こう』

「晶に用があるんで、そこで立って待っててもらえます?」

「ミスラ、これから僕と用事なんだけど
本当に順番とかルールもわからないやつでムカつく」

「はあ
全く…本を枕にしても寝られないので困りました
早く枕として来てもらわないと夜の奇襲に備えられなくて…」

『…話聞いてた?』

「いえ、とりあえず俺の部屋に拉致します」

『待って、先にドア直して…!』

「はあ?そんなに言うならあなたが直してくださいよ」

不機嫌なオーラが2人分。
厄介なことになった。
とりあえずミスラをドアに向かわせる。

「ねえ、ミスラ
昨日のやつ、まだ談話室に残してある?」

「はい?昨日…何か食べ残しました?」

「……もういい、聞いた僕が馬鹿だった」

「はあ?あなたが聞いてきたんでしょう?」

『ミスラはとりあえず今すぐにドアを直してね、スノウとホワイトに見つかる前に
そしたら俺もほら、弁護できるから』

「…なんであなたは一々…はあ、面倒くさいなあ、もう」

ものすごく不機嫌になったのでこれはこれでいいだろう。
いつもの呪文と共に一瞬で綺麗にドアを直してくれた。
一安心してから談話室へと向かう途中、相変わらずオーエンは俺の周りをふよふよと漂うので勘がいいなあと思いながらも無視していた。

「ねえ、他にもまだ何か隠してるでしょ」

『何の話かな』

「僕に隠し事なんて1000年早い」

「でしたら俺には1500年早いですかね」

待って、なんでミスラもちゃっかり着いてきた?
しかもこれから談話室なんて言ったっけ?

『あ…でもちょうどいいか
あのさ、ミスラ、この前の任務で北の国のことをちょっと聞こうと思ってオーエンにも協力してもらうところで、ミスラもいてくれると助かるんだけど…』

「はあ?オーエンがいれば十分でしょう
元々俺は寝床を探している最中だったので」

『…ほ、ほら、オーエンはもちろん、ミスラもいたら助かるし…
あ、ほら!頼りになるから!』

少し考えた後で、ミスラはふっと笑ってみせた。

「そういうことならいいですよ、俺は頼りになる男なんで
気まぐれなオーエンよりまともだと思います」

よっしゃ、釣れた…!

「なに、僕が役立たずだってこと?」

『違う違う!
ほら、この前のことで、色んな見解が欲しいからそれぞれの場所に詳しい人がたくさんいるのは大事なこと!
オーエンにしかわからないこともあるから!』

「ふーん、そのポケットのなかのクッキーみたいに?」

『あぅっ…』

なぜバレる…
余ったら晶が食いなよ、と持たされたクッキーが…なぜもっと服の中のポケットにあるのを知っている…?

「確かにこういうことは僕しかわからないかも」

そ、そういう意味じゃないんだけど…

「ミスラ、晶の足持って」

『え!?』

「こうですか?」

「そう、それでひっくり返すの」

『ちょっ、待っ…』

「ねぇ、どこに隠したの?
クッキー、持ってるんでしょ?」

あ、頭に…血が昇る…

ミスラに足をつかまれたまま、まるで市場のマグロのように宙吊りにされてオーエンにポケットをつつかれる。

「お、丁度いいところに…って何してんだ、お前ら
朝双子にこってり絞られたろ」

談話室まであと少しの所、キッチンを追い出されたと見られるブラッドリーが着いてきていよいよ問題児が集まった。

「ねえ、まだひた隠しにするつもり?
もっと痛いことしてもいいんだよ?」

「俺はいつまで持ってればいいんです?」

「晶がクッキーを出すまで」

「食いもん持ってんのか?
ったく、さっさと聞き出せばいいだろ、なんで逆さ吊りにしてんだ…」

そんなことよりも頭がもうぐわんぐわんしていて、意識が朦朧としかけている。

「おい、オーエンとりあえず一回横にしてやれよ
探すのはそれからでいいだろ
顔色が悪いぜ」

「僕に隠し事するからだよ」

「で、なんでミスラが?」

「暇そうだったし、晶が抵抗しないで物理的にも地面にぶつからない程度に逆さ吊りにしてくれそうだったから」

「おいおい…白目剥いてんじゃねーか
晶!起きろ!」

ぼんやりとしか声も聞こえず、暫く意識を失っていた気がする。
だんだんと音が戻ってきて、そっと目を開けたらブラッドリーが目に入った。

「っし、生きてたぜ!
俺の勝ちだな」

『…ブラッドリー…?何を、また…』

「あ?晶がミスラとオーエンに無茶苦茶な運ばれ方されてたから俺様が横にしといてやったぜ
感謝するんだな
それからコイツらと、晶が生きてるかどうか賭けをしたんだ」

『俺で賭け事をしてくれるな…
はあ…とりあえず助かった、ありがとう、ブラッドリー』

それにしてもなんだか気分が良くない。
そしたら談話室のソファーに寝かされていたようで、オーエンはクッキーを満足そうに食べている。
それで気づいたが、上着は床に落とされ、シャツは肌蹴てるしズボンもポケットをまさぐられたのかぐちゃぐちゃである。
ポケットのありそうな場所がことごとく荒らされていたので、相当探したんだなと思って苦笑した。

そんなに欲しかったの…?

「気分はどうじゃ、賢者」

「また悪ガキ2人にやられたと聞いてのう」

『…ブラッドリーの奉仕活動にカウントしてあげてください
助かりました…とりあえず、なんとか大丈…っう』

ブラッドリーに手を伸ばす。

『ご、ごめん…ちょっと、縦になりたい…
体を起こしたい…』

申し訳ないと思いつつ、手伝ってくれそうなのは今ブラッドリーしかいないのだ。

「俺様をこき使うとは…
まあ、しょうがねぇな…そしたらあっちの椅子の方が気分いいだろうよ」

よいしょ、と抱き上げられて、普段はあまり座らない大きめの椅子の方に連れていかれる。

「ブラッドリー、何してるの?」

「お前らが散々遊んだから気分悪いみてぇだぜ
ったく、お前らも限度ってものを知らねーよなぁ」

「…オーエン」

「何?ミスラ」

「そういえばあの椅子…」

ブラッドリーには本当にもう何日分かの奉仕活動として賞をあげたいくらいだ。

「オーエンが晶の服を脱がすから何事かと思ったが…」

そっと椅子に下ろしてもらって、ありがとうとお礼を言おうとしたら、体にバチバチバチッと稲妻のように電気が流れ込んだ気がして転がり落ちた。

『うわぁぁっ…えっ、え!?』

「な、なんだ!?」

『あ、ブラッドリー、ダメ…!
触ったら、多分やばいかも…
今、俺に触ったらブラッドリーが…!』

「ど、どういう…」

ブラッドリーの肩越しに、クッキーをもそもそ食べているオーエンとぼけっとしているミスラを指差す。
2人は顔を見合わせると肩をすくめて溜息を吐きだした。

「だからさっき聞いただろ、昨日のこと覚えてるかって」

「答えたじゃないですか」

「どうせミスラのことだから忘れてるとは思ったけど
ねえ、あれ、オズにしかかからないように細工したんじゃなかったの?」

「何言ってるんですか
どうせオズしか座らないから強力な魔法陣にしようと言って細工も効かないようなものにしたのは誰ですか」

「僕は一応オズにって言ったつもりだったんだけど
ねえ、晶、死んだの?」

「さあ、生きてると思いますよ
大体あなたが服まで脱がせてるんですから自分で片付けくらいしてくださいよ」

「最悪
大体この魔法陣だって書いたのミスラでしょ?
お前の責任、ちゃんと処理しなよ」

「オーエンちゃん!」

「ミスラちゃん!」

「何、ブラッドリーがあんなとこに座らせるからいけないんだろ
全く…」

「それにしても今日の晶は色っぽいですね、こんなに服を脱がされて無防備で、弱々しくて
あ、でもちょっと焦げ臭いので消し炭が食べたくなってきました」

いや、あの…消し炭扱いされましても…
それより、体が帯電してほんと、動かないっていうか…

『っ…く、るしい…』

た、助けて…ほんと…
俺、そういうの、本当、テレビの罰ゲームとかでしか見たことないけど、電気ってやばくない?
ていうかオズが毎回これを彼らにお仕置きとしてやってるって考えただけでもこの人たちの体の強さおかしくない?
この前屋上でのお茶会で黒焦げミスラが降ってきたよ?

「オーエンちゃん!
クッキーよりも先に賢者を助けるのじゃ!」

「これ食べたらね」

「全く使えない男ですね
それだから俺に勝てないんですよ
自分の魔法を自分で解けないようではたかが知れます」

「…僕が誰に弱いって?」

あああ、もうそういうのいいから…

「ブラッドリー、そこ、どいてください」

「あ?テメェ…」

床で痙攣しかけていたところに、見慣れた靴が写って匂いもした。

「アルシム」

ビリビリと痺れていた感覚はだんだんとなくなっていき、浅い呼吸を繰り返しながら、そっと頬に触れた指先を目で追った。

『ミ…スラ…』

「すみません
どうやら昨日オーエンと仕掛けた罠に、ブラッドリーが気付かないとは思わなかったので」

「ったく、お前らホント懲りねぇな…
俺は朝イチの双子の説教で腹一杯だってのに」

「昨日のこれと朝とは別の話だろ
それにお菓子をあんな場所に隠してる晶が悪い」

とりあえず初めての経験に溜息をつきながらも、暫くはまた北の国のことを聞けそうにないと諦めかけた。

「ミスラちゃん、賢者をちゃんと部屋に送ってあげるのじゃぞ?」

「わかってますよ
それに俺が寝たかったので部屋に連れて行きます」

え、え?

「立てます?」

いや、状況的に見て立てると思う…?
まだ一言も喋れてないんですが…

まだ震えていた指先を見たのか、面倒くさそうな顔をしたミスラは少し考えてからシュガーを作ってくれた。

珍し…
なかなか他人にこういうことしないのに…

「では、俺は寝ます
あ、晶の服はオーエンに任せたらどうです?
俺は晶の後始末したんでそれくらいはいいですよね?」

「やだ
ブラッドリー持って行ってあげなよ、ほら奉仕しなきゃ」

「テメェ…
奉仕奉仕とか言って、都合よく丸め込んでんじゃねえ!
何のうのうとクッキー食ってんだ
それ、全部晶から奪ったやつだろ!」

「盗賊団に言われたくないんだけど」

「じゃあ、あとは頼みます
では」

あ、え…待って、俺の服…
あとお菓子全部取られた…在庫分まで…
ネロ…ごめん、秒殺でした…

もう次の瞬間には落ち着く匂いの部屋にいたので、自室ではなくてミスラの部屋に連行されたのがわかった。
ぽいっとベッドに放られたかと思えば、靴やら上着を脱ぎ捨てたミスラがぼふんとベッドに乗っかってきて潰されかけた。

『ぐえっ』

「あ、すみません、見えませんでした」

『……全く、本当に、なんなのあれ…』

長めの溜息を吐き出す。
シュガーのおかげか、手は動くし体も軽くなっていた。

「馬鹿でも気づくような魔法陣だったので油断していました
ブラッドリーがあそこまで間抜けだとは思いませんでした」

そういうことじゃなくてね?

「思ったより回復が早くて驚きました」

『ミスラから有難いシュガーいただきましたからね…』

ちょっと嫌味ったらしく言ってやったのに、なぜか喜ばれた。

「当たり前です、強い俺のシュガーなんですから」

…はい、そうでした

『.…まあ、よく屋上に焦げたミスラが落ちてくるけど毎回こんななのかと思うと…本当に強い体してるんだなと思ったよ』

「ええ、俺は強いですから」

『……うん、わかった
とりあえずまあ、うん…』

続きを言おうとして、口が固まった。
大型の動物がいる。
首筋あたりから、鎖骨の方にかけて皮膚を齧られている気がしてチラリと目をやる。

『ミスラ…何してるの』

「…いつもより色気があるなと思ったら食べたくなりました
食べ甲斐がありそうなんですよね、あなた
それに珍しく弱ってる所まで見せられて、なんか、不思議と食い尽くしてやろうという気にはならなくて
弱い奴は放っておけばいいんですけど…
まあ…ここまで露出したあなたも珍しいですし、オーエンが上着とかは後で持ってきてくれるからいいじゃないですか」

いや、嫌な予感しかしない。
なぜこの食欲に従順なこの男に食われかけているんだ。
眠いと言っていたのは何だったんだろうか。

『…ミスラ、寝ないの?』

「あ、寝ます
そのために晶を連れてきたんですから」

とりあえず寝かせてしまおう。
話はそれからだ。
そのまま俺の首筋に埋もれながら手が触れた。

「ここ数日寝ていないので余計強力な魔法陣を作ったんだと思います
ん、今日もいい匂いですね」

…寝るかご飯かどっちかにしてくれ…

『…ミスラも今日はいい匂いで何より』

寝かせた方が数倍効率がいいので、頭を撫でてやりながら寝かしつけに入る。
しかし途中までいくものの、なかなかいいところで目覚めてしまう。
なぜだ。

「…すみません
あなたって俺ほどいい男でも色気があるわけでもないのに、なんだかむらっとして食欲をそそられるのか、中途半端に目が冴えるんですよね」

なんだそれ!
もう知らん!
俺が被害者だってわかってるよね!?

『俺、寝るね…』

「あなたが寝たら俺が寝られないって何度説明したと思ってるんです?」

『じゃあ俺のこと食べるのやめてもらっていいかな…』

今日は珍しく首筋だけではなく、鎖骨やら上半身にまで歯型のような痕が残っていて、小さく溜息をついた。
ちょっと、獰猛ですよ、お兄さん。
近いし。

…でもいい匂いだから…んー、もう、ゆ、許しちゃうんだよなあ…
俺が甘いのかな…

「まあ、何かあったら俺があなたのことは守るんで」

『……』

…え?
何今の…口説き文句?

聞き返そうとしたら今度こそちゃんと寝てしまって、何も聞き返せずにぼーっとしていた。
こんな不意打ちみたいなの、心臓に悪いからやめてくれないか。






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