関西1人旅の罠

というわけで、来てしまいました。

『……久しぶりの、大阪!』

「…なんでオレが仕事ばっかしのアホのお守りせなあかんのや
大体オヤジかて…ルイが来るんやったら私服の護衛付けなあかんな…とか言い出すわ、ホンマ、やってられへん…」

『まあ、ざっと5人くらいは私服護衛さんの気配はするねえ…
俺にこんな護衛付けなくても大丈夫って、ムッシュ服部に伝えておいたはずなんだけどな…』

苦笑して戎橋で不貞腐れている平次君を見た。

「ほんで、こんな時にどないしたんや
宿も取ってへんし、ほんまに日帰りなんか?」

『実は今は休暇なので、ゆっくりしに来ました
まあ、ちょっと保護者が心配性だから色々と条件はあるんだけど…』

「条件?」

『うん
えっと…大阪行くって言ったらこれを渡されましてね…』

タスクリストの長編のようなもので、1時間散歩して疲れたと思ったら必ず座れる場所で休憩だの、嫌な予感がしたら惜しまず頓服を飲むだの、特に新幹線は閉鎖空間にいると感じないように音楽を聴くなり寝るなりするだの、長ったらしいものだった。
そのメールを見せたら、箇条書きの数を数えて平次君はげっそりした。

「なんやこのけったいなんは…」

『そういうことです』

「まあ、ようわからへんけどわかった…」

『その日本語、どういう意味?』

「今更外人気取りか!?」

今日もキレッキレのツッコミですね。
流石ですよ、平次君。

『えっと…やっぱり王道にたこ焼き食べたいよね
なんか前に見つけた情報なんだけど、大阪って塩たこ焼きなるものがあるの?
あんなたこ焼き好きの大阪人が、ソース付けないたこ焼き食べるの?』

「ああ、塩たこ焼きやな
そこらにあるで、塩だけのもあるしネギ塩もあるで
アメ村に行ってもええし、近いとこならそこにもぎょうさんあるで」

『えっと…外出ルールその31、人混みを避けるべし…
ということで、人が少ない所にしよう』

「なんやそのルールその31とか…」

アホか…と言いつつも平次君は道頓堀の人混みを避けてくれるようでした。
ゆったりと大阪の空気を堪能しながら散歩をして、路地裏の隠れ家カフェを見つけたり色々と散策しながらたこ焼き屋へとやってきた。

…流石にこれだけ歩くと疲れもするな
確かに安室さんの散歩ルール、徹底しててすごい…俺のペース配分完璧に把握されてますね…

小さく息を吐き出してストンと椅子に腰を落とした。

「どないしたんや?」

『あー…ちょっと疲れただけなので気にしないで』

「ほなオレが買うてきたるわ
塩でええんやな?」

『あ、ありがとう…
うん、塩でお願いします』

なんていい子だ…
ねえ、流石ムッシュ服部の息子さんだよ、よく出来た子だねえ…

暫くして戻ってきた平次君はご丁寧にお茶のペットボトルまで買ってきてくれていた。

『あ、ありがとう…お茶代…えっと…』

財布からたこ焼き代とお茶代とを取り出そうとして小銭をぶちまけた。

「焦らんとゆっくりしたらええやん」

『あ…ごめん…』

「どないしたんや…」

『いや、なんでもない…ほんと、ちょっと疲れただけだからたこ焼き食べたら元気になるって
これ楽しみにしてたんだから…』

たこ焼き食べたら薬飲むかー…
仕方ないな、折角の遠出だから羽伸ばせると思ってたんだけど、行きの新幹線もなかなかキツかったのかな…

たこ焼きも届いたしお茶で水分補給もしたので、手を合わせる。

『いただきます…!』

目の前には本当にソースも掛かっていないたこ焼き。
これが噂のグルメ、塩たこ焼きなんですね。
マヨネーズはかかっていますが塩胡椒だけのようです。

『本当にさっぱりとした色というか…』

「そらそうや、塩胡椒なんやから
とりあえず初めてっちゅうからネギ塩やのうてホンマの塩たこ焼きにしたで」

『うん、これです、これ…!
大阪の裏道グルメなるブログに載っていた日本のコメディアンも愛する塩たこ焼き…!』

「…言うほど裏道グルメでもないで」

『って、そんな平次君はソースですか』

「そらたこ焼き言うたらなあ」

『…お、お、お、大阪人は塩たこ焼きを食べないの?』

「や、食う人は食うで」

『結局は食べるんだね…?』

大阪人もなかなかグルメで個性的です。

『おお…』

「どや?」

『お、お、おいひい…あ、熱っ』

「…猫舌やなあ」

東京のたこ焼きもカリッとしてて美味しいですが、ふわっととろっとした大阪のたこ焼きはたまらないですね。
あ、塩が良い加減です。
ソースじゃなくてもこんなに美味しいのか。
すごい。
すごいぞ、大阪。

『美味しい…』

「せやろせやろ
大阪には東京よりも美味いモンがぎょうさんあるんや
蛍、最近全然大阪来おへんし、寒なったらまたオヤジが家呼ぼうやて言うてたで」

『えっ、ムッシュ服部が…!なんと光栄な…』

久しぶりだったので、思いの外長話をしてしまった。
水分補給はオッケー。
食後の薬もちゃんと飲んだし、休憩もできた。
よしよし、大丈夫そうだ。

「なあ、言うたら案内したるけど、蛍の目当てはどこなん?」

『ええと…たこ焼きはクリアしたし、ゆっくりできる所を探してただけだし…
そうだなあ…』

「大阪城の天守閣は行ったことあるか?」

『大阪城…ってお城だよね?
それってとても体力使う?階段の昇り降りあったりするの?』

「まあ、天守閣やからてっぺんやぞ」

『あ、じゃあパス』

「え!?」

確かそんなようなルールがあった気がするぞ…

メール画面を開いてチェックしてみる。

『あー、これだ
外出ルールその12、体力を消耗するので階段の昇降は基本的に3階まで
天守閣がてっぺんてことは…3階以上だよね』

「…なんやねん、このルール
ほんなら通天閣はどや?」

『通天閣…は一回行ったことあるかな、ほら、ガイドのバイトの時
あれは確かエレベーターだったしアリだな
ん?待てよ…』

「今度は何の条件や…」

『…外出ルールその42、地下鉄及び市内の公共交通機関での移動は15分以内
これ、ギリかな…?』

「知るかボケェ!
こんな細かいルール、よう覚えとるなあ!」

『まあ、腐っても諜報員だし…?』

「しゃーない、もうええわ
とりあえず…っと、すまん」

平次君の携帯が鳴って、電話に出た平次君は少し焦った表情でした。

「…わかった、ほな」

『…事件、なんでしょ?』

すると平次君は少しバツが悪そうにして、小さく頷いた。

『いいよ、行ってきなよ
ここまで連れてきてもらったし、どこへ行くかも決めてなかったから振り回してるみたいで申し訳なかったし
初めて来た場所でもないから大丈夫だよ』

「せやけど…」

『ほらほら、西の高校生探偵さんが事件を前に何を躊躇ってるの
これじゃあ東の高校生探偵さんに抜かされちゃうよ?』

彼を振り回していたのは確かだったし、それなら俺のお守りよりも事件の方が優先度は高いはずだ。
それに俺も気ままにふらふらしようかな。

「……せや」

『ん?』

「蛍にも来てもろたらええんや!」

『…ハイ?』

と、何故か大阪のメトロで10分程の場所に連れてこられてしまい、何故か大滝さんがいらっしゃる規制線の張られた場所に突っ立っていました。
おーい。
結局俺は関西に来ても巻き込まれる運命なんですか。

…旅行だったし休職だし安室さんの外出ルールその17に、必要最低限の端末しか持ち歩かないって…携帯しか持ってきてないよ…
仕事道具とか今持ってないから何にも出来ないからね…!?

メトロでの移動と早足で現場に赴いた関係で、一気に体力を消耗した気分だ。
とりあえず水分補給はこまめにしておく。
平次君にああ言ったけれど、まさか自分が連行されるとは思っていなかったので正直事件現場に来てしまって後悔しています。

「平ちゃん、こっちや」

大滝さん…今日も恰幅が良くてお元気そうで何よりですね…

はあ、と小さく溜め息を吐き出して現場近くのベンチに座って眺めていた。

久しぶりだなあ…
この頃家での仕事ばかりだったし、休職してからはずっと近所しか散歩してなかったもんな…
事件現場も、久しぶり…

「蛍」

なんだかユサユサと揺さぶられて目を開けた。

『…ん、此処は…』

「全く、ほんまに猫やなあ、こないなとこでよう寝るわ…
たこ焼き食うて昼寝かいな」

『ああ…平次君、事件は?』

「解決したで」

ドヤ顔で言われたので無事彼のお手柄だったんだろう。
時計を見ればすっかり夕方で、陽も傾いていたので少し迷ってから新幹線の切符を取り出した。

『…18時、早すぎたかなあ?』

「え?ウチ泊まるんとちゃうん?
あ、日帰りやったっけ」

『うん、日帰り
一応その保護者が東京に着く時間を逆算して切符取ったって言ってたから…
もう少し遅くても良かったのにね、ゆっくり新大阪向かってお土産でも選ぶかな』

「…今更やけど、その保護者、めちゃくちゃ過保護やな」

『そだよ?』

「さも当たり前みたいに言いなや」

最早呆れ顔の平次君はなんだかんだで新大阪まで一緒に来てくれました。
親切かよ。
ということで、駅で大家さんとポアロ向けにお土産を買って、平次君とは改札の所でお別れです。

『今日はありがとう
念願の塩たこ焼き食べられたからね』

「…会うた時から思ってたんやけど、随分痩せたな
気のせいか?」

『まあ、仕事が立て込んでまして…』

「そうやろな…俺と新幹線で一緒に来ても仕事して駅弁をホームで食うてたもんな…」

苦笑されました。
どうやら変な誤解を招いているようです。

『だから今は休暇で来てたんだってば
じゃあ…そろそろ行くね』

「今度はそのルールなしで観光やで、絶対やぞ」

『は、はい…』

「ほな、気イつけてな」

またね、と手を振って改札を通ったはいいのですが、駅の人口密度、かなりキツイです。

な、何これ…
今日一日の疲れはいいとして、なんか緊張の糸が切れたような…

ホームで一度耳鳴りを起こしたのですぐに薬を飲んだのですが、新幹線に乗って死亡しました。
途中トイレで戻し、フラフラになりながら指定席に戻って安室さんに連絡を入れておいた。
それまでは薬のおかげで寝ていたので、なんとか東京駅まで持ちこたえた。

…本当の試練はここからですね
米花町まで帰らなきゃいけないんだよ?
ねえ…電車やめてタクシーにする?
でも高いよねぇ…うわー…

どうしようか迷っていたら、電話が掛かってきたので発信者を見ずに電話に出た。

『もしもし…』

[あ、蛍さん、ご無事でしたか]

こ、こ、この声は…!

『あ、あ、あ、あ、安室さん…?
なんで、どうして…』

[その新幹線の切符を購入したのは僕ですし、時間くらい把握していて当然だと思いませんか?
顔、上げてください]

え…?

下を向いてフラフラとホームを歩いていたのですが、顔を上げて驚いた。
目の前にイケメンが立っています。

『え、え…?』

「長旅お疲れ様です
久しぶりの大阪は楽しめました?」

電話を持っていた手を下ろし、思わず駆け寄って抱きついた。
うわあ、本物だ。
なんでここにいるんだろう。

『なんでここに…』

「貴方が新幹線の中で報告してくださったからです
今日はもうお疲れでしょうしお迎えにあがりました」

え、何それ…送迎サービス付きだなんて聞いてないんだけど…

「どうせ今から在来線に乗れないことはわかっていましたから
駐車場まで、あと少し頑張ってください
そしたら寝てても何をしてても構わないので」

ぼ、ぼ、菩薩ですか…
そうだ、この人、菩薩だったんだ…
俺が1人で大阪に行くのもアレだからってコナン君伝いに平次君をキャスティングしてくれたのも安室さんだし、確かグルメサイトを昔教えてくれたのも安室さんだ…
え、この人…なんなんですか…?

『…千里眼か何か持った菩薩ですか?』

「…あの、僕は人間ですが…」

『安室さん…好き…
あ、ちょっと気持ち悪…すみません、トイレ…』

「…好き、の余韻にも浸らせていただけないんですね」

苦笑したくせに、なんだかんだで嫌な顔一つ見せずにトイレに案内してくれたし車で家まで送ってくれた。
その時にはもう俺も大分消耗していたのでベッドに潜り込んでいたけれど。

「蛍さん、お土産話はまた明日にでも聞かせてください
今日はゆっくり休んでくださいね」

『…はい…送ってくださってありがとうございました』

すうっと睡魔に襲われて、目が覚めたときには家にもう誰もいなかった。
その代わり、またいつものように朝8時きっかりに受信したメールは2件あって、いつものタスクリストと別のものだった。

『……あの人、策士だ』

どうやらホームで俺を驚かせるというサプライズをしたいがために、わざわざ切符の購入から時間指定、そして指定席まで選んでいたのだ。
用意周到すぎる。

してやられました…

彼へ何をやってもいつも一枚上手なので悔しいです。

『…俺だって、いつかサプライズとかやってやるんだからな…』

そう宣言してから見た端末の時計は14時だったので、そっちの方がサプライズでした。
もう嫌です。





[ 10/33 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -