愛国主義者たち

いい天気です。
こんな日にはぜひ散歩がしたい。
ですができません。
なぜかってもう理由は一つしかありません。

『なんでこんな日に限って本部も俺を普通に構成員扱いして総動員なんだ…!?
俺はフリーランスになったはずだよねえ?
最近体調どう?戻ってきた?って聞かれたかと思えばどういうことだよ…!』

母国フランスの緊急事態とのことで、日本ではこんなにお天気もよくコハルビヨリというものなのですが、ここ三日程まともな食事もしていません。
夕食サービスのお兄さんですか?
断っております。
そして一応表稼業のフリーランスの情報屋としての仕事も並行しているので終わりません。
勿論国家機密が最優先事項なのですが。

…売人の密輸ルート、また増えてるな
すぐアイツら増やして…あっちは日本と違って大陸…
ユーロポールの奴らと手を組んだところで互角、本部も流石に手を焼くとなると俺も本腰入れないと結構ヤバい案件だし…

日本の10秒で栄養が摂取できるというゼリーを食してもう全種類の味を制覇しました。
そしてカフェインをぶちこんでおります。

っと…電話か
画面を動かしたまま、リンクさせていたPC端末で電話を取る。

『Oui, c’est moi.』
(もしもし)

[蛍、今から直接書類をもらいたいんだが時間は?]

『Hein? Ah, c’est toi, Shuichi…
Deux minutes s’il te plais, alors, F…FBI, FBI…』
(あれ?ああ、秀一か…
ちょっと待って、えっと…F…FBIはっと…)

[いや、俺個人的な問題だ]

『え?
あ、まあ…それなら少し待ってもらえれば多分いけるかと…
ただご存知の通り今本部の要請がすごくてね』

[だろうな、声に覇気がない
大方3時間睡眠を3日程続けているんだろう]

なぜわかる…!?
さてはこの人、また俺の何やらを見ているのか?

[なぜか、とでも言いたそうな沈黙だな
だが君の事情もわかっている、早く済ませるつもりだ
あと5分ほどで到着しよう
それから依頼内容については今送った
謝礼して、この前の礼とまではいかないだろうが蛍なら役立て方もわかるものを送っておいた
本部の君の後輩にも試しに送ってみたが解読不能らしい]

『本部に直接FBIからのご協力だなんて相応の対価じゃない…
まあ、重い仕事なんだろうけど何せ母国の危機なんで少しでも手がかりになるならありがたい、助かる
鍵は開けておく、俺はリアルタイムで仕事なんで勝手にあがって
じゃ、また後で』

依頼内容を確認して若干項垂れながらも、とりあえず別のモニターで本部の動きを確認しつつ一旦フリーランスのお仕事です。

[ーComment ça se passe?

[ーJe n’y peut rien.

[ーBah, on change la route?

[ーCarrément.]
(─どうだ?

─お手上げだ

─あー…別ルート行くか?

─それだな)

…ったく、本部ももうちょっと俺の負担軽くしてくれないかな

小さく溜め息を吐き出して、ヘッドセットのマイクをついに解除した。

『Huh…vous laissez tomber, d’accord.
Je peux toucher mon paye, n’est-ce pas?』
(はあ…諦めるのね、りょーかい
じゃあ、俺がお給料もりってくってことでいい?)

マイクの向こうの空気が変わった。

[cette voie…!

T’es…non, sans blague, mais…]
(その声…!

お前、いや、まさか…でも…)

『Ça fait longtemps à tous…
À cause de vous, même moi j’ai été expulsé…』
(久しぶりだな…
お前らのせいで俺まで駆り出されたじゃねーか…)

相当お口が悪いのは自覚していますが、体調を心配されたかと思った瞬間にこんなお仕事を振られたのでこのくらいイライラしていても優しいくらいですよ。

[Louis…!!]

うわー、ヤダヤダ…
これだけで期待の声じゃん…何それ
待って、俺ってそんなに仕事ばっかりだと思われてたの?
余計悲しい!

『Um…mon ami de FBI ma envoyé un message tout à l’heure, et il m’a dit qu’il avait passé information très très importante.
Qui est-ce qui ne peut pas déchiffrer la code?』
(あー…さっきFBIのオトモダチから超絶重要機密情報提供したって聞いてるんだけど…
その暗号が解けないのは誰かな?)

本部でひえぇという俺の殺気を感じた方々がいるようです。
前職場と言えど、表向き退社なだけで現職でもあるのでお仕事は仕方ないのですが、俺が3分も掛からなかったのにこれは誠に遺憾です。

まあ、もっかいこれはDGSEの暗号に直しといて送ってやるか、仕方ない
確かに有力情報…これがなきゃわりと俺らも分が悪かった
秀一には感謝しないと

そのさりげなくいつもサポートしてくださる国民的イケメンは先ほどからリビングにいるようで、気配だけは感じている。
俺の本部へのお説教で気を利かせて待ってくれているのだろう。
マイクを切ってからリビングに声を飛ばす。

『秀一?
ごめん、リアルタイムでやっててちょっと手が離せないから用意したからこっちに来てもらえると嬉しい』

画面を眺めたままそれだけ言ってカフェを一口。
それから情報処理に追われています。
向こうでも局長が俺がスペシャルゲストとして加勢していることを伝えてくれたので、恐らく退職扱いのままです。

「忙しい時にすまんな
まさかここまで事が荒立つとは…」

『大陸にさえいない俺にまで来てるってことは相当な案件
しっかし秀一の暗号化ファイルすら開けられないとは…』

「いや、無理もない
昔お前と組んだ時に使った暗号で書き直したものだ」

『ええええ!そりゃわかんないって!
俺怒鳴っちゃったじゃん!お説教しちゃったよ!?』

「それは知らん」

『なんて無責任な…』

はあっと溜め息をついてから、プリンターを動かす。

『珍しいじゃん、紙媒体だなんて』

「物的証拠でデータ改竄の履歴を提示してくれと言われたのでな
仕方あるまい、何もかもがデータで済むわけでもない」

『そりゃそうだけど』

高速で出力してくれたプリンターから紙を取って内容を確認し、それからファイルに入れて手渡した。

「しかし蛍が退職してから仕事部屋を覗いたのは初めてかもしれん
お前の目は一体何個ついているんだ」

『この方が効率いいんだよ』

「ところで先日、ちゃんと病院へは行ったんだろうな?」

引き出しから処方された頓服を取り出してヒラリと翳してやる。
指示を出しながら秀一に向き直ると、そっと手が近付いてきたので思わず固まった。
国民的イケメンの手です。
あの狙った獲物を逃したことはほとんどない人生の先輩の貴重な手です。
淡々とライフルを握ってしまう、温かくて冷酷な手。

『……』

「クマが酷い、少し肉が薄くなった
また食事が疎かになっているな」

頬を撫でられて、久しぶりの人肌に少しドキドキしてしまいました。
心を許せる先輩の手はやはり逞しかったです。

『…まあ、こっちがこのザマだからね
ヨーロッパからアフリカ大陸の闇市まで網羅されてる
南アメリカ大陸までも時間の問題、今は母国の危機だから
そうも言ってられる状況じゃ…』

「少しは休憩をしたらどうなんだ」

『こんな時に休憩!?』

「こんな時だからだ
わかっているな、蛍
判断力が鈍っている今のお前に、この騒動が解決できるとは思わん
いいから少し休め、食事をとることだ
それからまだわかっていないようだが…」

なんか…国民的イケメンが頬を指でスッとなぞってくる…
ちょっとドキドキする…

『…ん』

「そうか、発情期だったか
奴とは最近ちゃんと寝てるのか?」

『は、発…!?
いやいやいや、またそんな事を…
まあ、会ってるかどうかという観点で言うと俺だって忙しいし向こうだって…』

小さく溜め息を吐き出してから、いや、と続けた。

『確かに、俺の都合だね…
それでも今はこっちが大変なもので
来週くらい、久しぶりに組織のことで表に出なきゃ行けなくなった』

「そうか、奴らが動くのならばこちらも対処するとしよう
さて、連絡でもしておくか」

『…誰に?ああ、ムッシュ・ジェイムズ達?
それから気になる情報入ったよ、キールからね』

「ほう、それはまた珍しい
俺を介さずして組織の事となると、恐らくは蛍の言う直近のそちらの領分の仕事なのだろう
キールは君が元DGSEだと?」

『知らないだろうね…おそらくコードネームも噂程度、だから俺宛にキールが近付くのは尚更珍しい
大方システムの事だろうけど…
キュラソーがいないんだ、嫌でも情報処理はこっちが勝ってくる
…バーボンがベルモットと組んでる時点で嫌な予感はしてるけど』

「また鋭い読みをするようになったな
いつの間に構成員を思い出したんだ?」

『プライベートでは仕事にならない
仕事になるかならないか、それだけのこと
組織にいる間は気にしなくていいだけだしジンの後ろで怯えていればいい
…てことでそろそろ俺も仕事が大詰めなんで、それ持って帰って報告してあげてもらえる?』

「いいだろう
どうやら君の餌やりの時間も近いようで安心した
あまり無茶はしてくれるな、蛍
元より馴れ合う立場ではないが、俺はお前に借りがあるのでな」

そっと指が離れたところでシャッター音がした。

『え…?借り…?』

「これを送っておけば彼も納得するだろう」

嫌な予感がしてきた。
さっきの連絡、彼、そして極め付けは餌やりである。
その言葉たちがだんだんと繋がってきたのだ。

『ま、まさか…』

「蛍」

『秀一、あのさ…』

「来るか来ないかは奴次第だろう
忙しいだろうとさっき蛍も言った通りだとしたら、すぐには来ないだろう」

小さく溜め息を吐き出す。
それから音を立てた端末を見やって秀一を軽く睨んだ。

『やってくれたね』

「ただの近況報告だ
それを情報として渡してやっただけさ
それでは俺はお暇しよう」

電話には出ずに、その場で秀一を見送ってから画面に向き直る。
そしたら別の端末に別の番号から電話がかかってきたので、仕方なく出るには出て自動音声を流しておいた。
さて、仕事は難航しています。

『…そろそろ終わらせてやるか』

こういう時は自分の手で終わらせるのが一番、と思ってしまう時もあるので危険です。
この思考回路になった時はわりと休憩を要します。

…キールのことを知っているだけであの表情か
随分と敵視されたもんだね
俺がDGSEに籍を残していること、バレてないわけじゃないだろうに

[Louis, combien de temps prend pour accéder là-bas ?]
(ルイ、そこにアクセスするまでどれくらいかかりそうだ?)

『…20minutes, et tout est fini.
Je vais fermer tout les rideaux.』
(…20分、それで全て終わらせます
俺が全ての幕引きを行いますので)

さて、ここからはスーパー集中タイムです。
俺の仕事を増やしたこと、日本でのコハルビヨリをさせてくれなかったこと、それから俺のいない間にフランスで不穏な動きを見せたことを後悔させる時が来たようです。

…さて、一気に畳み掛けるからね
俺のフランスで何してくれてるんだか

複数のアドレスを使い分けて、一台で総攻撃と挟み撃ち。
ウイルスを撒き散らす一方で回収作業もして情報を盗んでいく。

ふーん、やるじゃん
次はそのつもりだったんだろうけどもう遅い…
こっちから仕掛けてやったんだ、トラップまで誘導させてもらうよ
いきなりのサイバー攻撃、何十人からと思ってるのかもしれないけど俺1人だから安心してね
局の皆と分担するより、表面上DGSEにいないとされてるフリーランスの俺が動く方が一番効率がいいんだから…

[Attend, Louis! Toi, tu fais quoi…
C’est trop dur ! Dangereux! ]
(待て、ルイ!何をして…
難しすぎる!危険だぞ!)

わかってるさ…
だけど、やられたからには俺だって黙っちゃいられない
ナメられたものだ、フランスを…
フランスにいないことが、こんなに悔しいと思う日がくるなんて…いや、何のための立場だ…
こんな美味しい立場を利用しないでどうする…

『ça y est…』
(いけた…)

相手を捕捉した瞬間だった。
耳が死んでいる時でも使えるように設定していた赤いランプが点滅した。

『Mince…! 』
(やば…)

[Louis, l’arrête-toi! ]
(ルイ、やめるんだ!)

端末のトラップもいつの間に壊されたのか。
ウイルス感染が広がり、地道にこれまで作り上げてきたシステムに穴が空いた。
そこから情報が流れ落ちていく。

いつの間にバックドア作りやがったんだ、この野郎…
クソ…!
これはもう、使い物になりそうもない…だったら…

既にDGSEの機密情報もろともサイバー空間に流れ出していた。
舌打ちをしてから、もう一台の端末の方へ向き直る。

[Louis! Retire!]
(撤収しろ!)

『Non, c’est une punition…pour m’avoir blasphémé…
Moi…que moi, c’est moi qu’il faut finir…!』
(いや、これは罰だよ…俺を冒涜した…
俺が、俺だけが…俺がこれを終わらせなきゃ…!)

無心でキーボードを叩く。
わかってる。
無茶も承知。
それでも、だった。

っ…どうして、いつ…
なんで壊された…

[5秒後に合流します]

ザザッとヘッドホンに入ってきた声にビクリとした。

『え…?』

[3…]

『ちょっ…おい、手を出すな…!』

[2…]

『…connard…』
(馬鹿野郎…)

[1…]

『My system conjunction is dead!
Don’t use my network, the point is here…!』
(俺のシステムはもう死んでる!
俺のネットワークを使うな、合流地点はここだ…!)

[0]

『…Captured. 』
(っ…捕捉した)

[Use this root, there’re three choices.
The way that you may choose that one…don’t worry, it’s special present for you from us.
Always you support our country, we’ve known that. So far, how much you care. Official cooperation from the Japanese police, here.]
(このルートを使ってください、選択肢は3つあります
あなたはこれを選びそうですが…ああ、心配いりませんよ
これは貴方への我々からの特別プレゼントですから
いつも貴方に我々は助けられた、それをわかってます
これまで貴方がどれだけ我々に世話になったことか…
さあ、日本警察の正式な協力ですよ)

思わず視界が滲む。
口を押さえても、嗚咽が漏れる。

[It’s our things to do, making a new backdoor and new your storehouse of information.
…泣いてる時間はありませんよ、クロードさん
終わったらたくさんご飯も食べさせます、ですからあと30分だけ頑張ってください
時間稼ぎはいくらでもします
さあ、今のうちに]

『っ…はい!』

ありがとうございます、日本警察の皆さん…
そして恐らく指揮を取ったのは貴方ですね…降谷さん…

『Rei, merci… merci beaucoup…』
(零、ありがとう…本当に、ありがとう…)

任せましたよ…

そちらは対処したいただいているので、今はこっちの片付けをします。
別の端末から侵入し、DGSEの指揮を取る。
今のうちに総攻撃を仕掛けて繁殖の予防、アドレスの割り出しから何から、流石に2ヶ国の公安警察の手にかかれば相手も相当手を焼いているようです。

『……』

なんか、物音…した?

チラリとリビングに目線だけ投げたけれど、まあいいやとPC作業に集中する。
それから暫く本部とサイバーテロ集団の中核を特定して各国の機密組織と連絡をとって国際手配。
色々と尋問をしたりしている間に、日本警察の皆様からのバックアップも完了して俺のシステムの簡易穴埋めと仮の情報避難先を作っていただきました。

お、終わった…
これで…

DGSE本部でも安堵の声です。
マイクをオフにしてから伸びをして立ち上がる。
各国からポツポツとサイバーテロ犯の特定と逮捕の報告が上がってきました。

…まあ、日本の方々には穴を塞ぐ応急処置と一時的な保管庫を作ってもらったからまたシステムは1から作り直しだけど…
それでもDGSEが無事で、フランスに何もなかった…
それたけで…それだけでいい

とりあえず一杯カフェを淹れに行こうと、オート監視モードにしてから部屋を出た。

『……』

「お疲れさまです、蛍さん
その顔、どうやらちゃんと確保までできたようですね」

『…え、あ…はい…』

「それにしても酷い食生活ですね
…今度の仕事まで貴方に接触するのは慎重にするべきだと思っていたのですが
キールが貴方に直接連絡を取ったという時点で予定が変わりました
なぜキールが貴方を知っている?」

『…その線は薄いと思っていましたがまさか、剥がれかけた茹で卵の殻1つ逃すまいとベルモットが報告でもしたんでしょう
固茹でならまだしも、半熟どころか温泉たまごならば流出は避けられませんからね
ただキールはそちらの目的ではなく、持ち前の正義感で俺に接触してきた
本格的に我々が動く前に対処をしておけとの忠告だと

全く…そんなに世話焼きでよくやってられますね、キールは』

小さく溜め息を吐き出す。
それからキッチンを見てギョッとした。
ここ数日の日本の素晴らしいチャージご飯の容器が散乱しています。

「…貴方ってそういう餌もお好きだったんですね」

『はい!?』

「ほら、あるじゃないですか
舐めたり中身を押し出すタイプの猫の餌…アレと似た原理の餌も召し上がるとは意外でした…」

『…だから俺は…!』

「コーヒーはお持ちします、ですので今は少しだけその頭を冷やしてください」

スッと伸びてきたイケメンの手が頭を捉え、そっと優しく引き込まれた。
いい匂いがします。

「…お疲れさまでした」

『…そういえば、なんで此処に…
貴方、大型端末の操作に追われてたんじゃないんですか?』

「あれはこちらから遠隔で行っていたので問題ありません
それから玄関が開けっぱなしで、貴方こそ不用心ですね」

こんな仕事をしていながら、と言われてハッとした。
そういえば秀一を追い返したままで忘れていた。

『そういえば…そっか…』

ゆっくりと頭を撫でられる。
首筋に唇が触れて目を閉じた。

「珍しいですね、貴方があんなに取り乱すのも…
あんなに感情的なのは流石に僕も初めて見ましたよ」

『…!あ、あれは…』

「久しぶりに人間らしいところを見ました」

『俺は人間です、それに…』

一度言葉を切る。
思い出すと悔しくなる。
たまに、そうやって俺を弱くする。

『それに、俺のいない時にそういうことをする輩がいるからですよ
俺がいないからって…フランスをそんなに見くびられては困ります
ナメられたものですよ…
俺の手で始末してやる、そのための立場でそのための組織で…それから……っ、母国の危機に、自分の不在がどれだけ悔しいかなんて…』

そこまで口にしてから慌てて言葉を止めた。

「…まだ気が動転していますね?
貴方こそいつもの冷静さと気ままさが嘘のようですよ
ですから少し頭を冷やしてくださいと…
コーヒーでも飲んで、それからシステムの修復作業を行ってください
そのくらい、貴方の機密情報を保護するくらい我々の技術で心配性の貴方にとっては長い2日程度は持ちますから
ですから今は、休憩を」

いいですね?と念を押されてゆっくりとソファーに座らされた。
そのままパタリと横に倒れ込む。
彼氏がイケメンすぎて辛い。
なんでこんな時でもイケメンなんでしょうか。

…ほぼほぼ自分の権限で俺の救済措置してくれたってこと…?え…?

しかしそうとしか考えられません。
そして局長からは日本警察への感謝と、俺の日仏親善大使としての仕事に色々とお言葉がありました。
カフェを持ってきたイケメンは隣に座って、時々俺の頭をゆっくりと撫でながら端末で何かを見ていた。

『…あの、安室さん』

「はい」

『俺、そろそろ寝不足なんです』

「はあ」

『今カフェを飲んでしまったのですが』

「自分でコーヒー飲もうとしてましたよね?」

『ええ、まあ、そうなんですが…
なんかもう少しえっと、なんと言うか…』

「でしたらご自分でカフェオレにでもどうぞ」

『いやですよ、なんで彼氏が作ってくださったカフェにそんなこと…』

ぷい、とそっぽを向いてからちびちびとあったかいカフェを口に含む。

『次会う時は、お仕事ですね』

「ええ、今回は珍しく貴方が表に顔を出しますからね
ご一緒できることを楽しみにしています」

『頼みますから知らない人のフリをしてくださいね
それからジン様とのことはご存知かと思いますので、あまり嫉妬しないでくださいね』

「前者のことは構成員の関係ということで賢明な判断かと思います
ちょっと後者については何を言っているのかわかりかねます」

ごめんね、仕事なの。
と言えるわけでもなく項垂れました。

「…僕の視界に入らないように立ち回ってください、いいですね?」

ギラギラしたイケメンの視線を痛いほどに感じます。
眩しいを通り越して痛いです。
仕方ありません。
無駄な嫉妬を避けるためにも、バーボンを知らないアンジュという体裁のためにも接触は避けた方がいいかもしれません。

「ということで今日だけですよ?
ご飯も作りますし、たっぷりご自愛ということで奉仕しますよ?」

『…あの、せめて一緒に寝るとかにしてくださいませんかね…心臓が壊れかねますので…
いや、一緒に寝ても壊れますが』

「…そろそろ去勢手術します?」

『え!?なっ…ですから、一緒に寝るのが心臓に悪いんです!』

「……蛍さんのことだ、言葉通り"寝る"ということか」

このイケメン、なんだかちょっと呆れました。
俺はまた何か大人の階段を一段昇り損ねたようです。
イケメンは黙ってキッチンへ向かって夜ご飯作りを始めてしまいました。

…まあ、今度でいっか
今日はとりあえず久しぶりにまともなご飯だ!






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