お仕事改革
現在、非常に頭を悩ませている件がある。
1.仕事。
2.機材について。
3.フリーランスとしての活動。
『…うーん、本格的に情報屋としてやりたいところではあるんだけどね
今の体調だとどこかの組織に所属して…っていうのもなんかまだ身が持たないし…』
「…仕事を詰め込みすぎるからそうなるのよ
それで、工藤くんには何か話してるの?」
『いやあ、これと言って特に』
仕事の相談相手にはあまり適さないかと思っていましたが、辛口評価をしてくれる哀ちゃんに今日は会いにきております。
「家賃を情報量で納めているなら、情報屋に徹してもいい気がするけれど
組織でも情報屋が仕事のようなものだし…
まあ、貴方がそのビザと必死で手に入れた肩書きを捨てても構わないと言うのなら、の話だけど」
『それなんだよね…
今は結局ワーキングビザで来てるわけだし、俺のキャリアっていうか…俺は元々DGSEに入るためにやってきたわけだし、退職なんて考えてないのが本音
でも今の体じゃ、難しいかな…』
「あら、珍しいわね、そんな弱気な事を言うなんて」
『弱気というよりかは、前向きに考えている案件なんだけど…
考えてることもあるし、上手くいけばかなりの好条件で組織の仕事にも関われて情報屋として食っていける』
「…それ、どのくらいの確率での話なわけ?」
『食える算段は8割、条件を突きつけて成功する算段は6割』
「6割…微妙ね」
『どれだけ向こうが俺を買ってくれるかっていう話だからな…』
そんな話をぽつぽつとして、今日は阿笠邸で人生相談をしていました。
哀ちゃんは少し俺の顔色が良くなったんじゃない?と帰り際にぼそりと漏らした。
『ただいま』
「どこ行ってたんだよ」
『…え?』
夜ご飯前に帰ってきたら、痺れを切らしたような家主。
それから、美人というか、若い女性。
見覚えはある。
『…コナン君、まさかとは思うんだけど家賃の支払い?
保護者付きで?』
すると、隣にいた女性は目をキラキラさせた。
「や〜ん、新ちゃんから聞いてた通りの美形だわ〜!
こんな可愛い子がいてくれるなんて家のことも一安心ね!
それに私のことを知ってるってことは、私のファンかしら?」
「いや、この人ただの敏腕の情報屋だぜ?」
『いえ、個人的にファンですので引退までの出演作品は全て拝見してます
まさかお会いできるなんて思ってもいませんでした、光栄です、マダム・ユキコ』
「え、雪白さん、母さんのファン…!?」
『そうだよ?
言ってなかったっけ、だからここに住まわせてくれるって聞いて快適空間だしなんてすごいんだろうとは思ってた
まあ、秀一の紹介だったからコナン君はアレだけど、秀一はもしかしてそこまで計算してたのかも…末恐ろしい男だな、相変わらず…』
何を隠そう、俺はユキコ・クドウの事は勿論知っているし女優時代の作品は網羅、魅了されて引退しても彼女の情報は追いかけていたファンなので、ムッシュ・クドウの事も知っている。
ちょっとサインでももらえないかな。
『本物ってやっぱり画面越しで見るよりお若くて綺麗ですね…感動しました…』
ただ、テンション高いな…
「おい、調子に乗るからやめとけ」
小声でコナン君に忠告されましたが、本音なので仕方ない。
案の定マダム・ユキコはとんでもないスピードとテンションで話し始めました。
苦笑。
「でも勿体ないわ〜
こんなに可愛ければ私がプロデューサーにでも紹介してモデルとかに起用してって頼みたいくらい
新ちゃんから聞いてるけれど、フランス人と日本人のハーフって…」
『ええ、父がフランス人で母が日本人です
ですが生まれも育ちもフランスで、日本語は家庭内での会話で覚えたくらいです』
「それにしては日本語上手すぎるわよ」
『それで、あの、彼から聞いているということは…俺の仕事や肩書きもご存知と…そういうわけですね?』
「ピンポ〜ン!大正解!」
『まあ、どこの馬の骨ともわからない奴を滞在させるわけにはいきませんからね…』
「それに新ちゃんのことも知っているみたいだから、家賃も情報ってお願いしたのは私」
『なるほど、そこまでご存知とは…
でしたら話が早いですね
生憎本業が休職中でして、十分な家賃が払えていないのが現状で申し訳ないのですが対策を考えているところです』
「対策…?」
「雪白さん、どういうこと?
それ、誰かにもう話した?」
『いや、今哀ちゃんと内容を話さずに意見交換してきたところ
今夜中にでも話しつけてこようと思ってて…まあ、6割くらいの確率かな、成功率として
それが上手くいけば情報屋として食っていける確率が8割
情報屋としての精度も上がれば、それだけコナン君に払える家賃も上がる
どう?いい話でしょ?』
「…それ、どの立場を失うことになるの?」
本当、頭の回転が速くて困るな…
人差し指を唇に押し当てる。
『それは決まってからちゃんとご報告します』
今日はマダム・ユキコに料理を振る舞っていただき、ちゃんと安室さんにも家主が来ていることも伝えてある。
夜になってコナン君達は帰ったものの、仕事部屋に戻って1人になってから暫くパソコン画面と向き合っていた。
…さて、どう舵を切ろうか
この事は安室さんにも言ってないし、完全に俺の仕事の話だ
もしも交渉に失敗すれば、俺は無職になるか良くても現状維持となるだろうな…
電話を取り出して、降谷さんに電話をした。
『……』
[もしもし、クロードさん?
こんな時間にどうされたんです?]
『夜分遅くにすみません
少しお話があってお電話させていただきました』
[仕事の話でしたらしませんよ?]
『すみません、仕事の話です』
[クロードさん、貴方って人は…]
降谷さんは恐らく警察庁にいるんだろう。
説教を遮って口火を切った。
『仕事を、これからも一緒にできるかどうかわからなくなりました
俺の交渉力次第ですが、最良の結末を話すよりも先ずは想定している最悪の結末を話しておこうと思いまして』
[…それは貴方次第で事態が好転するか悪化するかということですか、いいでしょう
聞きますよ、貴方の言う最悪の結末とやらを]
『…はい
結論から申しますと、二度と仕事をご一緒することはないと思います
これだけお世話になっていながら大変申し訳ないのですが、ビザもなくなりフランスに帰国して無職、転職ということになります』
[どうせ僕が言ったところで何の効力もないと踏んだ上で、敢えてお聞きします
どうして僕に一言も相談せずに…今の自分の状態をわかっているんですか?]
呆れたような、少し苛立ちさえ感じられる降谷さんの声に小さく頷いた。
わかっていたからだ、この質問も。
『すみません
今、こんな状態だからこそ、です
降谷さんにご相談しなかったのは、お察しの通りです』
[…そうですか]
『では、そろそろフランスも午後の良いティータイムになるので交渉してこようと思います』
「…また、共同捜査ができることを願っております」
『…ありがとうございます
それでは失礼致します』
電話を切ってから、伸びた髪を一纏めにしてからテレビ電話を繋ぐ。
映し出された映像の背景には、DGSEの本部の紋章。
[Ah, Louis, ça fait longtemps. Ça va?]
(ああ、ルイ、久しぶりだね。体調はどうだい?)
『Bon après-midi, directeur. Moi, pas mal, merci. Ça va mieux petit à petit.』
(こんにちは、所長。体調は…悪くないですね。少しずつですが良くなっています。)
[Bien bien. Je suis soulagé.
Bah, qu’est-ce qui ce passe?]
(そうかそうか、それは良かった。
それで…どうしたんだね?)
少し姿勢を整えて、呼吸を整えてから画面越しの上司をスッと見据えた。
『Directeur, j’ai une demande à vous.
Laissez-moi quitter le travail, s’il vous plaît.』
(所長、お願いがあります。
この仕事、辞めさせてください。)
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[mokuji]
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