仕事のモチベーション

今日は朝からお仕事です。
え、いつも仕事じゃないかって?
ご冗談を…少しくらいお休みを取りながら以前よりもペースダウンしてお仕事をしています。
なぜなら、お仕事ペースに対してとてもうるさい…と言っては失礼ですがペースメーカーがいらっしゃるからです、まるで監視人です.

『…しっかし今日もザクザクですね,機密情報垂れ流し万歳!
なんて大量収穫…!
こんなに嬉しい日はない…!』

今日は何故だか調子がいいです。
ここで調子に乗るとあまり良くないことが待っているのはわかっているのですが、今日の情報として収穫量は最高です。
日本に来て以来こんなに機密情報に埋もれたのは初めてなんじゃないでしょうかというくらいです。

『Mnnnnnnn....c’est magnifique!』
(んんんんん……素晴らしいっ!)

椅子の上に立ち上がって歓喜。
朝ごはんでも食べようかと振り向いた瞬間だった。

「何してるんですか、もう16時ですよ」

『Quoi...!? Ah, bête...!』
(えっ…!?あっ、バカッ…!)

振り向いたら目の前には呆れ顔の安室さん。
エプロンを装備、フライパンにフライ返しを持っていたので驚いて椅子からよろめいて落ちた。
助け舟すら出してくれない。
なんたる仕打ちだ。
というかいつ来たんだ、いついらしたんですかね、夜ご飯係は。

『…あ、あの、いついらしたんです?』

「朝からいましたよ」

『え?』

「昨日の夜バーで飲み明かして帰ってきて早々ソファーに倒れ込んだのは誰ですか?」

『……俺ですか?』

「その通りです
ベッドに運んだ後、酔った貴方にまた引っ張り込まれましてね
一晩ここで仕事をする羽目になりましたよ、部下からの電話をしても起きませんし都合が良かったのですが…
朝、一瞬目を離した隙に起きたようで意気揚々と仕事をされていたので声をかけても全く返事をされず、魚やコーヒーで釣ってみましたが何の反応もない程没頭されてましたよ」

…待て
確かに昨日は久しぶりに酒を飲みに行った…
そんなに酒は弱くない筈だけれど、まあ、安室さんとお酒だなんて嬉しくなってはしゃいだような気がしなくもない…
うん、ソファーで死んだ気がする…
てことはまたイケメンのお世話になって、しかも存在を無視して朝起きて爽快!仕事!と歓喜の独り言をしていたところを見られていたわけですか…!?
しかもいつ煎れたか記憶のない美味しいコーヒー片手に仕事をしてたのは、安室さんが煎れてくださってたんです!?

『…カ、カフェ…安室さんが…』

「ええ、ひったくるようにマグカップを取られまして鼻歌を歌っていらっしゃいました」

『そ、その…仕事に対しての歓喜の独り言は…』

「聞こうとしなくても勝手に耳に入ってきました」

何でことだ、Oh Mon Dieu…
あの一喜一憂を全て聞かれていたのですね…
なんてお恥ずかしい…

「それよりも朝食を抜いてまで仕事をすることはやめると僕と約束した筈ですよね?
貴方の体調管理のためにも少し仕事量をセーブすると」

そこまで言って、安室さんはいつもの菩薩の笑顔でフライパンを握り直した。
恐ろしいことに目が笑っていません。
これは、相当お怒りのようです。

『あ…えっと、ですね…』

「しかも僕を踏みつけてパソコンに一目散に向かっていきましたよね?
仕事、と言ってそれはもう楽しそうに」

『そ、そうでしたっけね…』

ちょ、ちょっと待って…
俺、何、何してるんですかー!?
イケメン踏んづけたの!?
貴重なイケメンとの安眠の後、踏みつけて仕事してたの!?

「冷え切った朝ごはんがありますから、今日の夕食はそれを食べてください」

『あ…は、はい…』

「全く…組織で軟禁生活をしてから懲りてもう少し仕事を減らすかと思えば逆効果でしたね…
勝手に他国との捜査局と話をつけては情報屋の仕事も増やして…日本からの仕事だって依頼しているというのにまたFBIと連絡ですか、懲りませんね」

『そ、それはですね、軟禁生活中は組織の仕事だけしかしてませんでしたしね?
他のお仕事が放ったらかしになって、表向きには長期休暇という職務怠慢を…』

…ん?
今、この人日本からの依頼って言った?

首を傾げて考え直してみる。
もう一度記憶を巻き戻して安室さんの発言と、昨日バーへ行く前の会話まで遡ってからハッとして安室さんを見た。

『安室さん!』

「何ですか」

その呆れ顔はどうにもならないんですかね。

『あの、仕事!』

「仕事もそろそろ禁句にします?」

『そうではなくて!
今日朝一で仕事だって昨日仰ってましたよね!?
朝ここにいたんですか?
その"仕事"の方に支障は…』

「…僕の言ったこと、聞いてなかったんですか?」

『いや、聞いてたから今この質問してるんですよね?』

「どうして貴方ってたまに日本語が通じないんですかね…
声を掛けても貴方が起きないので都合が良いからここで仕事をしましたと、そう言いましたよね?」

『あっ、そうでした…』

「それにその"仕事"に関しては問題ありません
蛍さんが起きて早々に僕の名前を歌いながら歓喜して朝一番に仕事をしてくださったのですぐに終わりましたよ
部下には夜中に連絡をしていましたし」

…ま、まさか俺が意気揚々と仕事を…
降谷さんからのお仕事…なんて鼻歌を歌っていたことまでご存知だったんです…!?
ねえ、言って!?
恥ずかしいから本人いますって言ってくれませんかね!?

イケメンという人種は本当に心臓に悪いです。
青ざめていたら小さな溜息が聞こえたので、もう魂が抜けそうです。
完全にご立腹だと思われます。

『…その、朝の事は本当に申し訳ござませんでした
えっと、朝一で仕事と仰っていたのでてっきり降谷さん、警察庁に戻られたのかと…思いまして…
まさかその鼻歌まで聞かれていたとはつゆ知らず恥ずかしいので今度からは、申し訳ないのですが、いる時はいると言っていただけたらと…』

「ですから、声をかけてコーヒーをお出しして魚をチラつかせてもパソコンに食いついていたのは蛍さんでしたよね?」

もういいです、と安室さんは部屋を出て行ってしまった。

え、ちょ…待って…
なんでこうなるの…

やはり俺は男運には恵まれていないようです。
菩薩の安室さんがご立腹です。
床に座ったままカクンとうなだれ、そしてパタリと倒れ込んだ。

ど、ど、どうしよう…
安室さん怒ってた…
それもかなり怒ってた…今まであんなに怒ったの見たことないんだけど…
あ、魂が抜けかけてる…なんだかお腹空いてるんだけどそれ以前に安室さんが、安室さん…

「いつまでそこで伸びてるんですか」

部屋の戸口に戻ってきた安室さんはもうエプロンを外していた。

「…蛍さん?」

『……』

「…蛍さん、早く食べるなら食べてください」

ご夕食もとい冷え切った朝ごはんが待っています。
何故この時間まで起きていて空腹を感じずに仕事をしていたのか自分でもわかりません。
以前は仕事で絶食していたこともあったので随分マシになりました。

「蛍さ…」

『…あ…』

「……」

『…です…』

しかしこの状況をどう打破すれば良いのかわかりません。
やはり俺には恋愛は向いていないのかもしれません。

あ、そう思うとなんか寂しいものだね…
疲れたのかな、ドライアイかな
なんか視界が滲んできたよ、ほら、ねえ…

『…好き…安室さん、好き…』

ねえ、申し訳ないと思ってるんだってば…
好きだよ、大好きだよ…
どうしたら怒るのやめてくれるの?
ねえ…神様、俺に恋愛面での試練を与えすぎですよね、酷い仕打ちですね…

「……」

『安室さん、怒ってるよ、どしよ…
ねえ…好きだよ…どうしたらいいの…』

恋愛の神様、どうか恋愛偏差値の低い俺に指南をお願いしますって…
もうダメだよ、これ立ち直れない…

「…蛍さん
あの、本人の前でそういう事を言われるとちょっと…その、僕としても怒りすぎたと反省してましたし…」

……ん?
なんかイケメンの声が聞こえ…聞こえる!?

ガバッと体を起こしたら目の前にイケメンがいました。
安室さんは少し目線を逸らせてから手を伸ばしてきました。
頭に触れるこの撫で心地、最高です。

「…あんまりモノローグを口に出さないでいただけますかね、流石にその…照れます」

『モノ、ローグ…』

待てよ待てよ待てよ?
今の俺の考えてたことって全部…

再び顔が青ざめました。

『も、もしかして…口に出てたんですか…?』

安室さんはチラリと俺を見て、それから観念したように溜息を吐き出すとゆっくり頷いた。
いや、観念したいのはこっちです。

「毎度毎度モノローグまで口に出される身にもなってください…
その、蛍さんに好きと言われるとのはとても嬉しいのですが、泣きながら言って欲しくはありません」

『だ、だって安室さんが…』

「僕も少し気が立っていたようです、すみません
ですが1人で泣いたりしないでください」

『だ、だって…嫌われたくない…です』

「貴方のワーカホリック具合はとうの昔から知っていますし呆れますが、今更別れたり嫌いになる要素になりません
そんな簡単に別れ話が出るとでも思ってるんです?」

『はい!』

「そ、即答しなくても…」

『俺の過去の経験上、大抵の男性は俺がまず男だと知った時点で手を切ります
そして上手くいったとしてもホテルに連行されて脱がされて今までのは無かったことにすると言われます
忘れてくれと言われます
所詮人との繋がりなんてそんなものなんです、不要なものは全て切り落とすのが人間という…』

「少しお喋りが過ぎますよ」

『っ……』

口を塞がれて頬を伝っていた涙を優しく指で拭われる。
この人、最近何でもかんでも俺の口を口で塞ごうとしてきます。

「…今までの貴方の経験上の話は過去の話です
僕の前で金輪際その話は出さないでください
男運の悪さは以前盗聴したので知っていますが」

手を握られて首筋や頬、耳朶にまで口付けてから安室さんは綺麗に笑った。

「僕は貴方と別れませんよ
その貴方が思っている人間への偏見も捨てていただきたいものですね
僕がじっくり愛してあげますから」

…あ、愛…愛して…

なんて殺し文句なんだろうか。

『あ、あの…』

「はい」

『ちょっと心臓に悪いので失神してもいいですか…』

「ダメです、ちゃんとしてください
夕食が待ってます」

『こ、こんな状態で食べられると…』

「食べていただかないと貴方の体調にも影響しますから…」

いや、なんでこの人こんなナチュラルに気障なセリフ言っといて通常運転なの?
ねえ、何なの?
イケメンて何?
もう意味がわかりません…
失神したい…

「仕方のない人ですね」

ひょいと抱き上げられ、抵抗しようとしたら容赦なくキス攻めされるので抵抗もできません。
ダイニングに運ばれて目を疑った。

『あ、あの、冷え切った朝ごはんは…』

「冗談ですよ
蛍さんが呼びかけに答えないので僕が昼に食べました
夕食くらいきちんと食べていただかないと、朝から働き詰めなんですから」

ダイニングテーブルにあったのは、サンドイッチではなく豪華なあったかい料理でした。
何ということだろうか。
この人に落ち度はないんだろうか。

「さあ、冷めないうちに食べてください」

『あ、あの、安室さんは…』

「僕は後でいただきますし、これが僕のリラックスタイムだということも忘れてませんよね?」

そうでした。
この人、イケメンなのに何故か俺の食事風景を眺めているのが好きなちょっと変わった人でした。

『い、いただきます…』

なんて素晴らしい夕食…
朝から仕事をした甲斐がありました、まさかこんなご馳走にありつけるなんて…
やはりこの人菩薩です…!

「明日は朝から仕事なので今夜は一緒に過ごせませんが、夕方はポアロにいるので何かあったら連絡してください」

『はい!』

「それから明日は外出予定の仕事ってありますか?」

『…いえ、特に今のところ予定はないですね
何しろ手一杯だったもので外出する暇がありませんでした
まあ、それも今日で一段落したので…』

「でしたら明日の11時に本庁にお願いします
仕事の終わる時間次第ですが、ランチでもご一緒しませんか?」

こ、こ、こ、これはまさか…
安室さんではなく、おスーツのあの降谷さんとのランチ、ということでしょうか…
こ、こんなチャンス…滅多に…

『も、勿論です!』

「本当に仕事の話になると生き生きしますね、貴方…」

いえ、仕事ではなく明日の目的は降谷さん、貴方ですよ。
わかっていらっしゃるんでしょうかね、貴方のおスーツがどれだけ貴重か。
そしてそんなおスーツの降谷さんとランチだなんて素晴らしすぎます。
今日お仕事を頑張ったご褒美と考えていいのでしょうか。

『明日11時に本庁ですね!』

「はい…
くれぐれも襟の開いたシャツと香水は控えてください」

『はい!
仕事なんてすぐに終わらせてランチに行きましょう!
もう今から楽しみです!
なんなら今からランチ行きますか!?』

「…今夕食中ですよね?」

『あ、はい、そうでした』

少し呆れた安室さんはそれで、と続けた。

「今日の夕食はいかがですか?」

『おいしいです!』

「……この笑顔の蛍さんなら星4つ程度ですかね、参考にさせていただきます」

あ、またデータ取ってたのか。
貴方はAIか何か、貴方自身がデータバンクなんですかね。

『こんなにおいしいのに安室さん、いつも食べないなんて勿体ないですよ』

「いえ、僕は味見の時とかに少し口にしてますから」

『…あの、もうちょっとだけ美味しくなる方法知ってるんですけど』

「へえ、どんな方法ですか?」

少しだけ身を乗り出す。
年上の余裕たっぷりで俺を眺める安室さんに少し顔を近付ける。
イケメンです。
近距離注意報は発令中です。
それから意を決して、ずいっと唇を重ねた。

…あ、墓穴掘った
ミイラ取りがミイラになるやつ…

自分で仕掛けておきながら、イケメンを目の前にして主導権を奪い取られました。

「…なるほど、これも悪くない
でしたら今度から食事の前には取り入れていきますね」

『…え?』

あれ…ものすごくニヤニヤされてますが、安室さん、貴方…まさか毎食前に…

「今日もお仕事お疲れ様です」

あ…ダメ、キュンてした…
こう、胸がきゅってしたよ…これは一番言われて悶絶するレベル…!

『…すみません、気絶していいですか?』

「せめて食べ終わってからにしましょう」

明日のお仕事へのパワーチャージをされました。
これはもうダメです、イチコロというやつですね。

『…ダメだ、好きすぎて困ってきた』

食後にソファーで1人丸まっていたら、チラリとグレーのスーツが映った。

「…モノローグも程々にしてくださいね」

『あ、すみませんでした…』

「では、また明日ですね」

『あ、はい…』

ネクタイをキュッと締め直した安室さんはもう降谷さんモードでした。
なんて凛々しい。
玄関まで見送りに行ったら、振り向いた降谷さんに少しニヤリとされました。

「今日はもう仕事禁止ですよ、きちんと寝てくださいね」

『……はい』

「なんですか、今の間は」

『い、いえ、別に…』

「遅刻したら、お仕置きが待ってますからね」

音を立てて唇を軽く吸い上げた降谷さんは、失礼しますと出て行った。

…さ、颯爽とそんなに去れます?
あんなキスしておいて…?
貴方、一体何なんですか…?

自分の彼氏ながら流石にトリプルフェイスとなると彼に翻弄されます。
諜報員同士、俺も仕掛けられると思っていましたがいつも向こうは一枚上手で悔しいです。

『…ず、ずるい…
イケメンてずるい…降谷さん、安室さんよりドライだしワイルドなんだもん…』

ずるいです。
このギャップがたまらないです。
暫く玄関から動けずに余韻に浸っていたら、降谷さんではなく安室さんの携帯からメールが入っていました。

す、好きって…
こ、こうして文面にされると少しニヤニヤしてしまうね…なんだろうね…なんかニヤニヤしちゃった…

『明日もお仕事頑張ります!』

お仕事やってて良かった!
日本最高です!
日本に長期任務にしてくれてありがとう、局長!
感謝してます!






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