二度寝三度寝

おはようございます!
元気です!
たくさん寝ました!
ですがなんか今、頭に衝撃がありました、痛いです…

『……』

「……」

ベッドに寝転んだまま、何故か目の前でフライパン片手に仁王立ちしているイケメンを見る。
口が動いています。
そしてこの頭の鈍痛はもしかしてこのフライパンが原因なのではないでしょうか。

『……』

それにしてもイケメンです、寝起きには刺激が強い。
そして案の定、昨日からわかっていたことなので良いのですが今日は世界がとても静かで過ごしやすく、同時に一人での外出が困難な日になってしまいました。
とりあえずまだ痛む頭をさすってから体を起こして端末を掴もうとしたら、それすら阻まれた。
おい、今何時か確認したいんだが。

あ…また何か喋っています…
ねえ安室さん、最近めっきりこの家に馴染みすぎて何とも言えないんだけど、朝いつも呆れ顔で起こしに来るのはどうなんですか…?
少し前まではとっても優しいどころか心臓に悪いくらい隣にいたり頭をフライパンで叩くなんてこともせず優しく撫でてくださってましたよね…?
あれ?俺の記憶違い?

小さく溜め息を吐き出したら、何かを言われた。
これは恐らくいつもの癖でしょう、溜め息をつきたいのはこちらですとでも言ってるんでしょう。

『 “ あの、とりあえず何時か確認したいのですが…”』

取り上げられた端末を差してからそう伝えたら、安室さんは長い溜め息を吐き出してから画面だけを見せてくれた。

…10時
なんだ、まだ10時じゃないか!
何故そんなに怒る必要がある…!
それに今までフライパンなんか出してこなかったよね!?

途端にムッとして、怒りをぶつけてやりました。

『“おはようございます!
まだ10時なのに叩き起こすなんて緊急の用事ですか!?
大体今まで昼過ぎに起きたって何も言わなかったし優しかったのにいきなりフライパンてどんな仕打ちですか!?
あの有名な日本のコメディアン達の盥が落ちてくるのよりも格段にレベルが違いますよね!?
それに10時でしたらまだ寝たいのですが!”』

安室さんはもう一度端末の画面を見せてきました。
さっきと変わらないのでじっと見ていたら、カツカツと時刻の横に小さく書かれていたアルファベット2文字を訴えられました。

え…

流石に自分でも絶句。

『”…その端末、壊れてますかね…
あの、PMと書かれているように見えるのは気のせいでしょうか…これは夢でしょうかね…”』

「”夢ではありませんし、昨晩見事に寝ながら寝言のように美味しいと言って夕食を召し上がるという素晴らしい芸を披露してくださったので寝かせておきました
仕事を終えてから連絡をしても折り返しがなかったので今日は聞こえていないのだと推測はしていました
ですのでわざわざメールを出したのですが一向に返信がないので訪ねてみれば朝家を出た時と全く同じ場所で全く同じ行為をされていたので驚きました
流石に食事が冷めるので無理やり起こしましたが何か問題でも?”」

予想以上に上達してしまった彼の手話と表情からはこの上なく呆れているのと苛立ちを感じます。
こんなことってあるんですね。
丸一日寝たことはありませんでした。
それからハッとして別の端末に手を伸ばしたら、それも阻止された。

『”か、飼い主に連絡をしないと…”』

「“これのことですか?”」

勝手にパスワードを解除して俺のメールアプリを開いてしまった安室さんは、目の前に画面をこれでもかと見せつけてきました。

『……』

そこには、送信済みになっている俺からジン様宛てに耳の調子が悪いことと体調不良であることが記載されていた。

「”朝一度電話が鳴ったので僕が代わりにメールを出しておきました
勿論貴方のルール通り、2コール以内で電話を取って画面をノックした後で切りましたのでご心配なく
いいですねえ、飼い主にも体調を心配されるご身分で”」

うわ、うわあ…
有難い…有難いんだけど、この最後の言い方、完全に嫉妬されてますよねえ…?
最近はスムーズに嫉妬という言葉も使えるようになったんですよ、成長したと思いませんか?
これは…素直に感謝したいのですが、大変お怒りの様子なのでどう答えていいのか全くわかりません…

『……』

んんん…と迷った挙句、とりあえず頭を下げた。
呆れていたくせに、安室さんの気配が近付いてきたかと思えばふわりと頭を撫でられた。

あ…あ、これは…究極の頭撫で…
これを何と命名しようか…

『"…し、幸せです…"』

日頃のストレスや今の苛立ちも全てが浄化されていきます。
あああ幸せなので眠くなってきました。
ふわあ、と欠伸をこぼしてベッドに戻ろうととしたら頭を叩かれました。

「"丸一日近く寝てまだ寝るんですか!"」

こうなった安室さんは手強い。
少し考えてから、安室さんの胸元に潜り込んでみる。
手応えはそこそこ、呆れ顔でもないし寧ろ顔には出さないくらいに嬉しそうです。
よし、と思ってそのまま寝ようとしたらバレました。

「"その手には乗りませんよ"」

クソ…やはり手強いな…


舌打ちが漏れたのか、ピクッと反応しましたよ、この人。

「"ご飯はどうなさるんです?"」

小さく首を横に振って安室さんの服を掴む。
それからクイ、と引っ張ってゆっくりと引き寄せ、それからベッドに連れ込んで布団に潜り込ませた。

あ…最高…
これなんで言うんだろう、最高の抱き枕みたい…
ねえ安室さん、やっぱり安眠効果すごいですよ貴方…

抱き枕にしていたらもう諦められたのか、何も言われなかったので半分寝かけた。
そこで、ふとジンからの連絡という言葉を思い出してガバリと体を起こした。
そして慌てて安室さんの肩をバシバシ叩く。

「"今度は何ですか
落ち着きのない人ですね"」

『"仕事…"』

「"今日は禁句と言いませんでしたっけ?"」

スパンとキレのいいビンタです。
あ、音は聞こえませんがそんな感じの擬態語です。

『"そうではなくて、ジンから連絡があったということは組織からのお仕事があったということですよね!?
え、まさか断ったりしたんですか!?"』

「"…今日は熱が出たとでも適当に言って仕事を回さないようにしています
僕がそんなに愚行を働くとでも思ってるんですか?
貴方、仕事上支障が出るので一応僕が提供したデータでそ組織に関しての記憶は完全に戻しましたが、建前上はジンから渡された構成員リストのことしか知らないことになっているんですから
迂闊に僕と行動していることも書けませんし、今までの蛍さんの返信やジンへの返答はデータ化しています。
AIの機械学習で自動返信できるくらいにはハッキングして情報は収集済みです"」

なっ…
この人…また隙あらば人の端末をハッキングしています…
それについにAIでの自動返信すら提案されました、これはもう末期です…
それだけ俺の情報が抜き取られているということですね…

「"ということで今日はとにかく仕事は禁句です"」

口の利けない日に限って禁句を増やしたり、文句を言いにくくしたり、それは少しずるい気がします。
フェアじゃないです。

「"とにかくしっかりと休んで、明日には回復していて欲しいくらいなんです"」

『"それは大丈夫です、今しっかり休んでますので…!"』

「"起きて早々に仕事の話をしたのは誰ですか?"」

『"…さあ、誰でしょうか"』

「"貴方ですよ!
いいですね?今日はもう寝るか家にいてもパソコンに触るのは禁止です、仕事も禁句です
させません"」

『"…ということは監視ですか!?
え、安室さん、今晩いてくださるんです…!?お忙しいのに…!?"』

「"…仕事次第です
ハロの散歩を風見に任せてきたので少し心配ではありますが…"」

…ん?
犬…?
そしてワンコ…?ムッシュ風見…

「"…あからさまに不機嫌にならないでくださいよ"」

『"そんなに自分のイヌが心配なんでしたらご自分で面倒見たらどうです?"』

ふん、とふて寝して背を向ける。
しばらくしてから肩を叩かれ、無視し続けていたらグッと肩を押さえつけられて無理やり正面を向かされてしまいました。
目が合いました。

「"…貴方が心配で犬をイヌに任せてきたので最優先事項は蛍さんです"」

言い返す前に唇で蓋。
どれだけキザなんだ、この人は。
だけど反論も論破もできない自分が悔しいしなんか嬉しいとか思っちゃって胸がキュッとした。

『"……"』

もうやだ、好きだ…

布団にくるまって寝入りを決め込んだが、翌日になって見たら部屋には誰もいなかった。

『…ほら、仕事じゃん』

左耳も調子はやっぱり戻ったので睡眠不足だったのだと思う。
しかしふと手にしていたものを見る。
いい匂いがする。
なんとなくだけれど嫌な予感も同時にする。

『…こ、れは…安室さんのシャツですね…』

一体どういうことでしょうか。
布団に入って寝たつもりなのに、またこの手が何かしでかしたようです。

しかしいい匂いだ…
まあ、今は存分に楽しむべきだ、うん…あー、いい匂い
そりゃ安眠もするよ…

そしてダイニングに朝食とともに残されていたメモにはびっしりとお怒りの言葉と俺の手が離さなくてどうにもならないので脱いで置いてきたという旨が書かれていた。
相当お怒りだということは文面から読み取れるのだが、考えたら脱いで帰ったということは。

『…ま、まさか裸ジャケットですか…!
上裸…!なんてイケメンの無駄遣いをなさるんだ…!』

うわあ、なんて人だ…

あとで取りに来た時のお説教が恐ろしいとは思いつつも、今は素直に堪能することにした。
うん、仕事捗りそう。



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