Paris, il m'aime.

パリ7区、オルセー美術館。
ため息を吐き出してカフェで3時のおやつを食べていました。

…帰ってきてしまいました
何故パリへ戻ってきたのかと言うと、仕事ですが厳密に言えば仕事でもないし…
ていうか意味のない仕事?
本当に意味がありませんね…

24時間前。

『いい加減にしてください!
外ならともかく、俺が間借りしてる所で何度同じことしたら気が済むんですか!
俺、また貴方達に殺されるところでしたよ!』

工藤邸のリビングにイケメン2人を正座させてお説教。
年上のイケメンに説教するなんてレアなことはなかなかありません。
秀一なんて説教をしているというのに呑気にウイスキーに手を伸ばそうとしたので流石に成敗してやりました。

『全く反省の色も見られず毎度毎度、よく同じことを……』

言葉を止めて部屋の方を振り返る。
電話です。
仕方ないのでスマホを取ってきて、リビングでイケメン達を見下しながら電話です。

『Allô, qu'est-ce qui se passe?』
(もしもし、どうしました?)

本部でした。
久しぶりだなあと思っていたのも束の間、局長の声が緊迫していたので何事かと思ったのですが。

『...Quoi?』
(はい?)

[Pourquoi tu ne m'as rien dit? Pourquoi tu ne m'as rien envoyé les messages? Pourquoi tu ne m'as...pourquoi Louis...!
Tu me manques trop! Rentre à Paris...!]
(どうして私に何も言ってくれないんだね?どうしてメールもしてくれないんだね?どうして…何故だ、ルイ…!
寂しいんだよ!パリに戻ってきてくれ!)

よくわかりません。

『Désolé, je ne comprends pas, directeur...
C'est vous qui m'avez dit que c'était mon travail au Japon, n'est-ce pas?』
(すみません、よくわからないんですが、局長…
あの件は日本での俺の仕事だと言ったのは貴方ですよね?)

[Oui, carrément.]
(ああ、いかにも)

『Et je vous ai envoyé les massages à propos du travail et les rapports aussi, n'est-ce pas?』
(それに貴方にその件でメールも報告書も送ってますよね?)

[Oui, je l'ai lu.]
(ああ、読んだよ)

『Bah...je n'ai pas envoyé quels messages alors?
J'ai manqué de quoi?』
(え…でしたら何のメールを送ってないって言うんです?
何が不足でしたか?)

[Des messages en privés! PERSONNELLEMENT !
Je t'inquiète si tu vas bien au Japon, si tu as malade, comment tu passes au Japon...]
(プライベートのメールだよ!個人的な!
私は君が日本でどうしてるのか、病気になっていないか、どんな生活を送っているのか…心配なんだ!)

はいいいぃぃぃぃ!?
それってただの過保護ですよね!?
局長、貴方まで俺を子供扱いですか!?

呆れて壁にのめり込みながら、とりあえず顔を見せてくれだの帰ってこいだのと言い負かされたので1週間だけ帰ることにしました。

『…過保護な局長のせいで1週間パリに戻ります』

ずっと正座させていたイケメン2人にそう宣言して、お仕事道具や衣服だけを纏めて航空チケットの手配。
折角寝ようと思った矢先にこれですか、と思っていたら秀一は折角だから泊まると言い出し、安室さんはまた1週間お預けですかとベッドに入り込んできました。
よくわからないイケメンサンドイッチで一晩を過ごし、夜の便でフランスへ帰国。
そして今に至るわけであります。

ていうか仕事っていう仕事もないのになんで帰らせたんだよ…
安室さんとの埋め合わせがどんどん延期されて行くんですけど…

ため息を吐き出してカフェを出て、チュイルリー公園を散歩しながら本部へ戻ることにした。
俺は基本的に本部でも自由人です。
本部に戻って局に入ったら、日本土産をねだられたのでデスクに置いておきました。

「Ça fait longtemps Louis!
Combien de temps où t'étais au Japon?」
(久しぶりだな、ルイ
日本にはどのくらいいたんだ?)

『3 mois.
Juste 3 mois! Mais pourquoi il m'a forcé de revenir à Paris!?
C'est lui qui m'a ordonné d'aller au Japon...!』
(3ヶ月
たった3ヶ月!それでなんでパリに強制送還!?
俺に日本に行けって言ったの、局長だよ!?』

「Il pense que t'es juste un petit garçon, ah?」
(局長はまだお前が子供だと思ってんじゃねーの?)

『Putain, il n'est pas mon père...』
(何それ、俺の父親でもないんだけど…)

久しぶりの同僚にも笑われる始末。
マドモアゼルもヒョコヒョコやってきてお土産のお菓子を食べ始めたのだが、俺の同僚に手招きされてやってきた。
そんなに俺が此処にいるのが珍しいか。

「Louis, ça fait longtemps...!」
(ルイ、久しぶりね…!)

「Hé, viens ici! Ça sent bon, non?
Il change le parfum...!」
(おい、来てみろよ、いい匂いしねーか?
コイツ香水変えたぜ…!)

「Ah oui, ça sent bon...!
J'aime bien ça, avant, t'étais un peu...ah comment tu dis...comme, t'as déguisé un 'adulte'.」
(あ、本当だ、いい匂い
私、好きよ、前は貴方少し…その、なんて言うか…"大人"を演出していたって言うか…)

おい。
皆してそんなこと思ってたのかよ。
なら言ってくれよ。
おかげで散々な目に遭ってたんだからな、あの香水のせいで。
まあ、ちょっと呆れつつも安室さんのチョイスは確かだったようで、後輩マドモアゼルにも年上マダムにも同僚にも可愛がっていただけるくらいにはいい匂いだったらしい。

な、何なの、あの人…

結局局長に呼び出された時には日本での生活が云々と色々話をさせられて、始終仏のように笑ってうんうん、と頷いていました。
局長もお喋りさんです。

や、やはり父親状態だ…
何故だ…俺はそんなに信用ないのか…
そんなにガキっぽいのか、この野郎…

とりあえず1週間はパリでお仕事です。
翌日は久しぶりに市内の潜入捜査に同行したり、行きつけのカフェでサンドイッチを買ったり、夜中バーに行ってお酒を飲み明かしてきました。
週の半ばになって、不本意ながらママンにパリに1週間だけ戻ってると連絡したら、その日は丁度非番だったらしいので顔くらい出したら?と言われてしまった。

…ひ、非常に気まずい
ママンだけならまだいいけれど、パパがいたら厄介だから手短に済ませよ…

というわけでパリ3区にある、実に何年かぶりの実家へ戻ることにしました。
あ、この前まで住んでたアパルトマンも長期任務の時に解約したので今はホテル暮らしです。
そして実家に戻った瞬間、ママンは俺を見てニヤッと笑いました。

「蛍、貴方、新しい男でも作ってきたでしょ」

なんでわかるんですか!?
ママンはスーパーマンですか!?

ママンは日本人なので日本語解禁。
今はご厄介になってる日本人がいると伝えておいたらニヤニヤされました。
それから一応は親なので右耳の事も伝えておいて、仕事も悪くはないと言っておきました。
厄介なのはパパです。
この仕事に就くのに相当反対していたし耳のことでそっけなくされてきて、しかも軍警察の人間なので厳しいしちょっと、苦手ですね。
ママンも結婚してフランス国籍を取った後は軍警察で働いてます。
日本では警視庁で働いていたそうです。

「お父さんね、貴方のことあれでも心配してるから」

帰り際にそんな事を言われ、ちょっと複雑な心境で実家を後にしました。
アパルトマンの階段を出た所で黒人さんに譲ってもらった煙草を吸っていたら、ちょっと甘い匂いがしたので苦笑。

こ、これはまさかカナビスかな…
煙草じゃなかったんかい…

そしてそれを吸い終わった頃、丁度アパルトマンにイケオジが向かってきた。

え、超イケオジ…流石パリだね
こんな渋くてカッコいい人、このアパルトマンに住んでたっけ…?

ボケーッと目で追っていたら、不意にイケオジは手に持っていた新聞で俺の頭を叩きました。

「Quand je te permets de fumer? Louis」
(いつ私がお前の喫煙を許したんだ?ルイ)

…あれ?

アパルトマンへ入っていってしまったイケオジを目で追ってから、思い出した。

……うわー!あれパパだ!
なんかめっちゃイケオジになってたけど、あれパパじゃん!
なんで?
なんであんなイケオジになってんの!?

貫禄たっぷりのイケオジでした。
何年まともにパパの顔を見ていなかったかが見て取れますね。
はあ、とため息を吐き出してホテルに戻り、とりあえず秀一にテレビ電話をしました。

[仕事はどうした?]

『あるわけないでしょ
局長のホームシックっていうか俺シックで帰ってきたようなもんなんだから…
とりあえず本部の仕事はまちまち、言われたら手伝うけど、それ以外はとりあえずパリ散歩してるかなあ…』

[それで、そんな顔してる理由はあるんだろう?]

『…実家に戻った
ママンにね、男作ったでしょって会って一番に言われた
ねえ、ママンてエスパーなの?びっくりしちゃった…』

[流石だな]

『感心してる場合じゃないでしょー…
外で黒人に煙草もらって一服してたらカナビスだったっぽい、やられたよ
そしたらさー…めっちゃくちゃイケメンなおじさまがやってきてね、新聞紙で頭叩かれた
なんか貫禄あって、正義感強そうで私服だったからまさにパリジャンでね…』

ワインを開けてグラスに注いでから秀一を見た。

『パパだった』

[……]

『ママンもね、帰り際にさ、パパがあれでも俺のこと心配してるとか変なこと言い出すしなんかもうよくわかんなくてさー
あれが心配してる人の態度なのかな?
DGSEに入ったのも組織に潜入してるのも、パパが関わってた案件が関係してるし、もしかしたらそれバレてんのかなー、とか思ったりして…』

[それは俺にわかるわけがないだろう]

『ですよねー…』

ワインが進みます。
美味しいです。
何をこんなぐちぐちと家庭の事情を秀一に話しているんでしょうか。
だんだん申し訳なくなってきた。

『なんかごめんね、忙しいのに変な話に付き合わせて
やっぱり秀一に定期的に連絡とらないと安心できないね』

[それは有難いんだが、奴にもちゃんと連絡取ってるんだろうな?]

『え?』

一瞬で酔いが冷めました。

[まさかまた連絡を一度もしないつもりか?]

『わ、忘れてました…
というかなんかその方が日本戻った時に尚更嬉しく感じたりしない?気のせいかな?』

[呆れて物も言えん…]

あ、そうですか…すみませんねえ…

[帰りの便くらい伝えておくことだ
そしたらまあ、奴の事だ、迎えには来てくれるだろう]

『え、迎えなんていいよ、忙しい人なんだし』

[とにかく俺に連絡する前に普通奴に連絡すべきじゃないのか?]

『…はい、わかりました、今からします』

イケメンに慰めてもらおうとしたら説教されて終わりました。
なので別のイケメンに連絡をしてみようと思います。
しかし実際連絡して何を話せばいいのかよくわかりません。
通話ボタンをタップしようかどうかずっと迷っていたら突然タブレット端末が音を立てたのでビクッとして後退りしてしまいました。

え、え、どうしよう…

とりあえず及び腰で通話ボタンをタップしてみました。

『も、もしもし…』

[蛍さん、いつになったら電話に出られるんですか]

『え?』

スマホの着信履歴を確認してみたら毎日一度、同じ時間に着信がありました。
これは、どういう事でしょうか。

『あ、あの…すみません、今丁度連絡をしようと思っていたところに安室さんの方からこちらに電話が来て…』

[時差を計算したうえで仕事の時間外に電話をかけていたつもりなんですが]

『そ、そうみたいですね…』

[それで、いつ戻られるんです?]

『え?あ、えっと……3日後のエールフランスA342便パリから東京への直行便ですね』

[何時発ですか?]

『21時半ですね…
三日後で12時間のフライト予定、それから時差を計算して…えっと…日本時間だと…』

[わかりました、その計算は必要ありません
とりあえず声が聞けて安心しました、パリに到着したのかすら連絡して下さらなかったので]

え、そういうのって連絡するものなんですか…!
しかもだいぶ怒ってるよ…

[それはそうと、なぜそんなに画面から離れていらっしゃるんです?]

『え、いや、その…で、電話がかかってきた時に驚いてしまったというか…』

[…馬鹿なんですか?]

うわ、久しぶりの馬鹿です…
なんかもうすみません
ちょっと近付いてみたけど、あれ、貴方、安室さんじゃありませんね?

『…あの、もしかして…降谷さんですか?』

[今日は生憎これから仕事なので]

も、もったいないことをしたー!
折角のおスーツでテレビ電話なのに、なんであんな遠い所にいたんだ…!
もっとスーツ姿を拝み倒すべきです!
ほら!素敵!
確かに背景警察庁ですよね、え、仕事の合間に電話してくださったんですか…!

『……』

[あの、蛍さん?]

『…あ、の…』

ごめんなさい、本当に素敵です、素晴らしいです
もう堪りません…
ねえ、もう我慢できないよ、やっぱりあれだけ毎日ごはん食べてたのに、1週間だとたかをくくって連絡取らなかった俺が馬鹿でしたよ…
会いたいです、ていうかなんていうか、もう、あの、その…

『…好きです、会いたい、だから電話したくなかったんです!馬鹿!
したら会いたくなっちゃうし我慢してたんです!
なんでそんな事するんですか、馬鹿なんですか!』

うわああ、超会いたいです…
胸板、背筋、恋しいです…
ねえねえ、もう1人でホテルなんて寂しくなってきちゃっ……

[……]

あ、イケメンが困ってる、どうしよう
何かしたかな…

イケメンは一瞬画面から消えて、ドアの音が聞こえた。
暫くして戻ってきたイケメンは何事もなかったかのようにしていました。

[すみません、部屋の外にちょっと人の気配がしたもので…
規制線張ってきたので構いませんよ、何でも仰ってください]

え、規制線て何ですか…
貴方、なんで警察庁の建物内に規制線張ってるんですか

『え、いや、もういいです…
その…言いたいこと言っちゃったんで…』

[録音できていなかったのでもう一度お願いしたいのですが…]

『録音!?』

[ええ、一応記録のためにと…]

この人、馬鹿です…

『…日本に戻ったら何度でも言って差し上げますよ!
もう切りますよ!?』

[あ、でしたら一件そちらで確認していただきたい案件がありまして…]

急にお仕事かよ!
何この人!
まあ、降谷さんでしたら仕方ないですけどね、もう…

『仕事でしたら本部の資料室にも入れるので一応お受けしますけど…』

[いえ、そんなに大掛かりな仕事ではないのですが…
フランスの猫の好きな食べ物とか飲ませても良いもの、それから生態について調べておいていただけます?
これは貴方にしかできない仕事なので]

フランスの猫の生態って言われても、日本と変わらなくない?
え、何、俺に動物愛護団体にでも行けって言ってるんです?

『日本にも動物愛護団体くらいあるでしょう?』

そしたら一気に冷めた顔をされた。
それからため息。
え、なにそれ。

[まだわからないんですか!
貴方の好きな食べ物とフランスの飲み物やフランスでの生活を教えてくださいと言っているんです!
貴方にしかできない仕事だと言ったでしょう!?
まだ比喩がわかっていないんですか!?]

『えっと…』

[貴方の事は一番仕入れたい情報ですよ]

この人、またデータ化する気だな…
俺のこと知ってどうするっていうんでしょうね…

[そろそろ仕事に行くので、ちゃんと調べておいてくださいね
あ、それから途中で僕が連絡すると返って寂しくなるということなので、帰国されるまでこちらから連絡はしないようにしますね]

……連絡、なし
あと3日間イケメンとのお喋りなしで過ごせって言うんです!?

『えっ、降谷さん、ちょっと待っ…』

あ、でも言い出しは俺でした…
後悔しました…

真っ暗になったタブレットの画面を見ながらワインを飲み、そのままベッドにダイブして一日を終えました。
あと3日、仕事に没頭すればきっと大丈夫なはずだと信じてこのまま寝ようと思います。

イケメンに、会いたいです…

そして翌日本部に行ったら、また局長に呼ばれて局長室で仏のような顔をしてお喋りをするだけで午前が終わりました。
なんて楽なお仕事でしょう。
せめてハッキング祭りでもさせてくださいよ。
局長、早く日本に帰らせてください。







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