ハイライト

「それで、友達はできたんですか?」

『2人』

「そうですか」

『……』

「何です?」

『…少ないとか怒られるかと思った』

「貴方の事ですから、1人も作らないんじゃないかと思っていたので2人もいれば上出来かと…」

『事実だが一々気に障る言い方しかできねーのか』

夕食後は宿題も片付いたのでやっとハッキングやお仕事タイムに突入。
パソコンを前に、保護者と情報共有。

2人って言ったって、どっちも俺と同じ立場だからな…
友達ってほどでもねーけど知り合いほど薄っぺらくはない筈

『俺の交友関係なんてどうでもいいだろ』

「保護者としてちゃんと知っておく必要があると思いますよ」

『保護者保護者って、都合のいい時ばっかりそんな言い方しやがって…
あ、でも1人は安室さんのこと知ってるみたいだったけど』

「僕のことを知ってる小学生なら多少はいるかと思いますけど…」

『江戸川コナン
バイト先の上にいるんだろ?』

「ああ、彼ですか
毛利探偵事務所が上にありますからね」

『それからアンタの事、知ってるみたいじゃん』

「ですから上に探偵事務所があるので常連ではありますし…」

『そうじゃなくて、本名もだし仕事のことも』

安室さんは少し顔色を変えた。

『…彼の事は俺も知ってるけど、どういう関係?』

「ご想像にお任せします」

『仕事が絡むとそればっかり
ワンパターン過ぎて飽きたぜ、その答も』

「特別これといった関係はありませんよ」

『だったらなんで知ってる?』

「さあ、彼は勘が良いみたいですから」

勘が良いだけで気付くかよ…
工藤もそれなりに安室さんの仕事を知ってるくらいには行動を共にしたわけで…
じゃなきゃ、普通公安警察なんて気付くわけねーし
…安室さんのこと、工藤はどこまで知ってる?

『…それから秀一とも知り合いらしいな』

「今はそんな話いいでしょう」

工藤と秀一と安室さん…
一体何の関係があるってんだよ…

『もういい、自分で調べる』

「やめておいた方がいいと思いますよ」

『関係ねーだろ』

「僕は忠告しましたからね」

ムッとしたのでもう帰れと追い返そうとしたら手首を掴まれた。

『…何だよ』

「自分から危険なことに首を突っ込まないでください
僕がどうしてここまでしているのか、先程お話した筈ですよね?」

そっと視線を落として唇を噛んだ。
つくづく調子が狂う。

『…何なんだよ、いつも説教ばかりのくせに突然優しさ振りまいたかと思えばまた説教の繰り返し
本当、調子狂う…』

「飴と鞭ですかね」

『どこがだよ』

「…貴方、僕の前で笑ったことありませんよね」

『…どうせ元から無愛想な人間だよ』

手を離してパソコンを閉じた。
仕事は終わった。
宿題もしたし、なんだか一気に疲れてしまった。

「お手洗いお借りします」

そう言って席を立った安室さんは携帯を取り出したので、多分仕事か何かだろう。
もう店も閉めてしまおうかと思った矢先、ドアが開いて目を向けた。

「…あら、店長代理って随分可愛い子じゃない」

『…可愛いって言ったら殺すぞ、美和子』

「…私の名前、いつ知ったの?
マル暴の知り合いからニカの子供とは聞いていたけれど随分と似てるじゃない、態度まで
あ、もしかしてニカがいつも私のことそう呼んでるの見てたのね?」

『…まーな』

そういうことにしておこう。
ボロを出さない方が良さそうだ。
いつものハイライトを一箱取ってレジに置く。

「今日は2箱にしとこうかしら」

もう1個取って箱を重ねた。
紙幣を2枚受け取って、下に入れ込まれていた紙をカウンター内で確認する。

『…ビンゴ』

「え?」

『昨日この客来たよ
5分で用意するから待ってて』

閉じていたパソコンを開いて資料を探し当て、メモリーカードに移していたら私服で伊達眼鏡をかけていた美和子は店を眺め回した。

「ニカ、貴方に店番だけ頼んで行っちゃったの?」

『…まあ、そんな感じ
店の回し方は知ってたから…』

「そう
それにしても子役時代のニカに本当にそっくり
可愛いじゃないのー、今度警視庁においで
社会科見学でもする?
多少の案内はしてあげられるわ」

『やめとく
美和子とマル暴のおっさん以外と関わるなってパパ言ってたし』

「ニカも相変わらずね…」

コピーし終わったメモリーカードを抜いて煙草の箱に貼り、もう1箱でサンドイッチするようにしてレジに置き直した。

「流石、ニカ直伝の早技ね
ありがと、助かったわ」

『いや、今回はマジでタイミングが良かっただけだ
それにもう店閉めるとこだったから…』

「そう…まあ、こんな時間までお店番するのも大変よね
ニカもこんな遅くまでさせなくてもいいのに…
じゃあ、おやすみなさい」

『またね』

美和子をドアの所で見送ってから店の札も閉店に掛け直す。
それから鍵を閉めて照明を落とした。
さあ、もうシャワー浴びて寝よう。
パソコンの電源も落として2階に上がろうとして、ふとカウンターに残されていたグラスに気付いた。

『あれ…まさか…』

「…客がいるというのに何勝手に店閉めてるんですか」

振り返ったら、安室さんでした。
そうだ、トイレとか言って多分仕事の話をしてた時に美和子が来たもんだからすっかり忘れていた。

『客が来たから安室さんがトイレ行ってたの忘れてた
随分長かったな』

「あまり顔を合わせたくはなかったので」

ん…?美和子と…?
てことは話が終わってからも暫くは留まってたってこと?

『あ、そ…仕事だけじゃなかったんだ
とりあえず俺シャワー浴びてもう寝るから
なんか疲れた、いつも以上に眠い』

「宿題と接客と、情報収集までしてますからね
子供がする仕事にしては過労の域ですよ
それより僕をどうしてくれるんですか」

『どうするって…
もう店閉めちゃったし、また鍵開けんの面倒くせーから…』

目をこすってふわあっと欠伸を落とす。

…なんかもう疲れちゃったな

思った以上に幼児化した体ではいつも通りの業務が負担になるらしい。
2階に向かう階段の途中で座り込んだ。
ここ数日、大人の時と同じようにいつも通りだと思ってやっていた業務の疲れが溜まって皺寄せが来たんだろうか。

「ニカさん、何座り込んでるんですか」

後ろに気配を感じたので凭れ掛かってみたら安室さんの脚だった。

…あー、癪だな
なんで今まで通りやってたことが出来なくなって、安室さんまでこんなに大きく感じて…

「ニカさん」

『…もうやだ』

安室さんのズボンをギュッと握り締め、脚に縋り付くようにして目を伏せた。

『眠い…』

「でしたらとりあえずベッドで寝たらどうなんです?
大体夕食の後に仕事をする小学生がいますか
あんなペースで受けた依頼を処理して…営業時間を短縮したから定休日を設けたくないだなんて我儘、そろそろ辞めたらどうです?
明日も学校なんですからもう寝て……」

『…もう、やだ、こんなの』

「……」

『仕事もできない、宿題ばっかり、いつもやって来た事だ
ルーティーンなのに、もう何年もやってきた仕事だ…
なのに、どうしてこんな目に…考えるだけ疲れる
もう何日も経つのに朝起きて、いつも置いてた目覚まし時計に手が届かない、ベッドから降りる時に足がつかない
わかってたって頭だけが追いつかねえ
疲れた、疲れ過ぎた…もうこんなのやってらんねえよ、こんな目に遭うならいっそのこと…殺してくれれば良かった…
こんな半殺し状態にされるならいっそ…』

「ニカさん」

手首を掴まれた。
安室さんは目線を合わせるようにしゃがんで俺の頬を拭うように撫でた。

「疲れているんですね」

『やめろよ、そうやって俺に気を遣うの
あんな愚痴聞かされて答に困ったからって慰めようとしなくたって…』

「やっと貴方の本音が聞けた気がしますよ、僕は
貴方って人は、本当に素直なんて言葉を知らないような人間ですね」

泣いてるの気付いてます?と言われて初めて自分が泣いてることを知った。
そして涙を拭われたことも。

『……』

「今まで出来ていた事が出来なくなったことに戸惑いを覚えるのはわかります、イライラするでしょうし
だからといって言っていい事と悪いことがありますから発言には気をつけてください
何度も言わせないでくださいね、僕が貴方を好意で保護していることを
その意味をよく考えて発言してください」

『…何それ』

バツが悪くなってそっぽを向いたら抱き上げられた。
ほら、こんなに簡単に持ち上げられちゃって。
ベッドに降ろされたのでパタリと横になったら布団を掛けられた。

「明日学校に行けそうですか?」

『…休みたい』

「…明日だけですよ、ズル休みは」

『ズル休みなんて言い方すんな』

「すみませんね、気の利いた言い方が出来なくて
もう寝てください、今日は大分疲れが溜まっているでしょうから」

『…ねえ、どうすんの?』

「はい?」

『俺、もう店の鍵閉めたよ』

「仕方ないので此処で一泊しますよ
ソファーお借りします」

『いいよ』

「…はい?」

『ソファーで寝たら風邪引くし、体バキバキになっても知らねーから』

布団をペラリとめくってから俺は背を向けて目を閉じる。
暫くしてから背中側のベッドが沈んだ。

「…そろそろ素直に寂しがってください」

『寂しく思ったことなんかねーよ…
ただ、無力さにイライラしてるだけだ
滑稽だと思いたきゃ思え、昔から俺は出来ることしかしねー主義なんだ
出来ないことはしない、だから今まで通りの生活だって出来ることだから…』

「結果的に負担となって自分が押しつぶされそうになってもですか?」

『…生憎そういう生き方しかしてこなかったから他の術を知らない
だから…アンタが言う素直になるとか、そういうことも出来ないからしてないだけ…
そんな事出来てたら、とっくに俺は楽に生きてた
アンタはケーサツで真っ当な仕事をして、それでも悔しい思いをしたことあんの?』

背中側で人の気配が動く。
そっと頭に手が触れて、頭を撫でられたのは予想外だった。

「ええ、何度もあります
こんな仕事をしている以上、そういう思いをすることは多々ありますよ
ただ、貴方のように不器用な生き方はしてませんけどね」

『…世話焼き
もう寝る、絶対寝るからな』

「はい、おやすみなさい」

そう宣言して仰向けになり、それからちょっとだけ、ほんの少しだけいつもより布団が温かくなった気がしてその熱の発生源に潜り込む。

…1人じゃない夜なんて、何年ぶりなんだろう
最初から素直に一緒に寝たらいいなんて、言葉で提案出来てたらどんなに楽だっただろうね

疲労からかすぐに寝てしまい、翌日起きた時にはベッドに1人取り残されていた。
シャワーを浴びて適当な服に着替えて1階に降りると、カウンターには朝食が置いてあった。

「おはようございます
学校には連絡しておきました」

『…アンタが休みを許可するのも珍しいからなんか変な感じする』

何事もなかったかのように振る舞われたので、一瞬昨日の夜のことは夢の話かと思ってしまった。
とりあえず朝ごはんを食べることにして、ゆっくりとコーヒーを啜る。

『今日、暇?』

「はい?貴方、ズル休みなんですよ?」

『うん、だから俺は暇だから安室さんは暇なのかって聞いてんの
どっか行こうよ、今日は臨時休業でいいし』

「外へ行く元気があるのでしたら今からでも学校に…」

『そういうことじゃねえ…!
気分転換だよ、ストレス発散…!
たまには羽伸ばしたいんだよ』

「貴方って人は本当に仕方のない人ですね…
朝ごはんを食べたら支度してきて下さい、出掛けますから」

…あれ、忙しいって言って断るかと思ったのに
意外なもんだな…

「昨日の宿題の話もそうですが、必要だと思ったら僕はちゃんと貴方のために時間を作ります
貴方も僕に気を遣うの、やめてくださいませんか?」

カウンター越しにそう言われ、少し迷ってから小さく頷いた。

『…海、行きたい』

「気を遣わないでくださいと言いましたが我儘を言えとは言っていませんからね」

安室さんは手早く洗い物を済ませると、カウンターの中から俺が食べているのを見て少しだけ満足そうにしていた。
朝ごはんは美味しいから心配しなくても文句は言わないよ。






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