クール・ブースト5

AM10:00。
学校というクソ面倒臭い所に行く羽目になって3日目。
既に不登校2日目である。
ゆっくり起き上がってから1階の簡易キッチンでフレンチトーストを作ってコーヒーを淹れる。
店内にBGMを流してゆったりとした朝を過ごして食後に一服していたら、電話が音を立てたので2階に上がって窓辺で通話ボタンを押した。

『もしもし』

[何をしてるんですか?]

『…ああ、安室さん、おはよ』

[おはようございます
一体どういう事ですか、学校から電話がきましたよ
昨日今日と無断欠席してるそうじゃないですか」

『…だって』

[だってじゃありません
店がどうなってもいいんですか?
しかも貴方今煙草吸ってませんか?]

『吸ってるよ』

[正直に言ってくださるのはいい事ですが、どんな取引だったか本当に覚えていないんですか?
学校側から僕と同居していないのですぐに連絡をしてくださいと言われましてね
僕から連絡が取れた事は学校側に伝えておきます、今からでいいので行ってください
もう少しで捜索願が出されるところだったんですからね?]

『…学校に行くのがストレス』

[子供がストレス云々言うものではありません]

『差別だ!
子供だってストレスくらい感じる…!
あ、そうだ、アンタ勝手に7歳の設定にしやがって、おかげで1年生に振り分けられたんだけどどうしてくれんだよ!
2年生でもいいって言ったの安室さんだろ!?』

[最終的な判断を下すのは学校側ですので、その件について僕に文句を言われましても…]

『あのなあ…』

[準備は出来ていますか?
強制連行します、今路地の前に来たので3分後に突破します]

『はあ!?』

「そういう事です
僕も仕事を抜けてきたので、これからはこんな手間をかけさせないでください]

ブツッと電話を切られた。
恐ろしい人だ。
つくづく、なんて人に保護されてしまったんだろうと思う。
だけど相手は腐ってもケーサツ、しかも警視庁ではなく此方にとっても都合のいい国家機密を握ってる相手だ。
白いTシャツと黒いズボンを履いてから煙草を指に挟み、一度1階に降りると店のドアをノックされた。

これで出ないとまた面倒なことに、なるんだろうなあ…
クソー…

乱暴に店の鍵を開けたら、いつもとは違う安室さんが立っていた。
しかもすっごい機嫌悪そうに。

『…どうしたの、パパ』

「冗談を言っている時間はありませんよ
呑気に煙草なんか吸ってないですぐに行きますから」

『なんでスーツ?
あ、もしかして学校に一緒に来てくれるわけ?』

「仕事を抜けてきたと言いましたよね?
学校への謝罪は自分でしてください」

『はあ!?
普通保護者同伴だろ!』

「いいから荷物を持ってきてください!」

おー、怖

2階に荷物を取りに行き、ランドセルを持って降りてきた。
今日のオススメはクール・ブースト5。
吸いかけだった煙草も没収されて灰皿へ。

…なんだよ、もう
まあ、スーツだし本当に仕事抜け出してきたみたいだし、そこは非を認めてやろう…

路地の入り口に停まっていた白い車に乗せられて、学校まで結局強制連行。

『…悪かったな』

「はい?」

『仕事中に来させて』

「悪いと思っているなら二度とこんな事をしないでください」

『……』

あーあ、相当お怒りじゃん…

「ニカさん」

『何、これでも昔から仕事してんだ、仕事を邪魔すんのは迷惑なことくらいわかってる
大人の顔色なんざ見りゃわかる』

「…そういう事を今の姿で言われるとやりにくいですね、どうも
いつもの横暴さはどうしたんです?」

『アンタがあまりに苛立ってるからだよ』

「別に苛立ってなんかいませんよ」

『だからそれくらい見てわかる』

学校の前で車が停まり、シートベルトを外してドアを開けた。

『今度から学校休む時は自分で連絡するから、こんな手間かけさせねーよ』

「そういう問題ではありません、きちんと学校へ行ってください」

『早く仕事戻ったら?』

バタンとドアを閉めて車を降り、学校に仕方なく入った。
俺が校舎に入るまで車が発進しなかったので疑い過ぎだと呆れながらとりあえず教室に向かった。
さあ、なんて言い訳をしようか。

「皆書けたかな?
じゃあ次のページに……ああ!ニカ君!」

教室の後ろから入ったら視線が飛んできたのでまた帰りたくなった。

『道に迷って遅れた』

「昨日も今日も連絡がなくて先生達とても心配していたのよ」

『昨日も迷っただけ、授業続けたら?』

ランドセルから教科書とひらがなのなぞり書きドリル、それから筆箱を取り出してため息を吐き出した。
筆箱に入ってるのは鉛筆。
ボールペンの方が使い慣れてるのに日本の小学校じゃ鉛筆が普通らしい。
後ろを向いたら、哀が鉛筆を取り落とした。

「な、何よ…」

『何ページ?
わかんねーとこ教えてくれるんだろ?』

「…32ページよ」

『どーも』

前を向き直してそのページを開き、ひらがなを馬鹿丁寧になぞってやった。
あとの自分の字を書くマス目にひらがなを書いていたら、隣に先生がやってきた。

「確かに書くのは難しいのね、もう少しまっすぐだといいんだけれど…」

『…え?』

いつも通り書いた筈だし、普通に書いた筈なんだけど…
何がいけなかったの?
安室さんがこれ見て俺の字が汚いと思ったわけ?

「ほら、こことか…
この十字の線に合わせてまっすぐに…」

『…まっすぐだけど?』

「ほら、ここは右上がりになっていて全体的に斜めで細くてなってるでしょ?」

よくよく観察してみたけれど、全然わからない。

「それって、ロシア人の特徴じゃない?」

思わず振り向いた。
そしたら斜め後ろから覗き込まれていた。

「ロシア人の、特徴…?」

「ロシア人の書き言葉はキリル文字で筆記体を使うし、斜めになる癖があるんだ」

…言われてみれば若干斜め?
だから日本語が書けないと思われたわけ?
ていうか、お前誰だよ…ちゃっかり哀の隣に座ってるけど

「細長くて利き手側に傾いてるのも、ロシアから来たっていう彼ならそういう字の形になってもおかしくないんじゃない?」

『…何、急に分析始めて』

そしたら哀に袖を引っ張られた。
眼鏡を掛けた彼を指差した哀は小さく頷いた。

まさか…

「そうだったのね!
江戸川君、本当に物知りね」

「この前たまたまテレビでロシア人が書いた手紙の写真とかが映ってたから…」

江戸川…
哀の言っていた江戸川コナンという偽名を使っている彼のことか…
てことは、この子が噂のゆきちゃんの息子さんってわけだ
なるほどね、知識量は流石だと認めてやろう

知らぬ間に机の周りに人だかりが出来ていて、皆が俺のひらがなを見に来る始末。
なんだこれ、超帰りたい。

「ほら、皆席について」

もう帰りたい。
煙草が恋しい。
給食も至って普通。
昼食後の一服が恋しい。
やっぱりこんなことは毎日やってられない。

「やっぱり此処にいたのね」

昼休み、屋上の隅っこで煙草を吸っていたら哀が隣にやってきた。

『やってらんねー、もう帰る』

「遅刻してきたのに早退なんて、いい身分じゃない」

『出席日数だけクリアすればいいんだから問題ねーよ、ちゃんと計算してる』

「それで、今日は休むつもりだったの?」

『もちろん』

「じゃあどうして来たのよ」

『強制連行
学校から保護者に連絡が入ったみたいで保護者に車で拉致された』

「あら、保護者が見つかったの?」

『まーな、そこそこ信頼できる』

「それよりこの前の話の続きだけど…」

『何?』

哀の隣にはさっき俺の文字を分析してきた彼。

「紹介するって言ったわよね」

『新ちゃんねえ…』

「おい、どういう事だよ、灰原」

「あら、この前博士の所でニカの事は話した筈だけどもう忘れたの?」

『ゆきちゃんの息子さんがまさか俺と同じ薬飲まされてたなんてな
初めましてだけど、そうじゃねーよな?』

「…ああ、その顔ならガキの頃から何度も見た
母さんがしょっちゅう話してたからすぐにわかったぜ、ニカ」

『この前もゆきちゃんが店で新ちゃん新ちゃん言ってたから店に連れてきてもいいって言ったんだけど、お互いこんなんじゃ無理な話だな』

トン、と灰を落としてから煙をゆっくり吐き出す。

「この前母さんからその話も聞いた」

『あ、そう
噂じゃ今は2丁目の家は空き家になってるらしいじゃねーか
どこにいんの?』

「5丁目の毛利探偵事務所」

『5丁目?』

…最近やけに縁のある5丁目だな
しかも毛利探偵事務所だなんて…あー、やだやだ

「5丁目が何か?」

『哀には関係ねーよ』

「……」

『所用で何かあったら挨拶しに行ってやるよ
生憎俺の店は20歳未満立ち入り禁止なんでね』

「で、灰原の話じゃ情報屋らしいじゃねーか」

『まあな
俺もお前も同じ立場、情報の共有ならしたっていいけど…情報料はきっちり頂くからな
仕事の依頼方法は常連客にでも聞いてくれと言いたいとこだが店には来れねーし…どうしようかな』

少し考えてからポケットを弄り、一枚入っていた名刺を取り出した。

『ほらよ』

工藤新一にそれを放って煙草を咥え直す。

『基本的に情報料は煙草代に上乗せだ
煙草を買わなきゃ情報は買えねーからな』

「それなら問題ねーよ、小五郎のおっちゃんが喫煙者だからな」

『…あ、ちょっと待った』

「何だよ」

『毛利探偵事務所ならポアロの店員は事務所のこと知ってるんだろ?』

「まあ…」

『じゃあ勿論、お前もポアロの店員のことわかってるんだろうな?』

「ああ」

なら安室さんに頼んで持ってってもらうか
毛利小五郎については多少調べたけど、正直店を知られたくはないし…

『ならノーリに頼んで買わせるから、その時に煙草と一緒にメモリーカードは受け取ってくれ』

「ノーリ?」

『ロシア語で0の事だ』

「ゼロって、まさか…」

『それで通じるなら話は早い、後は俺から彼に話しとくから
まあ、組織のことについては俺も調べてるが今んとこ一番知ってるのは哀だろうな』

煙草の火種を消してからもう一本取り出した。
すると携帯が震えたので電話に出た。

『はい、バローナの店長代理ですけど…

だから店の前に貼ってんだろ、今店の前でそれ見てんならその通りにしか営業しねーよ
仕方ねーだろ、学校行く羽目になったんだから…行く予定なんかこれっぽっちもなかったのに…やってらんねーよ

俺に用事なら放課後まで待つんだな
じゃーな』

電話を切ってからジッポーで煙草に火をつける。

『悪い、FBIの顧客だ』

「FBI?」

『ああ、それなりの仕事はしてるからな』

秀一が店に来たってことは、今仕事の空き時間だったわけか…
惜しいことをしたな、折角久しぶりに秀一に会えると思ったのに
そういや秀一の情報網からデータを漁ってたけど、確か一緒に行動してたFBIの女が工藤のことをクールキッドって呼んでたっけ…
今日も何かと煙草と縁のある日で何より

『いいのか?もう授業5分前だぜ』

「いいのかって…お前は?」

『バックれる』

「貴方の保護者も大変そうね…」

「同情するぜ…」

「また保護者が呼び出されるわよ」

『それは勘弁、仕事の邪魔して朝も怒られた』

「だったら俺らも、強制連行するからな」

『え?』

煙草を抜かれて二人に手首を掴まれた。
哀が煙草の吸殻を上手い具合に始末したかと思えば、二人に引きづられるようにして屋上から教室へと拉致されてしまった。

おーい、なんで保護者以外にも拉致されなきゃなんねーんだよ…
もう帰りてー…






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